燧ヶ岳の蝶、キベリタテハ、キアゲハ、クジャクチョウ
8月14日、尾瀬の御池から燧ヶ岳を目指す。広沢田代を通り、熊沢田代に着くと傾斜湿原が広がり池塘の間に設置されたベンチが見えてくる。
先客がいるようなので息をひそめて近づいてみると、高原の貴婦人キベリタテハ(黄縁立羽)で、これほど間近で見られるのは稀だと思った。
深みのある小豆色をした翅表は傷ひとつない状態で、つい此の前に羽化したような美しさだ。クリームイエローの外縁や瑠璃色の斑紋も印象的だ。
石の転がる涸れ沢を登り、8、9合目を越えてようやく俎嵓(マナイタグラ2346m)に到達すると、目の前に燧ヶ岳の最高峰、柴安嵓(シバヤスグラ2356m)が聳え立っている。
俎嵓山頂付近にはオクヤマアザミ(奥山薊)が咲いていて、キアゲハ(黄揚翅)が吸蜜していた。私が休息している間、キアゲハは岩盤に翅を広げて日光浴をしたり、頂上付近を敏捷に横切って見えなくなったり、いつの間にか舞い戻って来たりした。
俎嵓山頂の岩を見ていて一瞬驚いたことがある。
──尾瀬沼を背景に《岩怪獣》が顔を出している!
長英新道を下り尾瀬沼へ向かう。
途中にはマルバダケブキ(丸葉岳蕗)の見事な群生地があり、複数のクジャクチョウ(孔雀蝶 peacock butterfly)が軽やかに飛んでいた。
奥日光の千手ヶ浜にもマルバダケブキの群生地があり、そこではクジャクチョウの吸蜜行動は一度も見たことがなかったから、不思議で尊い光景のように思えた。
長い山道を降り、裾野のオオシラビソ林を抜けると浅湖湿原に出る。ここでは数羽の真っ白なシラサギが目に映った。
大江湿原に到着すると、ヤナギラン(柳蘭)が柔らかなマゼンタ色で湿原と尾瀬沼を彩っていた。
大江湿原では、イワショウブやサワギキョウ、ワレモコウ、ツリガネニンジン、コバギボウシ、オゼトリカブトなど様々な花が咲いて、ついつい長居をしてしまう。
大江湿原ではキアゲハの幼虫が、ミヤマシシウド(深山猪独活)の果実になりかけた赤紫色の花序に潜んでいた。尾瀬のキアゲハは、セリ科のシシウドなどを食草にして世代を繰り返している。平地の畑ではセリ科のニンジンの葉などを食べている。
何回か脱皮を繰り返し、その度に綺麗な色合いになる。美しく生まれ変わるためのプロセスを踏んているようだ。黒い幼虫が、最後には蛍光色のような黄緑色と黒色の縞々になるのは、逆にそこに鳥や厄介なハチ類を避けるための特別な仕組みがあるのかもしれない。
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尾瀬国立公園に聳え立つ百名山、燧ヶ岳と至仏山と会津駒ヶ岳。名峰のそれぞれの特徴を調べて登ってみよう!
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