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〈視察レポート〉見て聞いて質問して分かった! 中国でテクノロジー企業が次々誕生していく理由

2019年6月26日~29日、日本経済新聞社プロデュース「北京チャイナ・テック視察」を実施しました。視察団の募集が始まった直後に、米中の対立が深刻化。中国への渡航を控えるムードが漂うなかでも参加を決めた今回の視察団の方々は熱意と積極性に富み、中国の大学、企業、メディア関係者と大いに議論を交わし、実り多い視察となりました。

今回の視察の主なプログラムは、

(1)清華大学訪問

(2)計15社のスタートアップ起業によるピッチ

(3)中国ユニコーン企業(10億米ドル以上の価値を持つ非上場企業)訪問

(4)ビジネス交流会 でした。順に振り返りたいと思います。


(1) 世界最高レベルの技術系大学「清華大学」と起業を支える大学発プラットフォームを見学

 清華大学は中国の国家重点大学で、現在の国家主席である習近平氏の母校でもあります。いわゆる世界の大学をランキングする調査においても、常に上位に君臨しています。
 北京には多くの大学がありますが、中国の広い国土から集まった一握りの秀才の、そのまた一握りの選ばれた学生のみが清華大学への入学を許されます。

 視察団はまず清華大学のキャンパスを訪問。広大な敷地には車が通れる道路が走り、その脇に芝生と荘厳な校舎が並んでいました。
 その足で大学敷地内にある学生の起業を後押しするための施設「X-Lab」へ。X-Labは、起業を志す学生が技術開発と事業計画の両面で教授陣の指導を受けながら、経営戦略やビジネスモデルの構想を練る場所です。X-Labは指導だけでなく、起業のためのリソースを提供すべく、政府や大企業、投資機関、銀行と連携しています。これまでに3万5千人以上の学生が参画し、すでに600余りの法人が設立されているそうです。
 X-Labへは思い思いの服装をした学生がフラッとやってきて、自らの作業を始めていました。入口の壁には、Facebookのザッカーバーグ氏が講演に来た時の写真なども飾られ、非常に自由な空気に包まれていました。

  その後、視察団は「清華大学サイエンスパーク(TUS)」を訪問。TUSはX-Labなどを経て、いよいよ事業展開に乗り出そうとする起業家を支援する施設です。清華大学が45%を出資するTUSは、インキュベーションセンターの運営、起業家の育成、ベンチャーキャピタル事業を手掛けています。総資産は2000億元! TUS傘下のTUS Starは国内外に120以上の拠点を持ち、計3000社を超えるスタートアップを支援しています。エグジットに成功した企業は約75社。その後の海外展開もTUSが支援していきます。

 TUS各施設の説明を受けたあとは、日経・TUS主催の講演会を聴講。TUS Holdings COOの陳鴻波氏、X-Lab ディレクターの毛東輝氏、また今回の我々視察団の団長である東京大学教授の柳川範之氏らの話を聞きました。

(2) ”新しい技術”の開発 < 新しい”技術の応用” で軽やかに起業 

 前述のX-LabにもTUSにも、またその翌日訪れた創業大街の亚杰汇(AAMA)にも実にオープンなコワーキングスペースがあり、ひっきりなしに、学生(or 若者)が出入りしていました。フラッとやってきてお気に入りの席でPCを立ち上げたり、時には併設のミニ会議室スペースで議論を交わしたり、自然な雰囲気で”起業”に励む若者の姿がありました。

 今回の視察では計15のスタートアップのピッチを聞く機会がありました。
デジタル技術に詳しい方なら「それならもう●●がとっくにやっているよ」と言いたくなるような取り組みを事業のコアにしている企業もありました。しかし「他がすでにやっていること」「すでに開発しつくされた技術を使うこと」であっても、そこに何らかの新しさ、差異が加わっているのであれば、それは「新しいビジネス」なのだ、と堂々と挑戦する。そんな自信に裏付けられたかのような積極性や前向きさ、軽やかさを間近に感じられたピッチでした。

 大人たちが「そんな二番煎じ、、、」とか「もっともっとどこにもない新しいことをしなきゃ駄目だ!!」などと言いすぎると学生は自らの可能性を狭めてしまうかもしれません。今回視察した各施設では、大先輩である教授陣やスタッフが学生の自由な発想の芽を伸ばしていこうという雰囲気がありました。もちろん、「大衆創業・万衆創新(大衆による起業・イノベーション)」という国策が掲げられていたり、少しでも早いエグジットを求められているなど、甘い面ばかりではありませんが、本当に中国の若者(ごく一部の選ばれしエリートに限る話ですが)は起業しやすい環境にあるのだと思いました。


(3) 7億人が利用する動画SNS「快手 Kuaishou」
  一卵性双生児の見分けも楽々「北京旷視科技 Megvii」    

 視察3日目は、北京市の西北エリアに位置するユニコーン企業、「快手 Kuaishou」と「北京旷視科技 Megvii」を訪問しました。

 日本において中国の動画SNSといえば、北京字節跳動科技有限公司(Bytedance)のTikTokが有名です。もちろん中国本土でもTikTokは大人気なのですが、それは主に都市部での話。ご存じの通り、中国は一部の都市部と、それ以外の広大な農村部からなる国です。この農村部にフィーチャーし、ユーザー数を伸ばし事業を拡大し続けているのが「快手 Kuaishou」です。設立以来急成長を遂げ、現在の社員数は約8000人。2018年末に北京郊外の上地(テクノロジー起業が集まるエリア。高学歴高収入者が集まることでエリアとしての人気も急上昇中。故の”渋滞”が地域の問題だそうです。)に本社を移しました。欧米大学のキャンパスのような空間で働く社員の平均年齢は30歳。駅からは、ぞろぞろと歩く(正直裕福そうには見えない)ラフな格好をした若手エンジニアが快手の本社に吸い込まれていました。中国では同じ企業でも職種によって給与に大きな差があります。現在のところ、エンジニアは最も高額な報酬が得られる職種のひとつです。数年前に、ファーウェイが日本で大卒のエンジニアを「初任給40万円」としたことで”高い”初任給だと話題を集めましたが、中国勤務のエンジニアたちはそれをはるかに超える給与を与えられているそうです。(でも身なりは本当に質素。。。)

 2社目の北京旷視科技( Megvii)は「Face++」という顔認証サービスを展開しています。創業は2011年。こちらの企業の従業員の平均年齢も25歳とひくく、その約7割がAI開発などの研究者です。本社エントランスで来客を出迎える顔認証システムでは正面を向いていなくてもしっかり一人一人の顔を認知し、瞬時に性別や年齢、服装などを分析・表示します。(年齢の判別では、なんとかごまかそうと様々な表情を試しましたが、、、残念なこと?に実年齢に限りなく近い判別が大半でした。精度、すごいです。)Megviiの技術は、中国国内の顔認証付き決済システムの8割以上で採用されているほか、学校の生徒管理(日本ではかなり抵抗が出そうですが。出欠、授業中の態度、挙手の様子などなどぜーんぶチェックされ記録されるのだとか!)、迷子の捜索、犬猫の識別、犯罪捜査、安全対策などなどに使われています。

  視察最終日に参加者のご意見をうかがったアンケートでは、このユニコーン企業の訪問時間・質問時間について「もっと時間が欲しかった」「もっと質問したかった」という声が寄せられました。ここは反省点ではありますが、それほどまでに充実した時間を過ごすことができました。


(4) 中国の大学関係者、起業家、ジャーナリストと交流

 視察団では、27日と28日の夜にビジネス交流会を開催しました。

 27日は、清華大学教授の崔保国氏、TUS Star VP 劉雪良氏、TUSの国際担当マネージャー 尚薇氏、登壇したスタートアップ企業の経営陣らをゲストに迎えました。日本側の視察団参加者の皆様にも演台で自らの事業紹介をしてもらうことで、中国側ゲストも高い関心をもちながら意見交換ができたと思います。

 28日は、中国の経済雑誌「財新」の 李昕副総裁、スタートアップ情報のwebメディアを運営している「36Kr」のグローバルパートナー鄭胜浩氏をゲストに迎えました。李氏と鄭氏からは、メディアとして、大学や起業の現場から少し離れたところから中国の今についてのお話をいただき、視察団参加者も自社のビジネスの相談をしたり、マクロ経済の話で盛り上がったりしました。

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 こうして終えた4日間の視察は、日本からの参加者の皆様にとっても、受け入れてくれた中国側の皆様にとっても、また我々事務局スタッフにとっても大変実り多いものとなりました。

 日本経済新聞社では、これまで新聞やwebで提供してきた”コンテンツ”を3次元で体感いただくことができるこのような視察ツアーを今後も予定しております。個人ではなかなか行くことのできない場所、会うことのできない人との交流を提供していきたいと思います。

≪2019年10月6日~≫
東アフリカビジネス視察団(エチオピア、ウガンダを訪問)の詳細はこちらから

https://events.nikkei.co.jp/17178/

 今後とも日経プロデュースの視察ツアーにご注目ください!

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                                                            日本経済新聞社
                      北京チャイナ・テック視察 事務局

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