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[ 赤い傘から聴こえる音 ]:シロクマ文芸部(雨を聴く)
↑こちらの企画に参加してみました。
少し長い短編? 小説です。
今回のお話をより楽しみたい方は、↓↓こちらから読むことをお勧めします。
![](https://assets.st-note.com/img/1717945059301-qHnRpZow63.png)
[ 赤い傘から聴こえる音 ]
雨を聴く話をされた。
きっと、こんないい天気の日に、私が傘なんて持っていたからだと思う。
しかも赤い傘。
目立つ。
取引先まで行く途中に乗った電車の中で、赤い傘を持った人を見た。
しかも、ふたり。
ひとりは男性。
ビジネスバックに赤い傘を刺していた。
それが、これ見よがしだったので、これは何か待ち合わせとかの目印なのでは、と私はかってな推理をした。
もしかすると同じ電車にそのお相手がいるかも、と見渡すと直ぐに赤い傘を持った女性を見つけた。
このふたりがどういう関係なのか、とても気になったし、この後の展開も物凄く知りたかった。
でも、取引先の最寄駅についてしまったから、私は仕方なく電車を降りてしまった。
ふたりのことが気になっていた私は、取引先へ向かう道すがら、赤い傘を買った。
何かの目印になるような気がしたから。
そしたら、取引先の人に言われたんだ。
雨を聴くって。
取引先はデザイン事務所、傘のデザインを手掛けた時に、雨が傘にあたる音まで気にして作り上げたと語っていた。
その時、傘がスピーカーのような役割になり、雨を聴いている感じがしたそうだ。
それ以来、雨を聴くことが好きになったとのこと。
今は、晴れているから、この赤い傘を広げて雨を聴くことはできないけれど、今度、雨が降ったら聴いてみよう。
子どもの頃から雨は嫌いじゃなかったけど、雨が降ることをこんなに待ち遠しく思うのは初めてだ。
「あのぉ……」
と、声をかけられたのはそんなことを思っているときだった。
声をかけてきたのは男性。
ん? どこかで見かけたような……。
あ、アレ?
男性の手の辺りに目を向けると、ビジネスバックに刺さる赤い傘が見えた。
「もしかして……、りんごさんですか?」
と、まさにその赤い傘を取り出し、私の前にかざして聴いてくる。
取引先との打ち合わせは近くのカフェで行った。
そのまま、車に乗せてもらい次の訪問先に近い駅で降ろしてもらった。
どうやら、ここがこの男性の待ち合わせ場所だったらしい。
そして、本当に赤い傘がその目印だったようだ。
こんなこともあるんだな〜、なんて思ったけど、ちょっと待って、私に声をかけてきたということは、待ち人とまだ出会えていないということなのかな?
私が、取引先の人と打ち合わせをしている間、この人はずっと待ち人を探していたのか。
どうしよう。
私が別人だと知ったら、ガッカリするだろうなぁ。
でも、嘘をついても仕方ない。
「えーと、ごめんなさい、りんごさんではありません」
「あ、そうですか………」
シュンとしている男性に、声をかけてみる。
「待ち合わせかなにかですか?」
えっ? と驚いたように男性は私を見つめてきた。
「えぇ、そうなんです」
私は、そうですか、と言った後、
「なかなか出会えないとか」
「ハイ〜、赤い傘を持っている人に声をかけているのですが、全然〜」
「赤い傘が目印?」
「えぇ、晴れてて、傘持っている人が少ないから、声をかける人も少なくて、まぁ、そこはいいんですけど、出会えないのは、ちょっと残念です」
と、項垂れる男性が、ちょっと不憫に思えたので、咄嗟に思いついたことを言ってみた。
「傘を開いてみたらどうですか?」
「えっ、傘を?」
「どうせ持っているのですから、開いてみたら、目立つし向こうから声がかかるかもしれませんよ」
「あ、そうですね、確かに」
男性は直ぐに手に持っていた傘を袋から出して開いた。
そこで私は気づいた。
人の行き交う駅の中で、傘を開くとは、かなり迷惑な行為だと。
男性は、そんなことにはお構いなく、傘を開いたまま周りをキョロキョロと眺めていた。
まぁ、気分転換にでもなればいいのかなぁ〜、なんて思うけど……、
でも、直ぐに男性はキョロキョロするのをやめて、肩を落としてしまった。
このまま傘を閉じてしまうかもしれない、とそう思った。
「不思議です」
男性は傘を開いたままそう言った。
「なんです?」
「いや、不思議なんです」
そして男性は話を続ける。
「こうやって傘を開いていると、いろんな音が聴こえてくる」
「えっ、」
「今まで、ざわざわしていただけの音が、より柔らかな音となって聴こえてくるようになりました」
「そうなんですか? あ、私もちょっとやってみます」
と、私も持っている赤い傘を開いてみた。
なるほど、駅の中で傘なんて開いたことなかったから分からなかったけど、なんだか閉鎖された空間で、音が際立って聴こえてくる。
「気にしたことなかったですけど」
と、男性が言う。
「雨の日に傘をさしていると、傘を通して、雨を聴いているのかもしれませんね」
うーん、言っている意味はよく分からないけれども、たぶんこの人は詩人のような文学的な人なのだろう、ということはなんとなく分かった。
と、そんな時に
「あのぉ……」
と、傘の中に声が響いた。
多分、私と男性は同時にその声のした方を見たと思う。
そこには、少し年の離れた感じの女性がふたり立っていた。
ひとりは赤い傘を持っている。
「あ、あなたは先ほどのぉ」
と、男性が言いながら傘を閉じる。
つられて私も傘を閉じる。
「やっぱり、ちゃんと説明しないといけないと思いまして、戻ってまいりました」
と、年齢が上の女性が話している。
今気づいたけど、この人は電車に乗っていた、もうひとりの赤い傘の人だ、と私は気づいた。
やっぱり、あの電車にふたりは乗っていたんだ!
と、こっそりとひとりでテンションを上げた。
男性から声をかけられたけど、なんらかの理由で、一度離れて、でもやっぱりと舞い戻ってきたって感じかな?
じゃぁ、少し後ろにいる若い子は何者だろ?
「ほら、ちゃんとあなたから話しなさい」
年齢が上の女性が若い女性を男性の前に差し出した。
キョトンとした表情で見つめる男性の前で、若い女性は勢いよく頭を下げた。
そして、
「スミマセン! 私がりんごです!」
なんと!!!
年齢が上の女性も一緒に頭を下げている。
「あ、あ、あー」
と、言葉が出ない男性。
キョロキョロと3人を見つめる私。
なんだか気まずい空気が流れていたから、私はとっさに傘を開いて、3人の上に掲げた。
3人が私を見つめてる。
私は言う、
「まぁ、立ち話もなんですから、積もる話は場所を変えてがよろしいかと」
3人は同意して、場所を探しながら歩き出した。
私は、ことの成り行きが気になったけど、離れていく3人を見送った。
だって、私には関係のない話だからね。
すると、男性が走って来た。
「あなたのおかげで、待ち人と出会えました。ありがとうございました」
と、それだけ言うと、待っていたふたりの元へ戻っていった。
私は男性を見送ってから、振り返り、傘をさしたまま歩き出した。
雨は聴こえてこないけど、待ち侘びた音が聴こえたような気がして、少し気分が上がった。
おしまい
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