4月に入り、ほんのちょっぴり世界の見え方が変わる。服飾業界の都合により、良し悪しのわからぬままに売りつけられたリクルートスーツとか言うペラペラの布をまとう若者たちが新生活に期待と不安混じりのキラキラとした表情を浮かべている。その周囲をもはや希望などなく、ただただ右肩下がりの人生を送り、いずれ使い潰される運命にあるわれわれは洞窟の奥よりも暗い表情でうつむいているのだ。
ふと顔を上げると電車内の液晶ディスプレイには「1分後に世界が変わる」と謳うTRAIN TVなる放送がはじまっていた。
「1分後に…世界が…変わる…?」
「なに、馬鹿なことを言っているんだ」
わたしはそう思った。1分、それどころか何十年かかっても自分の人生ひとつ変えることができなかった人間たちの掃き溜めなのだ。この通勤電車という場所は。