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あの子と私〈フリー朗読台本〉



規約(必ずお読みください)

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著作権は作者である二条寧音にあります。
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情報

〈概要〉
女子の一人称。モノローグメインでセリフは少し。
〈読み手の性別〉
不問
〈本文の文字数〉
1577文字 
〈時間の目安〉
5分
〈最終修正日〉
2024/10/22

本文

小学校までは仲の良かった同い年の子がいた。
その子と私はマンションの部屋が隣同士で、母親同士はすぐに仲良くなり、その流れで私達も仲良くなったのだ。いつも二人で楽しく過ごしていた。
そのはずだった。

だけど・・・

中学からは私立と公立で別れた事もあり、自然と私達は疎遠になっていった。
母親同士は今でも仲が良く、あの子の母親とはよく顔をあわせる。
そんな時には軽く挨拶をするが、あの子自身とは滅多に会う事がない。
ここから距離のある私立と近くの公立で家を出る時間も違うし、塾と部活で帰宅する時間も違った。
周りの環境が大きく変化し、互いに自分達の違いがくっきり表れるようになってからは、もう一緒に遊ぶ事も無くなっていた。

(あっ・・・)

朝たまたま早めに学校を出ようとして、久しぶりに、本当に久しぶりにあの子と会う。
不意打ちのような形でビックリしてしまい、一瞬動きが止まった。
彼女も同じように動きを止める。
そしてお互いにそれとなく視線を外し、何も言葉を交わす事なくすれ違った。
それが今の私達。
喧嘩別れしたのではない。
嫌いあってるのでもない。
ただただ、冷えていた。
お互いに関心を向けず、お互いに干渉してほしくない。
昔とは、もう違うのだ。
今では、一緒にいても気まずい空気が漂うだけ。
なんの気兼ねもなかったあの頃は、互いの違いに対してもなにも思う事なく過ごしていたはずなのに。
けれど思い返せば、そこに水を差す言葉をずっと聞かされていた気もする。

「おたくの娘さんは明るいし、いつも元気でいいわよね。うちの子は愛嬌とか全然無いから将来心配」

「あら、あなたの所のお嬢さんはしっかり勉強してて偉いじゃない。この子なんて私が何度言っても宿題に取り組もうとしないから嫌になっちゃう。今度あなたのお嬢さんに勉強見てもらおうかしら」

悪気のない、無邪気な母親同士のよくあるやり取り。
自分達の欠点が面白おかしくネタにされてる時、私達の間に気まずい空気が流れ。
自身の母の悪意なき言葉は、小さな胸に少しずつ降り積もっていった。
別にそれだけが、原因とは言わない。
そんな言葉が無くても私達の関係は、今と同じだったかもしれないのだから。

でも、あの子も私も比較されることに、どこか疲れていた。
だから中学からは、学校が違うと知ってホッとした。
あの子と離れられると・・・

ただ、母親同士のやり取りまでが無くなるわけではないから、余計な情報は嫌でも耳に入ってくる。
楽しそうな様子で、あの子について語る母。
そうしてあの子との心の距離は、ますます離れていくのだ。

学校から帰宅するとマンションの扉付近で、あの子と母親と私の母が楽しそうに雑談をしている。
いつもの風景。
私達の関係とは違い、母親同士は当時からまるで変わらず仲が良い。
不意にあの子の母親が私に気づくとつられるように、私の母もこちらに視線を向け。
そして二人の視線の先が私を通り過ぎ。

「あら、二人一緒に帰宅なんて最近では珍しいわね」

二人の視線の先、自分の後ろを振り返るとあの子がいた。
彼女は私の後ろ、少し離れた位置で立ち止まっている。
微妙な居心地の悪さを感じ、咄嗟に顔を前に戻した。
それを紛らわすように、足早に扉の方へと向かう。
そのすぐ後ろで、もう一人分の足音を聞きながら。
二人の前を通り過ぎる寸前、あの子の母親には愛想よく、自分の母には素っ気なく。
後ろの声も同じように感じながら。
そんな所だけは一緒なのに、それ以外は全然違う私達。
母親達も同じ歳の子供がいる以外はまったく違うのに、まるでそれだけで良いかのように会話がいつも弾んでいた。

年齢を重ねれば重ねるほど、違いがくっきりする私達。
でも・・・もっと年齢を重ねて、母と同じくらいになったら・・・
そうしたら、また今とは違う関係になれるのかな?
意味のない想像をした自分に、内心ため息をつく。
そんな思いを振り払うように、私は扉を固く閉ざした。

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