大学生の後ろ姿
母校である美術大学の非常勤講師をかれこれ20年くらい務めている。
始めた時は20代の終わり頃で、学生も20代だから歳の差はそんなに感じず、彼らはまあまあ歳の離れた後輩達という感じだった。
先日新しい授業が始まった。これまでは2年生を担当していたが、入学したての1年生に教えることになった。1年生に接するのは初めてなのでとても新鮮な気持ちだ。
年齢を考えると、1年生だと18〜20歳くらいなので僕と30歳ほども違う。
親子くらい離れているので、最近は学生が後輩というよりも「子ども」のように感じる時がある。
大学の最寄りの駅から歩いて大学まで行くのだが、その時に大勢の学生達を見かける。他の大学の学生も歩いているのだが、美大生との見かけの違いは一目瞭然だ。
うちの学生は授業でモノを作ったり絵を描いたりするための道具を持ち歩いていたり、背中に背負ってるリュックもノートPCが入っていたりしてとても大きい。
以前に、僕が授業で教えている1人の男子学生が歩いているのを見かけた。その子は少し小柄で痩せていて、人とコミュニケーションを取るのが苦手らしく、笑ったところも見た事がなかった。
精神面で問題を抱えているらしく、授業に参加する事自体が大変だったらしい。でもいつも寡黙に一生懸命に作業をしていた。
そんな彼がとて大きくて重そうなリュックを背負って、大学まで20分ほどのまあまあ長い道のりを歩いていた。その後ろ姿を見てなんだか親になったような気持ちになり、
「ガンバレー!
いろいろつらいかもしれないけど、乗り越えてガンバレー!」
と心の中で彼の背中に向かって叫んでいた。
そして授業の期間最後の講評会では彼の作品をできる限り褒めてあげた。
20代や30代の頃は学生に対してこんな気持ちは抱いていなかったかもしれない。授業でも彼らに教える事がストレスだったり面倒臭いと思ったりすることもしばしばあった。
でも年と共に、学生に対する気持ちも変わってきてきた。普段他人と会う事が少ない生活をしていることもあり、大学で若い子達と会えるのが単純に新鮮で楽しいと思うようになってきて、今では大学で仕事を持てることにとても感謝している。
同じ仕事でも長い間続けていると、自分自身がいろんな経験したり考えが変わって以前とは異なる姿勢で臨むようになる。こういう変化って自分では想像できないからとても面白い。
今後も数十年講師を続けていったら、今とはまた違った気持ちになるのだろうか。その変化が楽しみでもある。