碧守キャベツ卓CoC「恐怖!姫山のブサイク伝説」後日談SS
こちらのSSは、2019年10月14日に碧守キャベツさんKPで開催された
クトゥルフ神話TRPGのシナリオ「恐怖!姫山のブサイク伝説」に登場したPC達の後日談を書いたものです。
当然ですが、シナリオのネタバレを含みます。
読む前に、セッション配信のアーカイブを見ておくことをオススメします。
アーカイブのURLはこちらになります。
https://youtu.be/5a9dCdq5VB4
よろしい方のみ、スクロールしてお進みください。
『アイドル・中央坂ニコ、山奥の村の古井戸に落下し重傷』
『なぜ山奥の古井戸に? 自殺未遂の可能性』
『人気急上昇中のアイドルの闇とは』
「…………はぁ」
新聞や週刊誌に並ぶそんな文面を見て、私―――中央坂ニコはため息をつく。
病室で寝ているのも暇なので、売店で購入してきたのだが、買わなければよかったと思う。
やっかいなことになっちゃったなあ、とまたため息が出る。
一か月ほど前。
私は高校時代の先輩の北森ももさんと、山口県のご当地アイドルのライブに行った。
そこでちょっとした事件に巻き込まれ……その結果が、この重傷だ。
全治二か月を言い渡され、その間はアイドル活動も強制休業。
方々に迷惑が掛かってしまうと思っていたけれど……まさかマスコミからこんなことを書かれているなんて。
「これから、どうしよう……」
そんな、弱気な言葉が口から漏れる。
二か月もアイドル活動を休んでしまっては、ファンが離れて行ってしまう可能性が大いにあるし、
それに加えてこの報道。
今は病院の人がマスコミを止めてくれているんだろうが、復帰したら何を言われるかわからない。
ちょっとした問題でマスコミに好き勝手言われ、立ち消えていったアイドルの数々を知っているだけに、怖かった。
「アイドル、引退かな……」
最悪の状況を想像して、ふるふると首を振る。
いやだ、考えたくない。地下アイドル時代から頑張ってきて、やっとここまで頑張ったのに。
初アリーナライブの楽しかった光景を思い出すと、余計悲しくなって涙がこぼれる。
―――コンコン、ガラッ
「ニコちゃーん! お見舞いに来ましたよー! 体調はだいじょう……え、ニコちゃん!?」
「あっ……! も、ももさん……」
そこに現れたももさんが、私を見て驚いた表情を浮かべる。
いけない、忘れてた。今日はももさんが様子を見に来てくれるって言ってたんだ。
私は慌てて、目に浮かんだ涙をごしごしとこする。
「どうしたんですか!? どこか痛いんですか!?」
「い、いえ、なんでもないんです……ちょっと目にゴミが……」
「嘘つかないでください! いったい何が……」
そう言いかけたももさんの口が止まる。
何かと思いももさんを見ると、ももさんの視線は私が買った新聞や週刊誌に向いていた。
「ニコちゃん……読んだんですね」
「う……」
「周りで言われてること……見たんですね」
「…………」
怒っている。
そう感じて、私はももさんの顔をまともに見れずにうつむいてしまう。
「だめじゃないですか……こういう疲れてるときに、情報誌とかあんまり読まないほうがいいって、前に言ったでしょう?」
「ご。ごめんなさい……暇だったから、つい……」
そう、私は前にももさんに注意されていたのだ。
今にして思えば、ももさんはマスコミの報道を知っていたからそう言ったのかもしれない。
でも、見てしまった。……暇だった、は言い訳だ。本当は、周りにどう見られているのかが気になってしまった。
ずっと休んでいて、ファンの心が離れていかないか心配で。情報誌を見て安心したかった。
その結果が、これだ。自業自得過ぎて、笑えてくる。
「ニコちゃん!!」
「は、はい」
俯いている私に、ももさんが怒鳴るように声をかけてくる。
慌てて顔を上げると、ももさんは睨むようにまっすぐこちらを見据えていた。
「ニコちゃん……今自分を責めてたでしょ」
「えっ……な、なんでわかったんですか?」
「探偵ですから、ニコちゃんの考えてることくらいわかります」
そう言って胸を張る。
ももさんは時々、本当に洞察力が鋭い時があって、怖い。
「だめって言ったのは私ですけど……それで読んじゃったんなら、それはもうしょうがないんです。
もっと強く言わなかった私も悪いですし……とにかく、ニコちゃんが自分を責めるのは違います」
「……はい、ありがとうございます」
「それでね、ニコちゃん」
ぎゅっと、ももさんに手を握られる。
その手はとても暖かくて、心地が良かった。
「私に、依頼をする気はありませんか?」
「い、依頼……ですか?」
「はい。今回の一件、今は間違った報道が出回ってしまってますけど……
真実を知っている私が、ニコちゃんに闇なんかないって証明します!」
さらに手を強く握られ、まっすぐな目でももさんはこちらを見る。
なんだか、すごく……ドキドキする。
「今回の件は、住職さんやこなたさんも証言してくれるでしょうし……
それに私は東西南北探偵です。他のみんなもきっと力になってくれます!」
東西南北探偵。以前のアリーナライブで私の依頼を受けてくれた、ももさん含めた4人の探偵のことだ。
あの時は結局、何が何だかわからなかったけど、無事にライブが終わるよう助けてくれて、とても心強かったのを覚えている。
「ニコちゃん。私を信じて、任せてくれませんか?」
そう言って、ももさんはふわりとほほ笑む。
そんな、ももさんの優しさに。ももさんの強い意志に、私の目からまた涙がこぼれた。
「わ、ニ、ニコちゃん!? 嫌でしたか!?」
「い、いえ、違うんです。……嬉しくて」
そうだ。私にはこうして、あたたかく支えてくれる人がいる。私自身を見てくれる人がいる。
そうして支えてくれる人がいる限り。アイドル活動を辞めるなんて、考えられない。
私自身も、強く立ってがんばっていかなくちゃ。
「ももさん……お願いしても、よろしいでしょうか?」
「……! はい、もちろんです!」
私がそう言ってももさんの手を握り返すと、ももさんはぱあっと笑顔になってそれに応えてくれた。
ああ、本当に、頼りになる。
「えへ……ももさんがいてくれて、本当によかったです」
「そりゃいますよ! 私はニコちゃんの先輩ですから! 頼りにしてください!」
「はい、ありがとうございます」
力強い言葉に、本当に安心させられる。
さっきまでの悲しい気持ちはどこへやら。今は穏やかな笑顔を浮かべることができた。
私はアイドル、中央坂ニコ。
どんな逆境が待ち受けていたとしても。こうして支えてくれる人が、応援してくれる人がいる。
一人でも、そんな人がいてくれるのならば。私は、歌い続けよう。
だってそれが、アイドルなのだから―――。