『結末メニュー』
「ワタクシ『ハッピー・エンディング・センター』から参りました、死神です。
タカハシ ソウタ様でお間違いないでしょうか?」
死神って、フードが付いたローブみたいなのじゃなくて、スーツで仕事してるんだ。と、俺は思った。
「はい。そうです。」
「踏み込んだお話で申し訳ないのですが……ご自身の寿命についてはご存知でしょうか。」
「はい。医者から、もってあと3ヶ月だと言われました。」
「そうですよね!
実は今回、高橋様に弊社のメニューのご案内に参りました。」
申し訳ないとは口先だけで、他人の寿命というセンシティブな話題に対する無神経さに、あぁ本当に死神なんだなぁと呑気な事を考えていた。
「ワタクシどもとご契約していただいたお客様には、ご自身の死に際を自由に決める事が出来るサービスを提供しております。
お客様自身を物語の主人公に例えて、死に際の事は「結末」と呼び、「結末メニュー」に沿ってお好きな結末を選んでいただけます。
「結末メニュー」をお渡ししますので、ご検討いただけたら幸いです。」
そう言って、パンフレットを残して死神は消えた。
パンフレットに書かれていたのは、以下の通り。
こうして、俺は死神に申込書を送った。
6通目の審査結果は、手紙だけでなく死神が直接謝りに来た。
「タカハシ様、今回もご希望のメニューをご用意出来ませんでした。
なかなかご期待に応えられず申し訳ありません……。」
「いや、いいんですよ。
そうなんじゃないかなぁって思ってました。
むしろ死神さんを困らせて申し訳ないです。
次は、無難な内容にしておくので。」
・・・
今度こそ、タカハシ様のご要望にお応えする事が出来てひと安心した。
結局、タカハシ様が申込書に記入したのは「病院で、家族の目の前で看取られる。」という、ありがちな様でとても幸せな、要望としては一番多い結末だった。
彼はそれに満足していた。
私も、無事に契約を取ることが出来て満足だった。
タカハシ様の6通にも及ぶ申込書の審査をしていて、タカハシ様が私を利用していることに気付かなかった訳じゃないが、死神の私がそれに気付いた所で、私の仕事には関係のないことだった。
タカハシ様は、幼い時にいじめを受けていた。
いじめをしていた側は、子供のちょっとした悪戯くらいの気持ちだったかもしれないが、本人は大変傷ついたのだろう。
自殺未遂を図った事が記録に残っている。
50歳になった今の今まで、いじめていた6人の名前も顔も忘れた事は無かった。
「じゃあ、あの6人はどうだ。俺の事を覚えているだろうか。」
きっと、そう思ったに違いない。
タカハシ様は、6人を試すことにした。
「側に居てほしい人物」の欄に6人の名前を書き、「相互に顔と名前が一致している」かどうか確かめていたのだ。
この結果を知って、タカハシ様は残りの時間をどう使うのだろう。
私はこれまでの6枚の申込書をシュレッダーに入れ、7枚目のそれに判を押した。
終わり。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます!
こちらの作品は勿論フィクションです。
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