急落J-REITへの投資を考える――値動きに目を奪われ過ぎずに……
2月から3月にかけての世界的な株式急落はもちろん衝撃でしたが、J-REITの急落はある意味ではそれ以上に驚きでした。東証REIT指数は2月20日の高値(2250.65)から3月19日の安値(1145.53)まで49%下落とほぼ半値。ちなみにこの間の日経平均株価の下落率は29%でした。安定利回り型金融商品のREIT、かつその指数が日経平均株価よりも激しく下落するのはまあ、控えめにいっても異常事態です。
2008年、リーマン・ショックの折にもREIT市場に激震が走りました。この時は、10月9日にニューシティ・レジデンス投資法人が突如破たんするという事件がありました。詳しい経緯はここでは省きますが、リーマン・ショックの震源地がサブプライムローン、不動産市場および金融であったのに比べれば、今回は少なくても震源地に不動産や金融があるとは考えにくい。なおさらに不可解な今回の動きです。
ひとつには期末を意識したREITの需給がカギと考えられます。冒頭のグラフは昨年末現在のJ-REITの投資主構成です。約6割を占める金融機関の中には投資信託も含まれているのですが、地方銀行、地域金融機関なども含まれます。地方金融機関は3月決算期末をにらんで、当初は利益の出るREITを利益確定売り、あるいは損の出るものと併せ切りみたいな動きだったと思われますが、下げが加速するに従って、強制ロスカットのような動きが広がったと思われます。というか、そうでも考えないと理解できません。
金融機関では生損保の動きも見逃せません。生損保は昨年春以降、大きく買い越している様子が鮮明ですが、「こんな風に生損保の買いが膨らむのは初めて」(不動産事情とREIT市場に詳しいアイビー総研の関大介さん=4月8日(水)日経CNBC、朝エクスプレス「マーケット・レーダー」出演)です。金利低下が行き着くところまで進み、ついに生損保も債券代替商品としてのREITに乗り出してきたと考えられます。ざっくり言えば、地方金融機関の後を追ったのです。
一方、外国人投資家はといえば、実は2019年は売ったり買ったり売買交錯でした。ただ2018年までに相当に買ってはいるので、今年の2月から3月にかけての世界的な市場混乱で売りが膨らんだ可能性はあります。まとめますと、ことREITに関する限りは、外国人投資家の影響もあるのでしょうが、それよりは国内金融機関の動きが影響したのではないか――という推測です。これらの事情、3月の投資主体別売買動向が4月10日に公表されるのである程度までは検証することが可能です。
REITの値動きは若干は落ち着きつつあるものの、新年度に入ってからも、時折激しさを見せます。このあたりも、市場関係者の間では期初早々に「地方金融機関などが、お宝REIT(古くから買っていて簿価の低いREITなど)を売り、期初の利益確定をしているのではないか」といった見方が有力です。
もちろん、REITにはファンダメンタルズ面での不安もあります。特にホテルREITは昨年から弱い動きが目立っていました。新型コロナウイルス騒ぎの前から、韓国や中国からのインバウンド需要に陰りがみられたことが背景です。3月25日にはジャパン・ホテル・リート(8985)が20年12月期の一口あたり分配金(株式の配当に相当)の予想を「未定」に修正したと発表しました。そもそもの業績予想を「未定」とせざるを得なかったわけで、インバウンド、ホテル業界などの先行きはもちろん不透明です。
一般には安全性、安定性が最も高いと考えられるオフィス系のREITにも不安があります。下のグラフはリーマン・ショック前後のオフィスビル市場の動向を表したものですが、空室率の低下に変化の兆しが見え始めて(空室率が上昇し始めて)しばらくしてから平均賃料が低下していることが分かります。若干のタイムラグがある。景気の悪化が鮮明になればオフィスビル市況にも当然影響は出てくるでしょう。「リモートワークの進展でオフィスビルの需要が後退する」というのはちょっと現時点では極論のような気がしていますが(リモートワークの進展で必要になるオフィス需要もあるので)、もう少しシンプルに不動産を巡る環境は芳しくないのでしょう。
「それでも……」ということなのですが、僕自身は現在の、指数でいって1500前後くらいの水準でのREIT投資は割安感などなどから十分“あり”だと考えます。残念ながら持っているREITがえらい下がってしまったという方には、急ぎの資金が必要でない限り「焦ってすべて売る」みたいなことはお勧めできません。関さんは、ここからのREIT投資検討のうえでは「住居系や流通系などセクターを選んだり、タイミングの分散を図る」ことを指摘しています。もともと利回り商品なわけですから、中長期で持つ気になれば分配金が投資家の力強い味方になります。「ピンポイントで底値を拾おうとは考えない。でも、かなり下げ過ぎた」という感覚です。
値動きにあまりに神経質になり過ぎると“怖さ”の方が勝ってしまいます。怖いなぁと感じる気持ちがあまりにも強かったら(例えば夜眠れないくらいに……)、REITでも株でもちょっと様子をみる方がよいでしょう。個人的には手間暇のかかる不動産投資よりは、普通の個人投資家であればREITの分配金狙いで十分だと考えていますが、良くも悪くも金融商品なのがREITだなぁと思います。毎日の値動きが目に入ってしまう。目に入れば、普通は気持ちがざわつくものだと思います。
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