この花の名前を私は知らない
私は散歩が好きだった
趣味は散歩です、と答えていたくらいに。
いつの間にか歩くことは手段になって
長いこと歩いていなかった気がする。
今、どうして散歩が好きだったのかを
思い出す事ができるようになった。
散歩は私にたくさんのことを教えてくれる。
たくさんのことを感じさせてくれる。
この世界が愛で溢れていることを
思い出させてくれる。
私にとって散歩は目には見えない何かとの会
話のようなものなのかもしれない。
私の歩みはとてもゆっくりだ。
人よりもずっと後ろを歩いているように
感じていた。
けれど、
そのおかげで速歩では気づけなかった、
たくさんの小さな可愛いキラメキにも出会え
てきたのではないか。
いったい何と比較してきたのだろう。
そして何と比較されてきたのか。
私はこの花の名前を知らない
浜辺を歩く鳥の名も
あの猫の名も
けれど
とても愛している。
それで充分だ。