戦友とカフェにて獣
お会計を終えた紳士が扉を開け放って、一瞬感、やっと外で行われている祭囃子の喧騒が入り込んでくるくらい。扉が閉まった後は、永遠の静寂。
コーヒーの水面からは生まれたての湯気が上がる。そして、2人の間には静寂が獣のように息を潜めていた。
「あれどうやったの、最後のやつ」
「必死だったから覚えてない...」
沈黙。獣。
戦友とカフェで話が弾まない。弾みかけもしない。戦友は目の前のミルクレープを細いフォークで遊んでいるし、一方の僕もおしぼりの端を指でこねくり回している。僕たちは拳を交わしたあの熱量そのままにカフェに来てしまった。なんせ近くにカフェがあってしまったから。交わした拳だけが物語で、それが全てだった。
「角砂糖ってこんな白いっけ?」
「こんなもんじゃない?」
沈黙。獣。
戦友とカフェで話が弾まない。弾みかけもしない。おしぼりの手をコーヒーカップに移す。コーヒーカップに口を付けている間は、僕は喋らなくていいし、さぁ、来いとばかりに戦友から話し出すのを期待し、盛り上がりの初速を待っていた。
熱っ、そう言った僕を、戦友はチラッとだけ見て終わった。
沈黙。獣。
「今日、疲れたなぁ、」
「うん...」
もう1ラウンド、いこうか。
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