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[ 電車の中に赤い傘 ]:シロクマ文芸部(赤い傘)

↑こちらの企画に参加してみました〜
ショートショートです😊♪


画像: かたどり/illustAC


[ 電車の中の赤い傘 ]

 赤い傘を持っている。
 昼下がりの少し空いてる電車の中。
 白のワイシャツに、黒のパンツ。
 いかにも会社員風の男性。
 右手は吊り革を握り、左手に少しカジュアルな黒いビジネス鞄を持っている。
 そこに刺さる赤い折りたたみの傘。
 男性が赤い傘を持っていても不思議では無い。
 でも、風貌から想像すると、違和感ハンパない。
 家を出るとき間に合わせで、奥さんかお子さんのものを持ってきたのかな?
 でも、今日は朝からいい天気で、午後から雨が降るという予報は出ていない。
 じゃぁ、奥さんやお子さんの忘れ物を届けに行くのかな?
 うーん、どう見ても仕事中の風貌、わざわざ忘れ物を届けに行くのも不自然だよなぁ。
 そうなると、この人の趣味なのかなぁ?
 お気に入りの傘。
 心配性で、いつも傘を持っていないと落ち着かない人なのかもしれない。
 一粒たりとも雨に当たりたく無い私には、その気持ち、よく分かります。
 うーん、でも、なんか赤い傘には理由がありそうな気がする。
 いや、待って。
 赤い傘を鞄に刺しているなんて、赤い傘を見てと言っているようなもの。
 もしかすると、何かの合図なのかもしれない。
 待ち合わせのサインとか。
 初対面同士、お互いがその相手だということが分かる合図、的な。
 えっ、このSNSな時代に?
 いや、そんな時代だからこそ、そんなことがあるのかも。
 相手は誰なんだろう。
 如何わしい交際だろうか?
 どうせなら、もっとステキな対面であってほしいなぁ。
 例えば、ずっとDMだけで会話をしていて、お互い気分が高まって、ついにリアルで会いましょう、みたいな。
 なにそれ、そんなこと本当にあるものなの?
 そうなら、結構楽しいじゃないの。
 あ、じゃぁさぁ、もしかして、この車両に、お相手のかたが乗っているなんてこともあるのかなぁ。
 あー、同じ電車だったんだー、なんて、後で盛り上がったりして。
 この車両に、他に赤い傘を持っている人はいないかなぁ……
 あ、いた。
 いたよー。
 白のブラウスにベージュのパンツ。
 肩より少し長い、ちょっとカラーの入った髪を後ろで縛っている。
 30代、40代くらいの女性かなぁ。
 折りたたみじゃない、赤い傘を片手にぶら下げている。
 さっきの男性からは、きっと見えない位置だね。
 えっ、どういう関係よ。
 いやいや、たまたま赤い傘を持っているだけかもしれない。
 でも、こんないい天気の日に、傘を持っているなんて、ここから見てもこのふたりくらいだ。
 しかも赤い傘だよ。
 そんなに見かけるもんじゃ無いよ。
 しかもしかも、ひとりは男性だよ。
 もうひとりは女性で、服装と全くマッチしてない赤い傘。
 これはもしかすると、本当に何かの合図なのかも。
 ふたりだけに伝わる秘密の合図。
 うわぁ、なに、なに、どうなの、どうなの。
 気になるー。
 でも、残念ながら、私はこの駅で降りなければならない。
 電車は止まる。
 車両の扉が開く。
 昼間だから、乗り降りする人は少ない。
 ふたりは降りる気配を見せない。
 どうする?
 私は降りなくてはダメ。
 でも、この後のふたりがめちゃ気になる。
 発車の音楽が流れる。
 もう直ぐ扉が閉まる。
 どうする、私。
 降りる? 降りない?
 赤い傘の、ふたりのこの後。
 気になる!

”ピロンピロン、ブシュー”

 ホームに立つ私の後ろで扉が閉まると、やがて電車は走り出す。
 しょうがないよ、私はここで降りなくちゃならないからね。
 ふたりのことは気になるけど、まぁ、そもそも私の妄想だから。
 いつも電車に乗るとやってしまう。
 人間観察。
 スマホの画面を見てるより、全然おもしろい。
 そして、今日も楽しかった。
 さてと、取引先に向かうかー。
 そうだ、途中で赤い傘を買って鞄に刺してみようかなー。
 ステキな出会いがあるかも……、
 なーんてね。


おしまい

#シロクマ文芸部

前回参加したお話はこちら

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にっこりみかん
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