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燧ヶ岳、熊沢田代を彩るキンコウカ

尾瀬御池から燧ヶ岳を目指す登山道は急坂や岩の転がる急斜面があり歩行時間も長くなる。厳しい行程だが、途中にある2つの傾斜湿原、広沢田代(標高1756m)と熊沢田代(標高1954m)の開放的な光景に癒やされる。
7月27日の湿原には、ワタスゲの白い綿毛の穂に代わり、キンコウカの黄色い花が湿原を覆うように咲き誇っていた。金色に光り輝くキンコウカ(金光花)は、高山の湿原に群生して咲く。

広大な熊沢田代を望みながら、2つの池塘に続くひと筋の木道を歩いて行こう。キンコウカの黄色と緑に彩られた天上の湿原だ。
花に囲まれた古びた木道にも趣を感じる。
緑色の細い葉が美しい。尾瀬ヶ原には、この細い葉をアヤメの葉に見立て「アヤメ平」と名付けられた湿原がある。アヤメ平はキンコウカの群生地だ。

キンコウカの花を観察しよう。
花茎の先に黄色の小花をたくさん咲かせ、細い花被片が星形に連なり、花糸は黄色の微毛が付いて膨らんで見える。花糸の先端には橙色の葯がある。
オオマルハナバチが橙色の葯を目指して飛んで来た。私の気配を少し気にしながら、花から花へただ1つの役割、花粉集めに取り組んでいる。

花粉が橙色なので、後ろ脚にまとめた花粉団子も鮮やかな橙色になっている。

ミツバチも飛んで来た。こちらの花粉団子も鮮やかな橙色だ。ニホンミツバチとセイヨウミツバチの見分けは一瞬では難しいが、外来種のセイヨウミツバチのようだ。日本ではセイヨウミツバチの野生化はないとされているが、このような標高の高い所では繁殖しているのかもしれない。

キンコウカを上から見ると、橙色の葯が花のアクセントになって美しい。

マルハナバチやミツバチが忙しく活動するキンコウカの横に、サワラン(沢蘭、別名は朝日蘭)が咲いていた。サワランの花の美しい紅紫色は一度見たら忘れられない。
追想すればサワランは、雪迎えの里・白竜湖(山形県南陽市)の周辺にも、ツルコケモモやミタケスゲ、ミツガシワ、サギソウなどと共に生育していた。標高200m程度の白竜湖の周辺は、大谷地とよばれる泥炭地が広がり、洪積世末の最大寒冷期の時に入った植物群が残る貴重な環境、として注目されていた。温暖化の現在では信じられないが、尾瀬の高層湿原と同じような高山寒冷地の植物が、少なくとも昭和の後半までには存在していた。

ミツバチはキンコウカの花を飛び回り、紅紫色のサワランには訪れなかった。
広沢田代の池塘の周りには赤茶色のモウセンゴケ(毛氈苔)がたくさんあり、毛氈を敷きつめたように見える。
アキアカネがモウセンゴケに止まって動かない。気をつけないと、腺毛の先端に光る粘液に捕まってしまう。

同じ食虫植物として、ムシトリスミレ(虫取菫)やコウシンソウ(庚申草)か知られている。ムシトリスミレの小さな花はアヤメ平や至仏山で、コウシンソウは庚申山や男体山などで見ることができる。

ムシトリスミレはサイズが小さく見つけにくい。モウセンゴケと違って、葉の上にある粘液で小さな虫を捕らえる。
コウシンソウ(タヌキモ科ムシトリスミレ属)は湿気の多い切り立った岩壁に咲く。葉や花茎に粘液があり虫を捕らえる。
燧ヶ岳の熊沢田代に霧が降りてくる。刻々と変わる山の印象、咲く花と虫の繋がり、細やかな花の美しさ、山行の魅力は尽きない。

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モウセンゴケ(毛氈苔)は苔の仲間でしようか?
ムシトリスミレ(虫取菫)は菫の仲間でしようか?

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