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【推薦図書】『戦争とデータ―死者はいかに数値となったか』(五十嵐元道著)
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【推薦者】武蔵大学経済学部教授・大野 早苗氏
戦争データを生成する戦い
ロシア・ウクライナ戦争やイスラエルのガザ侵攻は終わる気配がない。犠牲者の数は増え続けており、毎日、痛ましいニュースが流れている。
人類は長い歴史のなかで何度も戦争を繰り返してきたが、死者数を把握するようになったのは最近のことだそうである。しかし、容易に想像できることだが、戦争下の死者数の把握は困難を極める。本書では、気の遠くなるような関係者の努力により戦争データが生成されてきた経緯が説明されている。戦争データを生成する上で民間人を定義するだけでも簡単ではない。また、戦争被害者のデータは政治的にも重要な情報であり、データを偽装するインセンティブは絶えない。
人権意識が高まり、国際機関や国際NGOが戦争データの収集で活躍するようになる。戦争犯罪を裁く上でも戦争データが必要となり、統計的手法や法医学、DNA検査などのさまざまな科学的手法が駆使されるようになった。しかし、死者数の推定精度を改善しても、それが社会的に受容されるとは限らず、ときには被害者側の反発を招くこともある。
衛星画像のAI(人工知能)解析など、技術の進化も戦争被害の把握に貢献した。しかし、技術は悪意ある使途にも利用可能であり、虚偽の戦争データとの戦いが展開されていくのだろう。
(中公選書、税込み1925円)
掲載元:https://www.nikkinonline.com/article/181946
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