映画『怪物』をみて考えている。人の複雑さ、そして優しさ
是枝裕和監督の映画『怪物』。もうご覧になった方も多いのではないでしょうか?坂本裕二さんの脚本がカンヌ映画祭の脚本賞を受賞したことで随分メディアなどで取り上げられました。また、亡くなった坂本龍一さんの最後の映画音楽作品となったことも話題です。
“怪物”だーれだ?
少し前に映画館で予告編のころからみかけてはいたのですね。「子役がカギらしい」ということは分かるのですが、いったいどんな映画なのか、ちょっと分かりにくい印象でした。「まあ、よく分からないけれど、是枝さんだし、脚本賞というからにはきっとほどほど面白いのだろう」というような気持ちで、公開2日目(6月3日)に観に行きました。
一筋縄ではない映画だ
その感想は一言でいいにくいのですが、「これはなかなか一筋縄ではない!」ということでした。あまり書き過ぎると“ネタバレ”になってしまうのですが(もう公開からひと月近く経つのである程度はいいかなとも思うのですが)……。
物語は湖の美しいある地方の街。シングルマザーと子ども、イジメ?ケンカ?無責任な学校と教師???といったストーリーが淡々と流れていって「こういう映画なのかな?」と思ったあたりで、視点が変わります。別の登場人物の視点からみると、全然違う話なのです。正直、観ていて混乱します。さらに、もう一回視点が変わります。「えっ」という気持ちですね。「何なんだ、これは?」。
1週間で2回観ることに……
「えっ」という気持ちを確かめたくて、また若干は分かりにくいというか、本当にそういうストーリーなのか確認したい気持ちもあって、翌週にもう1回観に行くことになりました。やはり「一筋縄ではないな」と感じました。まず脚本。基本的に脚本を自分で書く是枝監督にしては、ほかの人に脚本を任せるのは久しぶりのことだったようですが、それだけのことはあります。
それから登場する人々。暴力先生、無気力な校長先生、無邪気な子どもたち……。それぞれが視点を変えて描かれるたびに変わっていきます。人間は一筋縄ではないと感じました。そして視点が変わるたびに全然印象が変わっていく登場人物を演じる俳優さんはさすがです。二人の子役(黒川想矢、柊木陽太)、田中裕子、そして是枝作品では『万引き家族』でも絶賛だった安藤サクラ……。でも、何といっても僕の中ではこの映画では永山瑛太だなぁ。すごい……。
重いけれど後味は悪くない
かなり重いテーマを扱っているとは思うので、これから観に行こうという方には、メンタルをある程度整えてから行くことをお勧めします(笑)。とはいえ、後味は悪くないです。豊かな自然の描写に加えて、一筋縄ではないひとたちそれぞれの中に、優しさを感じるように描かれているからだと思います。是枝監督らしいなぁと感じました。
おまけ)最近考え込んでいること
『怪物』を2回観て、それでなお考え込んでいるのは、映画と実際の自分の仕事(取材みたいなこと)を重ね合わせているところがあるからだ。たまたまではあるが(今はまだ詳細を書ける段階にはないが)ほどほどに取材してきたつもりの対象が、「まったく見え方、視点によって違う」ということを目の当たりにしている。僕の立場からこう言うのも何だが、マスコミというのはそもそも一方的だし、折々暴力的にもなると改めて感じている。僕ら取材するものにとって「両面から、広い視点から物事を捉える」というのは基本動作の一つだと思う。エラそうだけれど……。そして、たまたまほどほどに自分でも取材してきたつもりの対象について報道が始まると、時々強い違和感を感じる。何だかあまりにも一面的だし、あまりにも一方的だ……。で、さらに考えるに、例えばロシア情勢であるとか、日本の政治であるとか、あるいは殺人事件、事故……。自分が特に専門ではない分野については、概ね報道であるとか、人々、識者の意見などを頼って自分の考え方みたいなものを知らず知らずのうちに形成しているわけだが、それってそもそも本当なのだろうか……。事実っていったい何なのだろうか……。もう少し飛躍してしまえば、取材している分野の一つがマーケットなわけだが、ある取材先の言葉を借りれば「マーケットは常に正しく、常に間違っている」。だってその価格で売る人と買う人は基本的に逆の価値観を持っているわけだし、価格自体が時々刻々変わっていくわけだから……。とまで考え込んでしまうと何もしゃべれないし、何も書けないということになってしまいかねない。それでもその時点で仕事として発信すべきことは発信するということだと思うのだけれど……。
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