家族との思い出
初めにことわっておくが、私を育ててくれた両親は所謂「毒親」ではないと思う。定義なんて知らないし、世にある物を読めば無意識のうちに当てはめて「私は毒親に育てられたのだ」と思い込むことも可能だ。わざわざすることではない。少なくとも今の私には不要な行為だ。
4人家族だった。両親がいて姉がいて、私がいる。おもちゃなどはよく買ってもらっていた。服も靴も。引越しに際して自分の部屋もあった。
結論を言うと私は家族が嫌いだ。ごく普通の家庭、むしろ家族仲は良かった方だ。周りには話に聞いただけでも酷いと思える家庭もあった。私が我儘で精神的に未熟過ぎるために自己防衛として「家族が嫌い」と思い込むのだろう、と今までは考えていた。
父親が亡くなり実家には母が一人で住むようになった。見て見ぬふりをしてきた違和感は父の死によって目立ち始めた。
父は家族と孫に見守られながら息を引き取った。もちろん私もいた。母、姉、姪は泣きながら最期を看取った。私はというと、心電図の波が弱り始めた頃から葬儀社の検索をしていた。段取り自体は三日前から考えていたのでスムーズだった。心電図が独特の音を立ててすぐに看護師に声をかけ、葬儀社に電話。死亡診断書を待つ間に叔父に連絡。式場の手配が済み迎えを待つ間に診断書を複数コピーし、父から預かっていた通帳から一日の限度額となる金額を引き出した。父の知人や友人にも連絡した。保険会社にも連絡し今後の手続きを把握。私自身も仕事を休むため関係各所に連絡。休みは三日とした。式場からの迎えが来たので追走する形で行く。
到着してすぐに通夜と葬儀の段取りを確認。小さな部屋でそのまま葬儀まですることにした。狭かったが誰も気にもしない。お寺への連絡やいくつかの手続きを終え後は通夜を待つばかり。一度帰宅して黒のスーツを持ち再度斎場へ。途中で町中華を食べてドラッグストアに寄り飲み物や軽食、お菓子、紙コップや紙皿を購入。斎場で受付準備をしてそろそろ姉に雑務を頼もうとしたがいない。結局通夜葬儀の受付と親族挨拶から片付けまで私が主にやった。
葬儀の後の様々な支払いや契約物の解約、役所への届出、保険の請求、父の車の処分、実家への弔問者の対応、香典返しの準備は全て私がやった。
家と土地の相続手続きも私が一人でやっている。父の口座からも全て引き出し母に預けた。父の工場の片付けも行っている。父の仕事に関する話はパソコンや帳簿を確認しながら全て終えた。現在母が一人で住む実家の支払いは全て私が行っている。
ここまでで姉と母は何もしていない。余計なことはした。母の携帯が不通になり(父が複雑な法人契約をしていたため)新規契約をする際、さすがに姉に頼んだが何故か不要なホームWi-Fiまで契約してきた。支払いは私だが。
私は昔から家族に軽く扱われてきた。姉も母も父も、私の話にはまず否定から入った。おもちゃや服や靴はお金を渡すだけだから相手する必要が無いのだ。ちなみにどれも決して高額ではない。上下の服と靴一式揃えるのに五千円かからず、半年に一度ほどだ。おもちゃは二、三ヶ月に一度、千円ほどだった。
扱いは今も変わらない。下手に経験や知識があるせいで面倒ごとは私にくる。父の死から現在に至るまで姉と母は何もしていない。特に姉。
私は姉の子の勉強をみているが、これも私の話を聞かないために起こったことだ。基本的に親族が勉強の面倒を見ることは避けるべきだが、話を聞いていないため手っ取り早く済ませようと私に言ってきた。授業料として支払われるお金は全て母の生活費になっている。
今更だが私からみた家族の経歴を紹介する。
父→技師として就職するがすぐに退職。自営業者として働くも生涯満足に稼ぐこともなく、出身地からも出ず。
母→色々な職を転々とするも父の手伝いのためどれも中途半端に辞める。遊びも娯楽もほとんどなく毎日家事と手伝い。
姉→高校デビューし大学ではバイトもほとんどせずにブラック企業へ就職。三ヶ月で辞めた後は実家に寄生して毎日晩酌。時々アルバイト。バイト先で紹介された人と結婚し専業主婦。まともに働いた経験は無い。
私→地味。大学合格後というか高校卒業後二日目から週七日でアルバイト。卒業後は大手企業に就職。公務員へ転職し結婚。その後退職し地元で自営業。空白期間は無い。
これまで両親、姉にかなりのお金を渡してきたが見返りはなかった。
父の葬儀の最中やその後もだが、姉は手続きなどが大変と周りに話していたらしい。全て私が行っているが。
現在姉はスポーツジム、お菓子作り、パン作りにと忙しいそうだ。娘の受験についても考える暇が無いらしい。
両親や姉から言わせると、「あんたはバカだから大人しくしておけ」だそうだ。その割には「アレに任せておけばいい」とも言っているようだ。
多くの家族でよく聞く台詞だが、
「何を考えているかわからない」
「何も相談してくれない」
確かにおかしい人もいるにはいるが、もし自分たちを普通だと思うのならば、理由を考えるべきだ。恐らく大抵の場合は手遅れだが、後悔の数は減るかもしれない。それまでの見下しとその積み重ねによって愛想を尽かしている可能性が高い。
私の場合、私がヘラヘラと受け流していれば家族仲は良好だったのでそうしていた。否定しかされないのに相談する意味は無い。ましてや経験も知識も無い人に相談するのは間違っている。
父の品を整理するにあたって写真や手紙をゴミ袋に詰めていた。後になって「そういえば見返したりしなかったな」と気づいた。仕事の道具も格安で売り払ったりあげたりしている。服や靴は捨てている。量が多い。ひたすらに面倒で億劫な作業だ。母は何もしないので一人でするしかない。母が死ねば支払いも大きく減りゴミの処分も捗る。かといって早く死んでほしいとは思わない。今は忙しいから。
家族の数だけ形がある。
周りからは仲の良い家庭と評判でも実績のところはわからない。誰かの我慢で成り立つ幸せがある。
ちなみにだが、私が結婚して子どもがいることを私の両親と姉は知らない。
隠せるものだなあ。