新規設定ファンドを考える――7月は史上2番目の巨額設定も
今夏の投資信託の話題は、何といっても新規設定ファンドだ。7月、ETFを除く公募投信への流入額は4904億円で、2カ月ぶりの流入超過。流入額は1年9カ月ぶり水準だ。そのけん引役となったのがグローバル株式型を中心とした新規設定だった。7月の新規設定額は6011億円で約20年ぶりの高水準。日経CNBC、朝エクスプレスで投信市場にまつわるあれこれの解説を毎月お願いしているQUICK資産運用研究所の石井輝尚さんのデータからみよう。まずは7月の追加型株式投信、純流入額のトップ10。
10位までのうち、1位から3位と、7位が新規設定投信だ。石井さんには定点観測的に毎月解説してもらっているがこれだけ新規設定投信が上位に並ぶのは「滅多にない」。そもそも4月から6月にかけてはコロナによる外出自粛などで新規設定も営業活動も極端に減っていた。自粛が明けてある種の営業“リベンジ”パワーみたいなものがたまっていたこともあるのかもしれないが、それにしても額が大きい。14日(金)にオンラインによるで定例会見をした投資信託協会の杉江潤副会長は「もともとMRF(マネー・リザーブ・ファンド)などの待機資金が高水準だったところに、ボーナス期も重なった」と指摘した。
その新規設定の中でも突出していたのがアセットマネジメントOneの「グローバルESGハイクオリティ成長株ファンド」<愛称:未来の世界(ESG)>で当初設定額が3830億円、その後の流入も含めて7月の流入額は4093億円に上った。下の表はQUICK資産運用研究所による歴代の当初設定額上位投信。「未来の世界(ESG)」は2000年のノムラ日本株戦略ファンド(当初設定額7924億円)以来の史上2番目の当初設定額となった。ノムラ日本株戦略ファンドについてはご記憶の方も多いのではないだろうか?その後すぐに純資産が1兆円を突破し、“1兆円ファンド”として有名になった投信だ。
「未来の世界」は4年前から主にみずほ証券が販売しているグローバル株式型投信のシリーズで、今回の「ESG」で8本目になる。グローバル株式での長期運用を標ぼうした投信で、パフォーマンスや売り方などについての評判は比較的良いと思う。格付投資情報センター(R&I)「ファンド情報」の栗秋慎児編集長は「これまでのシリーズのパフォーマンスが投資家の成功体験になり、含み益の状態で新しい投信を買う人が多い」という。パフォーマンスが良い投信をさっさと利益確定して、次の目新しい投信を売るいわゆる“回転売買”とは一線を画しているという。
とはいえ、モノは投資信託だ。運用実績もない新規設定投信が一定以上の規模になることについては、一般的に言って違和感はある。下のグラフはQUICK資産運用研究所による過去の大型新規設定投信のその後の純資産額の推移をみたもの。設定後しばらく(というかわずかな期間は)残高が増えるものの、その後は急速に残高が減ってしまう。“1兆円ファンド”はピーク時1兆1672億円から現状では約500億円。ほかの大型投信もほぼ同じような軌跡を描いている。投資信託業界、投信販売業界で横行していた回転売買の一つの象徴ではないかと思う。純資産の額ですべてが決まるとは思わないが、ずっと資金流出が続く投信に活力があるとは普通は考えにくい。
あくまで一般論だが、わざわざ新規設定投信を買わなければいけない理由は普通、消費者側にはない。どのような運用をするのか、実際に成果が上がるのか、景気変動の波に耐えられるのか――。様々な観点から3年、5年、10年以上の年月を経てなお、安定感、安心感のある投信の中から、自分の眼鏡にかなったものを選べばよいのだから。本当に長期目線の投資信託が育ち、それを消費者が長く支持するといった真っ当な長期運用の世界が始まっているのかどうか――。真贋が問われるのはこれからだ。
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