喫茶店が消えていく
福岡県大牟田市にあった「原」という喫茶店が好きだった。
30年前に同じ高校の吹奏楽部の友人と、格好つけて通っていた。
クラシックが流れるアンティークに囲まれた空間で、よく知りもしないコーヒーをいただく時間が好きだった。
もちろんコーヒーは美味しかった。今の私の好みを形成する土台に、気づかずに触れていたようだ。
妻曰く、私は粗挽きとか深煎りのコーヒーを好むらしい。朝コーヒーを飲むときに音楽をかけないと気が済まないのは、高校時代以降の癖だ。
喫茶店が町から消えていく。
大牟田市の喫茶店もいくつも消えた。今通っているのは「産寧坂」だ。しかしその主な目的はコーヒーではなく、喫茶店に在るまじきボリュームのランチをいただきに、だ。
スタバやタリーズ、ドトールなどではなく、それらを批判するつもりもなく、私はクラシックやジャズが漂う喫茶店に行きたい。
都会にはある。福岡市の天神や博多、その周辺にもある。
田舎に欲しい。そりゃ探せばあるのは知っている。探さないとないことが、ね。
「なんとなく立ち寄った喫茶店にいつのまにか通うようになる。」
そんな体験が困難になりつつある。
歳をとってきたのか、そういうことに寂しさとも少し違う名付け難い思いを抱くようになった。
散歩の距離と時間を増やすことで新しい発見をするようになった。
かつてあったものと今あるもの、これから出てくるもの、全て楽しめるような人間でありたいなーと思う。