見出し画像

どうなる?レオスとひふみ投信の今後――藤野英人社長生放送出演の採録

投資家の間では“ひふみ投信”でお馴染みのレオス・キャピタルワークスが、SBIホールディングス傘下に入ることが3月末に発表された。現在の筆頭株主であるISホールディングスがSBIに株式を売却する形を取る。レオスは、最高投資責任者であり創業者、社長でもある藤野英人さんのファンドマネジャーとしての手腕とカリスマ性、直販やユーザーとの交流を前面に押し出す金融界では独特のマーケティング手法などでとりわけ近年急成長を遂げてきた。なぜ、今SBIグループ傘下なのか?藤野英人さんには日経CNBCの朝エクスプレス「マーケット・レーダー」に4月22日(水)に生出演していただいた。新型コロナ感染拡大防止の観点から藤野さんはZoomでの遠隔出演となった。まずは聞き手である直居と藤野さんの一問一答の様子を採録し、後に直居から若干のコメントを加える。番組では2月の中旬、レオスがひふみ投信全体の約3割を現金化して暴落に備えた件を踏まえ、現状と先行きの相場環境をどう見ているかについて聞き、その後にSBIグループ入りの経緯を聞いている。放送時間は12分程度と決して長いものではなく、かつZoomでの生出演という形だったが、藤野さんには率直に、誠実にお答えいただいたと思う。なお、大胆な現金化については詳しく知りたい方は3月17日のnote「ひふみ“2000億円売却の機動性”」を参照されたい。

――マーケットは今滅茶苦茶なことになっていると思います。ファンドマネジャーとしての藤野さんにお聞きしたいのですが、急落してかなり戻ってきて、今マーケットはどんな環境にあるのでしょうか?
(藤野)そうですね。過去の経験が全く生かせないというようなマーケットだと思います。1918年にいわゆるスペイン風邪の流行があって、その時にはいわゆるパンデミック相場があったわけですけれども、そういう意味ではまあ100年ぶりなわけですね。このマーケットに対しては歴史観と現場対応力、そして想像力で勝負するしかないのかなと、という風に思っています。
――リーマン・ショックとの比較云々というレベルではもはやないのかもしれない?
(藤野)そうですね。戦後恐慌とかそれに近い感覚ですね。1929年から30年のアメリカの大恐慌とかそれに近い状態かと。
――ひふみの運用の話をちょっとだけお聞かせください。暴落の直前、バレンタイン(2月14日)のころだったかとお聞きしていますけれど、ひふみ投信(マザーファンド)全体の資産の約30%、2000億円分の保有株式を売却して現金にするというかなり大胆な運用の変化をしました。この決断に至った背景はどんなことだったのでしょう?
(藤野)そうですね。これは新型コロナウイルスによる影響を世界の投資家が過小評価しているというように判断しまして、それでマーケットが暴落する可能性が高いという判断をしたわけです。それでマーケットが強いうちに2000億円程度、全体の30%を現金化したわけです。
――ここまで現金化比率が高まったことは、ひふみの運用開始以来初めてのことですか?
(藤野)いや実はですね、このファンドって2008年10月にスタートしていてリーマン・ショックの真っ只中だったんです。その時にはキャッシュ(現金)比率が50%まで高まったことがあります。それ以来(の高水準)です。
――思い切り現金比率を高め、中身もかなり変化していると思いますが、今現在は30%まで高めた現金比率はどうなっているのでしょうか?
(藤野)現状では15%程度、3月の暴落の一番下がったところで買いを入れて、今は15%程度の現金比率になっています。
――それでも、平時に比べるとこれは高い水準でしょうか?
(藤野)高いですね。まだ下落余地があると考えていますので、少し高めに現金を持って、“保険”をかけている状態です。
――この話もまだまだお聞きしたいのですが経営の話もお願いします。まさにそのような真っ只中の3月末、SBIグループ入りするというリリースがありました。もうこれはズバリですが、みなさんも聞きたいと思うのですが、なんでSBIだったのでしょうか?
(藤野)そうですね、実はこれは私たちの親会社ISホールディングスが株式売却の意向を持っていたということで、親会社が(株式売却の)交渉していたというところで、私の方に、どういう会社だったら売却してもいいのかというところに関して話があって、それでいくつか候補をあげられたんですが、その中で私の方でもSBIグループならいいのではないかという話をしていました。(売却の話は)主導とすると親会社主導なのですけれども、ただ私の意思があったかというと私の意志は強くあったということです。
――この話、4月末にクロージング(締結)ということだと思いますが、今のレオスの資本構成は、ざっくり4分の3がISホールディングス、4分の1が現経営陣、そういう理解でよいですか?
(藤野)そうです。はい、そうです。
――ISには手放したい意向があった?相乗効果がそれほどなかったという認識もあるんでしょうか?
(藤野)はい、えーとですね。彼らからすると十分に儲かった。要するに2009年、私たちがリーマン・ショックによって倒産しかかったところで救っていただいたというところもあるので、かつ彼らが今新しく電力事業のところで大きなおカネが必要だという、資金需要があるんですね。それで売却したいという意向がすごくあった。で、僕らからすると今までお世話になったし、売却していただくのは結構だと。ただ売る相手についてはビジネスシナジーがあるところとやっていただきたいということをお願いした。そういうことです。
――ちなみにこれで筆頭株主がISホールディングスからSBIホールディングスに代わるということになります。51.28%ですね?ISの持ち分は少しは残るのでしたっけ?
(藤野)残ります。大体20%強30%弱くらいまで(の範囲内で)残ります。
――ちょっと話が遡りますが、2018年暮れにレオスは元々マザーズ市場への上場の計画がありました。ただこれが残念ながら直前に延期になってしまいました。ペンディングになってしまった。もしこのときストレートに上場していたら多分この話はなかったようにも思えますが……。
(藤野)そうですね、はい。
――結局上場できなかったの理由は何だったのでしょうか?
(藤野)ええ、それほど重大な問題ではなかったのですが、コンプライアンス上確認しなければならないことがあったんですね。それがあったので1回ずらすということになったのですが、その中で次にどういう戦略を取ろうかということを考えた場合に、より成長戦略を明確にできるようなところ資本政策を組んだ方がいいのではないかという考え方もありました。それで今回のSBIの話とつながっていくわけです。上場そのものはあきらめているわけではなくて、SBIさんとも話をしているのですけれども、SBIグループの中で上場するということも一つの目標でもあります。
――ただ、SBIグループ入りということになると、今度は親子上場といった問題も出てきます。
(藤野)そうですね、そうですね、はい。このあたりがクリアーできたらということですね。
――このあたり、今後どういうスケジュールで上場するか、あるいは本当に上場が適切かというのはこれから考える、検討することでしょうか?
(藤野)もちろんです。これはまず一番はお客様にとって何がよいのかというところと、あと当社の経営者や社員にとってどうかということと、あとはSBIさんの意向ですね。
――SBIグループとの関係性についてもう少しお聞きしていきたいと思います。SBIグループ(社長の)北尾さんという方も強烈な個性を発揮されている経営者です。北尾さんとは何かお話しされたのですか?
(藤野)もちろんです。もともと同じ野村グループ出身ですし、そういう目で見れば何か考え方はよく分かるということがあるのと、私からすると、どんなに強烈だろうがなんだろうが創業経営者の方が話がしやすんですよ。要はサラリーマン経営者だと貸し借りであったりとか、それから先輩・後輩であったりとか、あと他に派閥とかそういう影響もありますけど、単純にちゃんと数字が出るかどうかというところで評価していただけるので、納得性があるということではあります。
――とはいえ、その何と言うのでしょう?素人じみた質問かもしれませんけれど、グループ入りしていわゆる経営の独立性みたいなことは保たれるのだろうか?SBI色に戦略が染まっていくのではないか?普通やはり想像もしたくなるのですが、このあたりはどうお考えでしょうか?
(藤野)はい、そうですね。今回の件についてはSBIさんがひふみであったり、レオスだったり、私のバリューをすごく強く感じていただいたということが大きいので、逆にSBI色に染めると価値がなくなってしまうということがあります。北尾さんであったり、高村(SBI証券)社長から言われているのは、「とにかく思い切ってやってくれ」と。「経営についてはまったく関与しないから今まで通りやってくれ」というのが彼らからの話ですね。
――SBIグループにも運用会社があります。また、ロボアドバイザーなども彼らも関心あると思うのですが、彼らといろいろと協業していくといったことも考えますか?
(藤野)もちろんですね、それは是々非々でやると思います。ただ、SBIアセットマネジメントに吸収されるということではなく、レオスはレオスで(SBIが)資本参加するけれども、レオスの戦略でやっていこうということになっています。
――ちょっとSBIを離れた話になるかもしれません。藤野さんは創業者としてこの会社を立ち上げて経営者でもいらっしゃいます。長い間の経営の継続性、永続性といったことを考えた時に創業者、ファンドマネジャーと経営者としての役割分担をした方がいいのではないか?こんなお考えはありませんか?
(藤野)もちろんあります。それはいずれどちらかがベストな人が表れたら、それを交代するということはやぶさかではないので。5年とか10年とかの範囲内で少なくてもどちらかの機能を誰かに、お任せするということはあると思います。
――ファンドマネジャーか経営者か?
(藤野)あ、そうですね、ああそうですね。
――藤野さんご自身はどっちがお好きなんですか?
(藤野)うーん。運用ですかね(笑)。ははは。
――ははは。では運用のお話しをもう少しお聞きしましょう。最初の話の続きかもしれませんが、どうもまだ現金比率が15%程度という話をお聞きすると、ちょっと市場環境には警戒的に思えるんですね。目先そう簡単には運用環境はよくならないという感じですか?
(藤野)ええと、これから負の材料がまだ大きく見えていないので。どちらかというとアフターコロナに対する期待感でマーケットは上昇していると思うのですけれども、これから実態悪が出てくると思うのですね。実際に不動産会社だったり観光業であったり、それから航空会社の破たんだったり……。ほかの製造業のトラブルとかというのも出てくると思うので。実態悪を織り込んでいくようなことがあるのかなと考えています。ただ、一方でおカネをじゃぶじゃぶにして流動性を付けていますので、その流動性のバブルと実態悪の綱引きが始まると思うんですね。
――なるほど。流動性と実態悪の綱引きと。放送を見ていらっしゃる投資家の方にはひふみのユーザーの方もそうでない方もたくさんいると思いますが、いろいろと(相場環境などには)不安を持っていると思います。藤野さんから見ていらっしゃる皆さんにメッセージをお願いできますか?
(藤野)そうですね。やはり運用は長期的に見ることが大事なので常にマーケットにとどまるということが重要です。もちろんそれはガンガンに100%投資をしているということではないにしても、15%くらいでも投資し続けるということが大事です。
――マーケットに居続けるということが大事。
(藤野)そうですね。
――藤野さん、今日はありがとうございました。
(藤野)どうもありがとうございました。(終了)

<放送を終えて>
① 筆頭株主に藤野さんの強い意志反映
今回のテーマで最も大事なSBIグループ入りについて、藤野さんは現在の親会社のISホールディングスの側の資金需要によるところが大きな背景と明言した。ただその際に、どんな企業に株式を売却するかについては、藤野さんの“強い意志”が反映している。何社かの売却先候補の中から、SBIホールディングスが望ましいと藤野さん側でも判断したのだという。番組内で紹介したレオスの最近の業績が下記のグラフだ。近年の純資産額急増によるところが大きいとはいえ、業績は極めて順調で、レオスの側に資金需要や資本増強面での差し迫った強いニーズはなかったと考えられる。

20.4.22 IMG_0155藤野と業績


② 独自経営路線を維持
SBIホールディングスの北尾吉孝社長、SBI証券の高村正人社長からは経営の独立性について言質を得ているようだ。これまでのレオス・キャピタルワークスの路線、ひふみの運用方針がすぐに変わるということは考えにくい。ただ、ユーザー、投資家の側の考え方、感じ方はまた別だろうと思う。ISホールディングスというあまり表舞台に出てこないこれまでの筆頭株主に比べて、SBIホールディングス北尾社長の存在感はやはり大きい。さわかみ投信を嚆矢とする“独立系”投資信託が大きな曲がり角を迎えていることは間違いない。
③ 上場は引き続き検討
放送内でのやり取りの通り、今回のSBIグループ傘下入りの伏線となったのが2018年暮れの上場延期問題だ。放送の中で「重大な問題ではないがコンプライアンス上、確認しなければならないことがあって」いったん見送ったとしている。そうして当初は1年後の上場を目指していたと思われるが、いろいろと戦略を考え直しているうちに、成長戦略上の資本政策を考えるという選択肢が出てきた。そのことが今回のSBIグループ入りにつながっている。親子上場などの問題をクリアーする必要があり、「上場を引き続き目指す」としているものの、今後の継続検討課題ということだろう。

藤野英人(ふじの・ひでと)
1966年富山県生まれ。レオス・キャピタルワークス社長・最高投資責任者(CIO)。早稲田大学法学部卒。野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)やゴールドマン・サックス・アセットマネジメントなどでファンドマネジャーを歴任後、2003年レオス・キャピタルワークス株式会社を創業。主に日本の成長企業に投資する株式投信「ひふみ」シリーズを運用している。投資教育にも注力しており、JPXアカデミーフェロー、明治大学商学部兼任行使も務める。

(直居のおまけ)
取材先としての藤野さんという人物はちょっと不思議な人で、決して愛想が悪いわけではないし、とても誠実だと感じるのだが、“表情の奥底にある本当の気持ち”が分かりにくいようなところがあるように思う。下の写真は今回の放送の中で二人そろって笑ってしまったところ。「藤野さんは、ファンドマネジャーと経営者のどっちが好きなんですか?」と聞いたところ、少しだけ考えた後「うーん。運用かな」と答えた時だ。「あ、言っちゃった――」みたいな感じがZoom越しに伝わってきて、僕も(結構本気で)笑ってしまった。

20.4.22 IMG_0156二人で(笑)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?