無意味だった
ホストクラブに行ったことのない人、またはホストクラブで好きな担当ができたことの無い人からしたら、ホストクラブに払うお金なんか無駄だと思うであろう。
大好きな担当に3年間貢ぎ続けた私はどう思うのか。
答えは、「無駄でしかない」だ。
いや、無駄とは少し違うかもしれない。
お金を払えば非現実的な世界で楽しい時間を過ごせるので、無駄ではない。ただ、無意味ではある。
先月、私の担当はバースデーがあった。
ホストにとって、誕生日というのは1年に1度の大切な時期である。
例にもよって、担当はバースデーイベントを開催した。
私はそのイベントで、約630万円使った。5月全体では800万弱使ったと思う。
私には、1ヶ月で800万円も稼げる能力がないので、数ヶ月前から少しづつ担当と一緒に貯めていた。長い道のりだったが、その大変な月がやっと終わったのだ。
そして、終わった今思う。ああ無意味だったな、と。
担当にとっては大きな価値があったと思う。私の使った800万があるかないかで、大きく結果が変わるから。
しかし私にとっては、なんの価値もなかったかもしれない。
バースデーイベントの日は、頑張ってきた数ヶ月が形になってすごく嬉しいかった。頑張ってよかったと思ったし、感動して涙が出そうだった。
でもそんなのは、イベントの日だけの感情だった。
それ以外の日はひたすら辛かった。
基本的に私は、担当のお店にほぼ毎日行っていた。
営業日は全部行くって、ここ1年くらいはそういう空気になっていたからだ。
でも仕事終わりにお店行って、また次の日朝から仕事してお店行って…というのは、体力的にかなりキツい。まともな睡眠時間など取れない日が大半だったし、そのうち精神的にもガタが来た。
でもそんなストレスを担当に当てるのは違う。
辛くても頑張るって決めたのは自分だし、自分の体も心も自分でコントロールしなければいけない。
できる限り私は、ストレスを担当にぶつけないように頑張った。
担当は私以外にもお客さんが多くいる。
私がお店に行っても、必ずずっと隣にいてくれるわけではない。ほとんど隣にいなかった日もあった。
それでも、それに対して文句を言うのは違う。私がわがまま言ったって、どうにかなる問題でもないのだ。
それは頭では理解しているのだが、どうしても感情が先に行ってしまう。我慢できなくて担当に寂しさをぶつけてしまったこともあった。そしてその後自己嫌悪に陥るのだ。
そんなこんなで、私は色々なストレスを抱えながら頑張ってきた。担当と出会って3年経って、こんなことは今まで何度もあった。今まで耐えられたから、何だかんだ言ってこれからも耐えられる。そう思っていた。
でも今年はなんだか違った。
ストレスやプレッシャーが今までの比じゃなかった。
仕事終わりにお店に行って、席に座った瞬間、何も無いのに勝手に涙が出てきた日があった。こんなのは今までで初めてだった。
その時、私は、自分の精神がとんでもなく疲れていることに気づいた。
何故だろう。去年だってバースデー月は大変だった。それでも笑って乗り越えられた。
今年はなぜ、こんなに辛い気持ちがたくさん湧いてくるのだろう。
そして、5月が終わってみて思った。
ああ、本当に辛かったな。
辛かったけど楽しかったな、とは思えなかった。
ただただ辛かったな。
自分の中では、辛い時間が9割、幸せな時間が1割だった。
そんなの今までだってそうだったじゃないか。
でも、なぜだろう。幸せだった時間が思い出せない。
恐らく、3年一緒にいて、気づいてしまったのだ。
私がどれだけ頑張っても、これ以上私の扱いが良くなることはない、と。
担当が普段どれだけ忙しい人かは私がよく知っている。
だから、今後もお店に行って隣にいてくれない時間が多いのも知っている。
今後も店休日をそんなに使ってくれないことも知っている。
今後もアフターをあまりしてくれないことも知っている。
今後も連絡頻度が上がるわけではないことも知っている。
これ以上、私に対しての何かが良くなることはない。
去年までは、頑張ればもっと○○してくれるかなあ、と色々な期待を込めて頑張っていた。
でも、今年は違った。
頑張ってもこれ以上何かが変わることはないんだろうな、とわかっていながら頑張っていた。
そして、5月。
頑張っても、やっぱり辛いことばかりだった。
やっぱりこれ以上何かが変わることはなかった。
やっぱり幸せな時間の割合は増えなかった。
この先、まだ担当はホストを続ける。
あと何年この苦痛に耐えなければいけないのか。
これ以上状況が良くなることはないと知っていながら、あと何年一緒にいるのだろうか。
そろそろ、全てに諦めがついてきた。
やっぱり、ホストクラブに使うお金は無意味だ。
頑張っても頑張っても、担当との関係性には限界がある。
今だって十分担当は私に良い扱いをしてくれてる。
これ以上なにを望むのか。
別に何も望んでいないのだ。
ただ、もう少し、辛さを減らしたいだけなのだ。
でもきっと、ホストクラブは、頑張れば頑張るほど辛くなるのだ。
辛くない子もいるかもしれない。
だけど私は、一緒にいればいるほど、頑張れば頑張るほど、辛さが増していった。
私の頑張りは、ただの数字にしかならなかった。