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「セゾン投信のこれから」――園部社長生出演書き起こしとポイント解説

6月28日(水)、セゾン投信を創業以来けん引し、積み立て王子として長期、積み立て投資の伝道師ともいえる役割を果たしてきた中野晴啓会長が退任した。中野氏本人はメディアなどのインタビューで「不本意だ」などと話しており、新たな運用会社の設立を目指していると伝えられている。中野氏の考え方に賛同、共感して投資を続けてきた多くの受益者には不安が広がっていることだろう。日経CNBCでは7月6日(木)、朝エクスプレスにセゾン投信の園部鷹博社長に生出演していただき、中野氏退任の経緯や、今後のセゾン投信の方向性などについてお聞きした。聞き手としては率直に、誠実にお話しいただいたと感じている。放送した内容のざっくり書き起こしに続いて僕自身の見方を加えて、この放送のポイントを整理する。なおこのコーナーの全編を、7月12日(水)から日経CNBC公式YouTubeで公開しており、どなたでも視聴できる。

販売を巡る考え方の違いではなく手段の違い

(直居)6月28日セゾン投信の創業以来会社をけん引し、長く経営者も務めてきた中野さんが会長を退任されました。6月以降は様々な報道もあって受益者や幅広い関係者の間で話題になっていると思います。退任に至る経緯は、どういうことだったのでしょうか?
(園部)「販売を巡る考え方の違いが背景にあったのではないか」というような報道がありましたが、実際にはそうした考え方の違いはなかったと理解しています。今後も私たちは長期、積み立て投資を軸にして、いらずらに販売会社を増やさず、むしろ直販チャネルを強化していくという点では株主(クレディ・セゾン)も、中野氏も全く同じだったのです。ただやり方、強化していく手段についての違いはありました。
<解説ポイント①販売を巡る考え方に違いはあったのか?下へ>

クレディセゾンと金融商品仲介業で契約


(園部)もちろん中野氏は、創業以来、ずっと長期・積み立て投資の大切さを訴えてきた功労者でしから、今後も取締役ではなくなるけれども、経営者とは別の形でセゾン投信、あるいはセゾングループとしてもその力をより広く活かせるポストを提案したのですけれども、それに関しては最終的に折り合いがつかなかった――と聞いています。
(直居)直販を軸とするセゾン投信にとって、どのような売り方をするかはとても大事な話だと思います。販売の仕方、手法は変わるのですか?何が変わり、何が変わらないのでしょうか?
(園部)私たちが長期、積み立て投資を軸にするという考えは変わりませんし、ひとりでも多くのお客様にそれを通じて幸せになっていただきたいという思いはまったく変わらないのです。ただ、我々設立当初から掲げていたことのひとつに、セゾンカードのお客様にもきちんと長期、積み立て投資をご案内していくということがありました。創業の時に明記していることのひとつです。ただこれまで創業以来16年、この点に関しての取り組みは十分ではなかったですし、中野氏はこの点に関しては消極的だったということはあります。
(直居)クレディセゾンとの関係、4月に動きがありましたね?
(園部)4月28日にプレスリリースを出していますが、私どもセゾン投信とクレディセゾンとの間で金融商品仲介業の契約を結びました。金融商品仲介業ですから、セゾンカードのお客様にご案内してお取引が始まった場合にはこれは直接販売となります。今回金融仲介の契約も、あくまでオンラインの仲介で、クレディセゾンが持っている媒体の中で3600万人のセゾンカード会員に対して私たちの長期、積み立て投資をご紹介していただくということ。これによって私たちの露出を最大限高めていく――。これが今回の契約で行っていくことです。
<解説ポイント②親会社クレディセゾンとの関係、下へ>

販売はお声がけいただき、賛同できるところと少しずつ


(直居)なるほど、金融商品仲介の仕組みで直販チャネルのひとつとしてクレディセゾンを活用していくということですね。セゾン投信はこれまでも、直販を軸としながら他の販売チャネルも少しずつ広げてきましたね?
(園部)今、既にお付き合いさせていただいている金融機関は、ゆうちょ銀行や各地方銀行、それから証券会社。これら全部合わせると現在18社あります。当然これまで通り、急いで販売会社を増やしていくというつもりはなくて、あくまで私たちの考え方に賛同いただいて、向こうからお声がけいただき、一緒に進めていけるのであれば一緒に進めるが、ただ、急激に広げていけるほど私たちのマンパワーもないのです。あくまで少しずつ進めていくということです。
(直居)少しずつということですね?ということであればそれこそズバリお聞きしたいのですが、クレディセゾンはスルガ銀行と業務資本提携を結んでいます。これはクレディセゾンにとって大きな話だと思うのですが、スルガ銀行でのセゾン投信販売が始まるのでしょうか?
(園部)今現在のところ、セゾン投信とスルガ銀行の間で、一切そのような話は出ていないのです。始まるきっかけの話も全く起こっていない。スルガ銀行含めて、あるいは一般の販売会社の場合でも同じなのですが、我々一般の運用会社のように、運用会社から販売会社に働きかけて「我々の商品を扱ってください」といったご提案は一切することはないのです。むしろ待ちの姿勢。お声がけいただいて、これまで提携してきた金融機関の場合も同じですが、既に社内でどういう基準、判断軸を満たせばお取引を始めるか、という社内のルールがあります。今後もそのルールに基づいて、どこの金融機関であってもお声がかかった場合にはそのルールに照らし合わせて判断していきます。
<解説ポイント③直販チャネルをどう考えるか?下へ>

5月、6月と資金純流入を維持


(直居)基本的に声がかかるのを待つという考え方。ということではありますが、受益者の間では動揺も広がっているように思います。直近の資金流出入の動向について教えてください。
(園部)このグラフにあるように、直近だと3月を頭にして資金の流入は若干減っているのですが、5月は全体で28億円の流入、プラス。6月もいろいろなことがあったが6月通してみると12億円のプラス。プラスは維持している。

資金の純流入は続いている

(直居)積み立ての状況については?
(園部)積み立てについては直接販売のチャネルでは年初から減ってしまったということはあります。これには色々な要因がありまして、5月からマーケットが非常に好調で利益確定売りをする方が出ていたということは数字をみていても明らかでした。一連の報道などの影響もあるのでしょうが、それよりも年初から積み立ての流入が減っているという状況も考えると、来年の新NISAの影響が広がっている、新NISAを見据えたお客様の動きが広がっているのでは、とみています。

運用への影響はまったくない


(直居)新NISAの話、後ほどお聞かせください。その前に資金流出入と運用への影響についてお聞きしたいのです。投資信託の世界では、資金の流出入が不安定になって、それが運用にも影響を与えるということがこれまでもたびたびあったことだと思います。この点いかがでしょう?
(園部)毎日運用責任者とは密に連絡を取り合っていますが、直近まで、運用への影響はまったくないと聞いています。かつて投資信託業界で資金の流出入が運用パフォーマンスに影響を与えた例はたくさんあるのですが、その中身は一部のテーマ型に限定していたというようなことでした。私たちが考えていますのは、運用パフォーマンスに影響を与えるのはファンドの規模であるとか、流出入といったことよりは、きちんと目標とするポートフォリオを維持できているかどうか、ということです。それができていれば運用への悪影響はないと考えています。この点で私たちの旗艦ファンドであるセゾン・グローバルバランスファンド、あるいはセゾン資産形成の達人ファンドは対象としている市場が巨大な世界で、市場には十分な流動性があります。「ファンド・オブ・ファンズ」という形態で、投資しているファンドも巨大ですが、その先の市場がまた巨大です。資金の大きさであるとか、流出入の状況に関わらず、目標とするポートフォリオを維持できていれば、運用のパフォーマンスに影響はないですし、運用者が現状全く影響がないと言っている背景にはそういったことがあります。

(直居)機関ファンドの2本と共創日本ファンドでは、事情は違いますか?日本の上場株に直接投資していますね?
(園部)昨年2月に設定した共創日本ファンドは、投資対象を日本株に限定しているということはありますが、組み入れている銘柄は流動性の高い上場大型株を中心にポートフォリオを構成しています。こちらもポートフォリオを目標通りに維持していくということは実現できていますし、昨年2月の設定来はずっと資金は流入が続いています。そういった意味でも全く心配はないです。

新NISAにらんだお客様の動き

(直居)では、先ほどもありましたが新NISAへの対応についてお聞きします。NISA制度としては枠が大幅に拡大するわけですが、直販を軸とするセゾン投信としては難しいところがあるようでうすね?
(園部)そうですね。既にそれを見据えたお客様の動きも始まっています。少なくても私どもの直販チャネルで新NISAを利用しようとすると、枠が大幅に増えるが、3本の中から選んでいただくということになります。
(直居)NISA口座は一つしか持てませんからね。「それは不便だ」「もっと多くの投信に投資したい」という声はありますか?
(園部)「もう少し商品の取り揃えが多い方がいいよね」というお客様の声があることは承知しています。ですが、私たちの考え方は単に商品の数が多いことが、新NISAに向けてよいことだ、というのではないのです。数が多いかどうかではなく、一つ一つの投資信託が十分に分散されているかどうかが大事だと思っています。その意味で私たちの3つのファンドは十分に分散されていますし、NISA制度も恒久化される中で、長期投資にふさわしいファンド3つを厳選しています。数は少ないけれどもお客様には安心していただけると考えています。

相談機能、利便性など強化


(直居)なるほど。ではそのNISAへの対応も含めて、これからセゾン投信としてのサービス、特にどのあたりを強化していくか、というポイントをお聞かせください。
(園部)特に相場が大きく動いた時などに、どうしたらよいのか、どのように理解したらよいのか?という場面があります。そうした時のためにお客様限定で無料で使える相談サービスを用意しています。また、来年の1月新NISAのスタートに合わせて、スマートフォンやパソコンで口座開設、取引、それから情報の入手ができるようなアプリの開発をしていますので、そうしたところでサービスの拡充を図っていきたいと思っています。
(直居)きょうはどうもありがとうございました。
(園部)ありがとうございました。


<解説ポイント①販売を巡る考え方に違いはあったのか?>


放送で園部社長は、直販を軸として、少しずつ「待ちの姿勢で」チャネルを続けていく考え方に変わりはないと明言した。その限りで親会社、株主であるクレディセゾンとの間に考え方の違いはないともーー。園部社長は、販売会社から申し出があった場合「セゾン投信のルールに照らして一緒に進んでいけると判断した場合に」販売のチャネルを増やしていくとした。このルールとは3つ。
(1)原則として2ファンド合わせての採用。「売りやすいから達人ファンドのみ」といった場合は断る
(2)セゾン投信のフィデュ―シャリー・デューティ(顧客本位)宣言に同意し、提携後も協力する
(3)セゾン投信がアプローチできない顧客層にリーチできる戦略または意欲があり実現可能性が高いこと--。
この通りであるなら、販売方針自体に大きな変化はない。クレディセゾンとの金融商品仲介業契約も、あくまでオンライン上の露出機会の話だ。むしろこれまでセゾンカード会員向けのアプローチがあまりなかったことの方が不思議だとも言える。一方、6月16日付の日本経済新聞電子版では、クレディセゾンの水野克己社長がインタビューに答え、スマートフォン上での手続きを簡単にするなど利便性を向上させ「規模を10倍にしたい」などと語っている。「顧客本位」と「10倍」は矛盾なく両立するのか――。クレディセゾン、セゾン投信が今後丁寧に説明をしていくべきポイントのひとつだ。
 

<解説ポイント②親会社クレディセゾンとの関係>


クレディセゾンの社員である中野氏が主導し、当初はクレディセゾンの100%子会社として、立ち上げたのがセゾン投信だ。だが、収益化までに時間がかかり、クレディセゾンの社内ではかなり厳しい目で見られていた。その状況で何とか中野氏の後ろ盾となって支えてきたのがクレディセゾンの林野宏会長だ。だが、中野氏とクレディセゾンの関係は次第に悪化し、「セゾンカード会員に資産形成の手段を届ける」という創業時に掲げていたはずのミッションも、置き去られた格好になった。今回の局面で、経営者としての中野氏に引導を渡したのが林野会長だった。金融商品仲介業契約でクレディセゾン会員3600万人へのアプローチを得たことは、セゾン投信にとってひとつの可能性であり、創業来の原点に立ち戻る動きでもある。ただ、親会社の経営方針の変更、あるいは考え方の違いによって、投信子会社のあり様が大きく変わってしまい、結果として受益者に不利益が生じるような事態となれば、それは到底、顧客本位とは言えない事態だ。2023年の金融庁による資産運用業高度化プログレスレポートで指摘していた「資産運用会社の経営の透明性確保」、ガバナンスや経営者の出身、在任期間などの指摘は、基本的には大手証券会社とその運用子会社のことを念頭に置いているものだ。少なくても僕はそう考えていたのだが、もちろん、クレディセゾンとセゾン投信の場合でも問われるポイントだ。
 

<解説ポイント③直販チャネルをどう考えるか?>


澤上篤人氏が直販と積み立て投資を軸とするさわかみ投信を立ち上げ、それがセゾン投信やコモンズ投信、ひふみ投信のレオス・キャピタルワークスなどに拡がっていく過程を取材していて、僕は日本の金融、投信にとても大事な変化、イノベーションが起きていると感じていた。だが、状況は変わった。対面営業をしないネット証券が圧倒的に力を増し、フィンテックがユーザーとの距離を縮める。金融行政の顧客本位重視も鮮明になっている。今や原則として直販を維持しているのはさわかみ投信と鎌倉投信くらいだ。問題は「直販かどうか?」ではないのだろう。運用会社と販売、そして受益者はどのように価値を共創していけるかどうか――。引き続きこんな観点から金融業界の変化を見ていきたいし、多くの人に見てほしいと思う。




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