[ 目印は赤い傘 ]:シロクマ文芸部(赤い傘)
↑こちらの企画に参加してみました〜
ひとつ前のショートショートのスピンオフ的なお話です😊♪
[ 目印は赤い傘 ]
赤い傘が目印だ。
鞄に刺しておけば目立つだろう。
右手で吊り革を持ち、電車に揺られながら僕は想像した。
どんな人が来るのだろう。
赤い傘を持っています、とだけ伝えた。
初めて会う人。
手紙のやり取りは何年もしている。
そう、この時代にリアルな文通だ。
不特定の人にメッセージを送り、唯一、返信してくれた相手。
なんだか最初から気があって、それからずっと続いている。
僕には妻と子どもがふたりいる。
仕事も順調。
日常生活に、まぁ、大きな問題は特にない。
でも、なにかこう……
なにかが足りていない、そんな感じが常にあった。
そんな時に、手紙のやり取りができるサイトを見つけた。
SNSな時代に、リアルに手紙のやり取りなんて、なんだか楽しそうだと思った。
しかも、不特定の人とやり取りができる。
メッセージだけならSNSでも事足りる。
しかし、便箋に書かれた文字には、SNSでは伝わらないものが感じられた。
文字の大きさ、筆圧、形、便箋の色、柄、肌触りや若干の香りまでもが、五感を通して伝わってくる。
字面だけではない人としての温もりが、そこから感じとることができた。
だから、直接会う決心が持てた。
SNSでメッセージをやり取りしていたら、警戒感の方が先に立ち、会おうなんて思わなかっただろう。
どうせ会うのなら、とことんアナログがいいと思った。
だから、お互い写真も携帯番号も各種のアカウントも交換していない。
交換したのは、待ち合わせの場所と日時だけ。
そして目印は、お互い赤い傘を持って行くということ。
当日、いい天気だったら困るね、なんて手紙に書いて笑ったけど、本当に天気のいい日になってしまった。
逆に、こんな日に傘を持っている、しかも赤い傘だなんて、お互い発見しやすくて良かったのかもしれない。
もう直ぐ、待ち合わせの駅につく。
どんな人が来るのだろう。
楽しみでもあり、若干の不安もある。
でも………、絶対に心が通じ合う確信はある。
多分、しばらく会っていなかった親友と再会するかのようにすぐに打ち解けられるだろう。
電車のスピードが落ちる。
僕の物足りない生活が、変わる。
電車の扉が開いた。
新しい世界へ一歩踏み出した。
おしまい
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↓詳しくはわからないのだけれども
文通サイトはこんな感じみたいです