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〈雪迎え〉空を飛ぶクモ展━ギャラリー遊糸

空を飛ぶクモ展について
 山形県南陽市の白竜湖周辺は、かつては湿潤な泥炭に覆われ、ツルコケモモやサギスゲ、ミツガシワなど高地に育つ植物が見られる湿田地帯だった。ここは「雪迎え」の里でもあり、晩秋の小春日和になると、青い空を背景に輝くクモの糸が次から次へと流れて来た。その情景は冬に向かう厳かな儀式のようで、人々は祈るような気持ちで「雪迎え」と呼んできた。
 厳しい風土に生きる人々から生まれたことば「雪迎え」に、心が動かされる。

晩秋の快晴無風の日、コモリグモの仲間が、脚を突っ張り腹部を上げて、複数の糸を放出する。細く白く輝く。©nishiki atsushi
「雪迎え」のクモは、周囲よりも高い所に登って空中に糸を出す。放出した10本以上の糸がパラシュートのような効果になり、一瞬のうちにクモは空に引き上げられる。上昇気流の良い条件をとらえ、引く力が強くなるようにたくさんの糸を出し、輝く糸によって舞い上がる。驚きの瞬間だ。©nishiki atsushi

 『ファーブル昆虫記』で有名なアンリ・ファーブル(1823-1915)は、卵嚢から出た後の子グモの分散飛行を観察し、数種類のクモの行動を記録している。❇
 一方、「雪迎え」は主に成体のクモによる飛行であり、晩秋(あるいは春先)における徘徊性のクモが多い。山形県南陽市白竜湖周辺では、錦三郎(1914-97)によって60種、その他の地域で観察したクモを含めると100種近くの飛行グモが確認されている。❇
 どちらも糸を出して空中を移動することは同じでも、子グモと成体の違いがあり、行動生態の考察では留意する必要があると思われる。

 時が流れ、日本では自然の変化や開発、強い農薬などの様々な要因によって、昆虫や鳥、植物などが減り、空を流れる「雪迎え」も少なくなった。

❇参考文献
・『完訳 ファーブル昆虫記 第9巻 上』 ジャン=アンリ・ファーブル
奥本大三郎 訳 集英社 2014
・山形県南陽市白竜湖周辺のクモ 
 錦 三郎・新海栄一・吉田 真
  KISHIDAIA,No.120,Feb.2022
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〈雪迎え〉空を飛ぶクモ 展
 2023.12.01-12.06
 12.03 雪迎えと写真の説明
    ギャラリー遊糸


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