見出し画像

バレンタインチョコを貰えない私の夫は全然かわいそうではない話

「バレンタインに彼女/妻から何ももらえない……」
と愚痴る人がいたら、思わず
「あらそれはかわいそうね」
と相槌を打ちたくなるものである。

だがちょっと待ってほしい、それは本当に「かわいそう」なのだろうか?

本当に「かわいそう」な人は別にいるのではないだろうか?

私はこれからある人間の話をしたいと思う。
「ある人間」とは私の夫のことであり、彼もまた妻から何ももらえない、一般的にいうところの「かわいそうなメンズ」の一人である。


話は多分10年くらい前、私と夫が付き合ってはじめてのバレンタインデーに遡る。

その時はまだ私も彼氏というものにはちょっといい面見せてやろうと思っていたので、「バレンタイン、市販と手作りとどちらがいい?」と希望を尋ねた。
彼も彼でまだ調子に乗っていたので「手作りがいい。でもチョコは好きじゃない」などと生意気なことをのたまっていた。

だから、私はクッキーを焼いて瓶に詰め、丁寧にラッピングしたものをバレンタインプレゼントとして贈呈した。

それをあろうことか現夫当時彼氏のその男は1口くらいかじっただけで全部捨てやがったのである。


経緯は以下の通りである。

その日、我々は新しく買ったテレビゲームに興じていた。
タイトルは忘れたがなんか女の子を男の子が助ける感じのやつで、つまりRPGで、ちょっとグラフィックが綺麗(当時にしては)なやつだった。

ところで現夫当時彼氏のその男は大変に酔いやすい人間である。
酒に、ではない。乗り物に、である。
大体の乗り物はダメだし3Dの映画もダメだった。
そしてもちろん、3Dグラフィックがグリグリ動くタイプのゲーム画面もダメだった。

だからゲームをしていて彼は酔った。
だが彼は「ゲーム画面に酔った」ということを理解せず「気持ち悪くなった」と捉えた。

そして気持ち悪くなった原因を「普段は気持ち悪くならないから、普段と違うことだろう」と推察した。

そして「普段と違うこと=バレンタインのクッキーを食べたこと」と結論づけたのだ。

ゆえに、「このクッキーにはなにか悪いものが入っているに違いない」と考え、その場では「後で食べるね」などといって食べるのを回避し、私が帰った後部屋のゴミ箱に捨てたのである。


率直に言って馬鹿である。


味がおいしくなかった、とかなら意味はわかる。別に許しはしないが。
気持ち悪くなったからってなんだよ。アレルギーないだろ。
というか乗り物酔いと食中毒系の「気持ち悪さ」って感覚違うだろ!
(実はこれは語彙力のなさに起因するものであり、扁桃腺の腫れも「歯が痛い」などと表現する頓珍漢であることが後に発覚する)

部屋のゴミ箱に捨てたのも認知能力の欠如としか思えない。
仮に捨てるとしても目につかない場所に捨てないか?だってバレるもん。


まあとにかくそんな感じでその男はわざわざ人にクッキーを作らせておきながらほぼ全部捨てたのである。それも上記のような許しがたい理由でだ。

そのとき私は「決してこの男に何かを作ってやるもんか」と固く決意した。
だから私の食事のついで、とか娘と作ったおやつのおこぼれをあげることはあっても彼一人のために料理やお菓子を作ったことはない。


当家の夫は、確かにバレンタインには妻から何ももらえない。
だがそれは上記のような理由があるからであり、単なる自業自得なのである。かわいそうなのは当時の私だ。

だが夫は「妻はバレンタインに何もくれないんだよね〜」とだけしか人には説明しない。
ゆえにいつも私が悪いような扱いをされるのだが、それは非常に納得がいかないというか状況も知らないくせに適当な相槌だけ打つなよと毎年思う次第なのであった。


いいなと思ったら応援しよう!