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【預金獲得新時代】(上)量と粘着性 両にらみ 顧客の行動分析に難しさ
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2025年は、異なる業態間や近隣金融機関同士の預金争奪が激化する。「金利ある世界」では、預金のボリューム拡大が収益増強に直結するからだ。預金が右肩上がりで増え続ける時代は間もなく終わり、限られたパイを奪い合う構図となる。預金調達では「量」だけでなく「粘着性」も問われており、金融機関の戦略の違いが鮮明になりつつある。3回連載で預金獲得の今を追う。
125兆円が地域間を移動
日本銀行のマイナス金利政策解除は預金争奪戦の号砲となった。「今後の金利上昇を見据えると預金のボリュームが重要になる」。三井住友フィナンシャルグループの中島達社長は指摘する。
メガバンクはスマホアプリの機能を拡充する一方で、駅ビルや商業施設に入居する軽量型の新店舗を開発した。顧客接点を広げ、金利やキャンペーンに頼らない預金の獲得を狙う。みずほ銀行は「近くて便利、そして親切ということに価値観を持つ顧客層に有効」とみる。りそな銀行も「オンライン取引を望まない人たちが一定数おり、顧客接点を広げながら口座開設につなげたい」考え。地域金融機関が強みとしてきた領域に踏み込む。
前回利上げ局面(06~07年)と比べ、より預金者の身近な存在となったのが、インターネット専業銀行だ。ネット銀9行合計の預金残高は36兆円を超える。相対的に高い預金金利が目立つが、ソニー銀行の南啓二社長は「金利よりも、ソニーバンク・ウォレット(Visaデビット付きキャッシュカード)やスマホアプリの使い勝手を一段と良くして、顧客満足度を高めたい」と話す。
地銀や信金など地方の金融機関にとっては、預金の構造的な問題が横たわる。相続に伴う大都市圏への家計金融資産の移動だ。三井住友信託銀行の調査部によると、今後30年間で相続される金融資産の総額は650兆円弱。このうち約2割の125兆円が地域をまたいで移動すると見込む。その背景にあるのが「地方に住む親と大都市圏で暮らす子」という構図だ。
ゼロ歳児も取り込みへ
都道府県別にみると、移転の傾向は大きく四つある(表参照)。(1)県外流出率が高く、その多くが地域外へ出る(2)県外流出率は高いが同一地域内の他県への移動にとどまり、大都市圏へ流出が比較的少ない(3)県・地域外流出が相対的に低い(4)県・地域外流出が極めて低い――に大別される。
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