色々と話題の映画『バービー』――“はちゃめちゃ”だが深い……。
原子力爆弾の開発をリードしたオッペンハイマーを描いた『オッペンハイマー』とともに全米で大ヒット中の映画『バービー』を見てきた。バービー人形の実写版というか、バービーたちの完璧な世界「バービーワールド」と現実の世界を行ったり来たりする、ひとことで言えば“はちゃめちゃ”な展開なのだが、とても深い。ワタクシは深く感銘を受けました。「映画ってこんなことできるんだなぁ」と余韻に浸っているのである。
何かと物議を醸している“バーベンハイマー”
アメリカでは『オッペンハイマー』と『バービー』の両作品が同時期に大ヒット、恐らくはそのリベラルな世界観から両方を見る人が多いのだろう。“バーベンハイマー”なる造語が流行っている。玩具、バービー人形の発売元マテル社は映画のヒット、関連グッズの売上高拡大期待から株価が上昇する話題ぶりだ。のみならず、SNSでの拡散の仕方の不適切さを巡りワーナーブラザーズ社が謝罪したり、中国とベトナムの国境の描き方を巡って物議を醸したり・・・。まあ、ともかくも話題満載なのである。
外国人と子どもが多い映画館で盛り上がる!
日本での公開開始(2023年8月11日)からまだそれほど日がたっていないのでネタバレにならない範囲で、いくつか感じたことを書いておくーー。まず、僕が見たのは、日本での公開2日目、土曜日の夜だったのだが、とにかく映画館に外国人と子どもが多い!
であると、何というか必然的にちょっとうるさかったり、映画館の中を子どもが駆け回り、お母さんがそれをあやしている姿が目に入ったりもするーー。隣に座ったチャイニーズアメリカンと思われる4人家族の姉と弟がポップコーンを頬張りながら、クスクス、時にはゲラゲラ笑いながら話をしながら観ているのが最初のうちは気になった。正直「ちょっと注意してやろうか?」くらいに思っていたのだが、そのうちに全く気にならなくなってしまった。だって映画館全体でゲラゲラ笑ったり、びっくりしたり、手を叩いたりして観ている感じで楽しくなってしまったのだ。この感覚はそう!ずっと昔にインドを旅行中に見た映画大国インドでの映画のたしなみ方をちょっと彷彿とさせるところがある。
『バービー』を通して描かれるフェミニズム、ジェンダー……
なかなかに深いと感じさせるテーマは、フェミニズムとかジェンダーとか……。必ずしも女性への偏見、女性が抱える難しさだけでなく、男性に対する偏見、男性ならではの重苦しさなども描かれていて、僕自身はバランスがよいと感じた。ただ、好き嫌いはあるのだろうと思う……。
主演マーゴット・ロビーは見事!
主演でバービーを演じたマーゴット・ロビーは見事だった。完璧な容姿とスタイルで“典型的バービー”を演じるのだが、ひとの気持ちが次第にわかってくるところ、女性のリーダーとしてみんなを引っ張らなければいけない場面での頼もしさと複雑な気持ち、男性(あるいはケン)に時折みせる優しさ……。これらを素晴らしく引き出し、笑いのなかにも人間の優しさや難しさを描いた女性監督、グレダ・ガーウィグの力量もまた見事だ。
マテル社の株価は上昇中
マテル社はバービー人形の他、カードゲームの「UNO」、ミニカー「マッチボックス」などを扱うアメリカの玩具大手。映画の中では、女の子のための人形を作っている会社なのに、経営会議的な場面が全部オジサンで構成されていたりして、見事に自社を茶化してみせる。これはなかなかの度量というか、ユーモア精神というか、企業のイメージアップに随分と貢献するのではないだろうかーー。全米での映画公開前後から業績期待が広がって、株価上昇中なこともうなづける。