2000円か
夫(40歳)の部下には、大学を出たばかりの女の子が多くいる。
夫はその子たちに仕事を教え、ある程度育ったら、その子たちは他の部署へ移動する。そして、また新たに入社した子が夫の元に来る。
せっかく育てたところで、はい次〜、という感じでヒヨコを渡されるので、最初のうちはげんなりしている様子だった。
夫は男兄弟しかおらず、学生時代は男友達ばかりと遊んでいたので、女の子との話題や距離感などがわからず何かと気を使うらしい。
夫が若い女性とどう接したらいいかアドバイスをくれと言うので、とりあえずミルクチョコレートを持っておいて、泣いたら渡せと言った。
私が初めて就職したときの教育係の方が、私が泣いたりするとお菓子をくれて、立ち直るのに効果覿面だったので。
夫は本当によくしゃべる人で、まだお付き合いを始める前、食事に行った時もずっと仕事の話をしていた。相槌をうつ暇すらないほどしゃべり続ける。つい「あなたって、いつ黙るんですか」と素直な疑問をぶつけてしまったことがある。
結婚してかれこれ7、8年経つけれど、今も変わらずしゃへり続けている。身振り手振り話すので、見たこともない会社の人の名前はもちろん、席の位置まで私はわかる。
ある日、仕事から帰ってくるや、いつものようにその日あった出来事をしゃべりだした。
夫のデスクから少し離れたところの、電卓が得意なベテランパートさんの隣の席の新人さん。Kさんと話した内容だった。
Kさんは、もし自分が結婚したらどんな生活を送るんだろうと、色々と想像を膨らませて楽しんでいる様だった。そこで、夫の奥さん、つまり私のことを聞きたがったらしい。夫は当たり障りないことを言った。専業主婦で4才と0才の子どもを育てている。このときはコロナが流行し始め、幼稚園が休みになったり、外出も自粛している時期だったので、そんな話もしたとか。
この話を聞いたKさんの反応がこうだった。「ひとりで1日中子ども2人の面倒みてるんですか!大変そう、私だったら時給2000円でもやりたくない」
これを聞いた私の心境は、まさに、ガビーン。ガビーンって最近では古い言葉なのだっけ、でもガビーン。。。
あれ、なんでガビーンなのか、わからない。なんだか悪いことをしたときのような、焦りのようなものを感じる。
ちょっと考えた。
私から見れば、まだ若い、これから色んな人生の可能性があって、もし結婚したら〜と可愛らしい想像をして、希望に満ち溢れているKさんが、子育てに関しては希望を持てないでいる。
その原因の一端が私にもある気がする。ガビーン。
子育てはそりゃー大変なことはあるけども、この、母親にだけ向ける最高の表情や、噴水のようにブッシャーと溢れ出る「可愛いー!!」という気持ち。私はこの感情を子育て以外で感じたことはない。毎日子どもと一緒にいられて嬉しい。
こういう話を、夫や、周りの人にしてなかったな、と思った。疲れた、とか、きつい、とはよく言っているけれど。。。自分の子が可愛いのは言わなくても当たり前だと思っていた。
おしゃべりな夫はきっと会社でも家庭の話をよくするはず。詳細は話さずとも、何となく伝わることもきっとある。
私は直接、夫の会社の新人さんたちに会うことはないけれど、おしゃべりな夫を通して、私の生き方は彼女たちの将来像のひとつになってしまっていると思った。
これからは子どもがベラボーに可愛いことや、ついでに夫のことが大好きだということも、ちゃんと、たくさん伝えていこうと思った。
次々やって来るヒヨコ達に、明るい未来像を見せられたらいいなと思う。