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西表島、アダナデの滝その⑨けものの気配

アダナデの滝からの折り返しは、一度通っている道なのに太陽の位置の変化か、草木や岩の影の変化なのか初めて歩くところのようだった。ほどよく疲れが溜まり、アダナデの滝に向かう午前中と比べて滑りやすい岩に足を取られたり、小さな水溜まりの底の石を踏み、足がもつれる。膝丈くらいの岩の段差も、しゃがんだ姿勢になり手で体を支える事も増えた。膝や肘を岩にぶつけなから歩く。でも、テンションが上がりっぱなしの私だから、気持ちとしてはアスファルトで舗装された道を歩いている時とさほど変わらない気分だ。相変わらず所々で道がなくなる。そんな時は飛び込んで泳ぐ。そしてまたテンションが上がるのだ。

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そしてまた歩く、岩にぶつかる。

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少しだけ油断した瞬間に、また右膝を岩にぶつけた。今まで以上の痛みが走った。膝を確認したいがレギンスを履いているので確認できない。キズになっていないか気になったが、そのうちまたテンションが上がるポイントだ。水に飛び込むドボンが終わるとすっかりその痛みと膝の心配事は忘れていた。

岩場が終わり、すっかり干上がった干潟を歩いていると、西表島ティダカンカンのツアーガイドKさんが立ち止まって足元を指さす。指さしの先にあったもの、それは午前中、アダナデの滝に向かう時に干潟に付いたKさんの大きな足跡。そして、その足跡の上に桜の花びらのスタンプを押したような真新しい足跡だった。

「イノシシだね」ツアーガイドのKさんが教えてくれた。

リュウキュウイノシシは小型のイノシシで体長は約50~110cmほどで体重は20~50㎏、環境省のレッドリストの絶滅危惧のおそれのある動物に登録されている。

私たちが通った後に同じ場所をイノシシが通った。足跡をたどると山側から下流の仲良川に向かうように歩いていて、途中で道を外れて山の中に入っていったようだ。もしかしたら午前中、私たちが歩いているところを草影からじっと見つめていたかもしれない。私がジャングルにお邪魔しているのに、ジャングルの住人に気を遣われてしまったのだろうか。イノシシ、ごめんね、でもありがとう。

ようやく置き去りにしていったカヤックが見えてきた。このツアーも終盤、あとは来た川を帰るだけ。飛び石トントンミーともお別れだ。

数時間ぶりにカヤックに乗り込むが、帰り道のヌバン川はツアーガイドKさんの予想以上に干上がった。今日は新月。ド干潮でカラカラに乾いてしまったのだ。所々は水が残っていてカヤックに乗り進むことが出来るが、3分もしないうちにカヤックの底とヌバン川の底が擦れてズズズっと砂の音と共に私のお尻にも砂の感触が響く。水が極端に少ない所はカヤックから降りてカヤックを押す。カヤックに乗ったり、降りたりを繰り返してようやく十分な水量の所までたどりついたが、すぐそこに仲良川との合流が見えたので、結局、ヌバン川を漕いだ記憶が飛んでいます。

仲良川に合流した頃には満潮に向かって海が動いていた。パドリングをやめるとカヤックは川の上流に押し戻されてしまう。海からの水がどんどん仲良川に流れ込んでいることがはっきりと分かった。つづく。

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