Alternative Data Conference 2019 Autumn 開催報告
初めに
10月7日に「Alternative Data Conference 2019 Autumn」を開催いたしました。おかげさまで定員250人を大きく上回る申し込み数をいただき、盛況のもと閉会することができました。ご来場いただいた皆様、協賛社様、登壇いただいた講師の方々に深く御礼申しあげます。
企業の決算情報や政府の公式発表など、いわゆる「伝統データ」に代わり、SNSや携帯電話の位置情報、クレジットカードや衛星データなどの情報を利用した「オルタナティブデータ」が、新たな投資判断の材料として海外の金融企業を中心に広がっています。
オルタナティブデータの広がりを可能にしたのは、AIに代表される機械学習、データサイエンス、自然言語処理やビッグデータに基づいたモデリングなどの技術の発展です。国内でもその利用は広まりつつありまが、一方で利用するデータの選定やデータを効率的に活用するための組織づくり、あるいはコンプライアンスの面で課題を抱えている企業は少なくありません。
今回のカンファレンスでは、データプロバイダーや法律関係者など、オルタナティブデータ関係の主要プレイヤーを招き、データ活用の課題解決に向けたヒントを提供していただきました。
オープニングセッション「海外におけるオルタナティブデータ活用の状況」
日本取引所グループ総合企画部フィンテック推進室課長の高頭俊氏が登壇し、オープニングセッションとしてオルタナティブデータの定義、センチメントデータ、Webスクレイプトデータ、衛星データなど、具体的なデータの種類とその内容、海外での利用状況やその予算規模などについての説明を行いました。また今後の日本での広がりを見据え、オルタナティブデータ導入の際のアドバイス、導入予算の目安なども提示しています。
講演1「等身大のオルタナティブデータ分析」
System2クライアント・ソリューションズ・ディレクターの深谷羊子氏が登壇し、実際にヘッジファンドやプライベートエクイティ向けにオルタナティブデータ分析サービスを提供する立場から、運用会社が主に米国でどのような経験を積んでいるのか講演しました。「等身大のオルタナティブデータ分析」ということで、実際にオルタナティブデータを購入する際の実例などを紹介する一方、オルタナティブデータに対する過度な期待と誤解についても示唆しています。
講演2「データ活用の法的課題」
西村あさひ法律事務所パートナーの福岡真之介弁護士が登壇、データという「無体物」を扱う際の法的問題やコンプライアンスの問題について講演しました。一般的に、データの取得や利用、そこから発生した損害の回復をまとめて規律する「データ法」という法律は存在しません。そこで、データの売買に関して重要になるのが「契約」です。契約内容で注意すべきポイントや、データの利用が個人情報保護法や金融商品取引法といったコンプライアンスに関する法律に抵触していないかという視点を提示していただきました。
講演3 「ESG評価の最新潮流 ~Arabesque S-ray® 日時のESGスコア~」
QUICK の広瀬悦哉氏が登壇し、世界で急速に拡大しつつあるESG(環境・社会・企業統治)投資やその評価基準、さらに日本のESG投資の現状について講演しました。その際、QUICKがドイツのESG評価会社、アラベスク・エス・レイと提携し、提供を開始した企業サステナビリティ評価ツール「Arabesque S-ray®」を元に、具体的にどのようなメソドロジーでESG評価が行われるのかという説明も行われました。
講演4 「POSデータでみる企業の価格決定力」
LightStream Research Inc. のCEO、加藤ミオ氏が、定量分析に重点を置いた同社の株式調査サービス、ミクロクオンタメンタルについての講演を行いました。日本のドラッグストアや食品メーカーの経営分析を行い、とくに食品メーカーのケースでは、その会社の人気商品の値上げが同社の経営にどのような影響を及ぼすかという点を、日経POSデータを活用して価格弾力性を算出しながら紹介。オルタナティブデータが経営分析にも役立つ実例を紹介しました。
講演5 「海外バイサイドでは当たり前に利用されるモバイル市場データは」
モバイル市場データ提供として世界最大手のApp Annie Japanの栗林恵次郎氏が登壇し、欧米を中心に主要なオルタナティブデータの1つとなっているモバイル市場データの内容に加え、ヘッジファンドやクオンツ運用など投資企業において利用が増加している状況について講演しました。可処分時間・所得の多くがモバイルを通して消費される中で、なぜモバイル市場データがそれほど投資の世界からも注目されているのかという理由が見えてきました。
パネルディスカッション1「国内データホルダーからみた景色」
最初のパネルディスカッションでは、伊藤忠商事通信・モバイルビジネス部プロジェクトマネージャーの山領雄氏、ジェーシービーイノベーション統括部の村上恭之氏、日本経済新聞社デジタル事業次長の久慈未穂氏が登壇。モデレーターであるナウキャストの代表取締役社長・辻中仁士氏の進行で、各社の関係する衛星画像データ、クレジットカードデータ、新聞社のPOSデータに対するどのようなニーズが国内外で広がっているかというお話がありました。
パネルディスカッション2 「オルタナティブデータにおけるプラットフォームのあり方」
2つ目のパネルディスカッションでは、ファクトセット・パシフィック コンテンツ&テクノロジーソリューションズのヴァイスプレジデント・三本木宏氏、東京証券取引所情報サービス部課長の保坂豪氏富士通デジタルソリューションサービス事業本部データ流通利活用サービス事業部事業部長の佐々木泰芳氏が登壇、ナウキャスト代表取締役社長・辻中仁士氏の進行で、各社がプラットフォーマーという立場から、どのような形でユーザーに対しオルタナティブデータの活用機会を提供しているかというお話と、今後のデータ市場の展望を紹介しました。
パネルディスカッション3 「オルタナティブデータ活用の近未来」
本セミナー最後のパネルディスカッションでは、一橋大学大学院グローバル金融規制研究フォーラム代表・前金融庁総合政策局長の佐々木清隆氏、メルペイ代表取締役・メルカリ取締役の青柳直樹氏、ナウキャスト取締役会長・早稲田大学研究院客員教授の赤井厚雄氏が登壇。赤井氏がモデレーター役を兼ねてパネルを進行し、主にオルタナティブデータによって生み出される金融分野での新ビジネス、そこで問題となる大量の個人情報の扱いなどについて、意見が交わされました。
終わりに
日本経済新聞社は引き続きこうしたイベントを通じて金融におけるビッグデータの利活用や、その基盤となるパブリックな議論の場を提供してゆきたいと考えております。今回のオルタナティブデータカンファレンスは、春の開催に続いて2回目になりますが、おかげさまで前回以上の盛況裏に閉会いたしました。ご来場、ご協賛いただきました皆様に謹んで御礼申し上げます。