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医師としてあまり口にしない技術的な悩み③


医者の仕事でやはり技術的に限界を感じます。
医療業界以外の方も共通の限界を感じている方もいるかもしれません。
専門外の方でもわかりやすいように心がけながら解説します。

多くの情報を取り入れれば入れるほど、判断にブレが生じる、です。

医者として、経験が増えていくにつれ、
駆け出しの頃に比べて、典型的な患者については、処理が早くなってくるので、
仕事に余裕が出てきます。

その余裕で、自分が見ている以外の情報を見る癖がついてきます。

なぜかというと、会社の部署と同じように、診療科という特化した部署で仕事をするので、
仕事の種類を限定して、処理効率を高めようというシステムになっているからです。

例えば、脳神経外科の医師が、皮膚科もみて、麻酔もかけて、脳外科の手術をしていたら、効率が悪いし、経験が少なくて時間がかかったり、間違ったりするかもしれません。

なので、基本は同じ仕事ばかりやることになります。専門を決めると、病院によって多少の違いこそあれ、同じような仕事をすることになります。

現在では、電子カルテがどこの病院でも導入されています。

一人の患者のカルテを開くと、主治医の診察内容から、全ての検査、紹介状までなんでも見られます。

その患者の付随情報がすぐに全部見られると思ってもらえるとわかりやすいです。

自分の仕事のためだけの情報を見るのに、カルテを開くのですが、他の情報が見られるため、
見てみぬふりは難しいですから、それらも考慮して自分の仕事に当たるわけです。

となると、肺に肺炎の像が写っていて、肺炎という診断を下そうとしても、
カルテで診察の時の情報を見ると、咳も熱もないではないとなると、頭の回転が失速します。(実際にはこの類のことはあるあるなので、失速することはありませんが)
肺炎だとちょっと矛盾するのです。肺炎は、通常咳や熱の訴えが多いです。

でも、高齢者だとありえますから、否定はできないものの、他の病気の可能性を探し始めます。

となると、肺癌(このケースでは専門用語では、浸潤性粘液腺癌)も考えねばならないとなります。

情報が付加すると、矛盾する情報が出現する確率が上がることがわかっているので(専門用語では偽陽性率、偽陰性率と言います)、間違えるケースがどんどん上がってきます。

どの情報に重きを置くかどうかで、結論が変わってきてしまうのです。

実は多種類の情報を統合して判断すると、ブレてしまうというのは、研究上も証明されています。
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この弊害をもろに受けています。
判断がブレブレになるのです。

それは、今まで仕事の結果を集計するとはっきりわかります。
あるケースでは、ある判断をしているのに、別の同じようなケースでは、全然別の判断をしていて、同じ人間かと疑うほど、全く違ったりします。

本当に、ダニエルカーネマンの言う通りのことが起こっています。

全く悩ましい限りです。

続く