そう、私の心はあの海よりも広い。そこには、全人類、皆のための場所があります。一番小さいものにも、大きいものにも席があり、その上、罪びとも罪のない人との同じようにそこに愛を見つけます。
「ペテロ、どうしたのですか?黙ってしまったり、ぶつぶつ言ったり、何か不満があるようだけどどうしたのですか?」
「‥そうですよ、おれたちは誰よりも早くあなたの元に来たのに
ただの一つも奇跡をくれません、
おれたちが真っ先に来たのに、
あなたは自分のそばに別の人を座らせる、
おれたちの方が早かったのに、
おれたちにではなく、他のやつらに用事を言いつける、
おれたちが一番だった‥‥ほんとうに、
おれたちはいつも後回しにされている、
なぜ、あの二人を川べりの道のところで待つんですか、
絶対、あいつらに何か特別な使命を与えるために違いない、
なぜおれたちじゃなくてあいつらにやらせるのか‥」
イエスはペテロを見る。怒ってはいない。
むしろ子どもに向かっているようににっこりする。
立ち上がり、ゆっくりとペテロのところへ行って肩に手をかけ、
微笑みをたたえて言う。
「ペテロ!あなたは年とった大きな子どもです!」
それから、兄のそばに腰かけていたアンドレに「私の席に行きなさい」と命じてペテロのかたわらに腰かけ、肩を抱いて自分の方へ引き寄せながら話し始める。
「ペテロ、あなたの目に私がえこひいきをしているように映ってもそれは違います。むしろ、あなたたちにどういう値打ちがあるかを私が“知っている”ことの証です。
ほら、証を必要とするのはどういう人ですか?
まだ安心できない人です。
私は自分の勢力について何の証も与える必要がないと感じたほどあなたたちを信じていました。
悪徳、不信仰、暗い政治、世間の煩わしさなどから自分の前を通る光を見ることもできないほど人々の心が曇っているここエルサレムではさまざまの証が必要です。
しかし、あちら、私たちの美しい湖のほとり、晴れわたった空のもと、清いその湖のように正直でよいことを望む人々に証は要りません。
いつの日か、あなたたちの上に奇跡の恵みを川の水のように流しますが、あなたたちをはじめからどれほど評価していたか。
どんな証も要求せず、また与える必要も感じないで、あなたたちを弟子に迎えました。あなたたちがどんな人間かよく知っているからです。
私にとって大事な、この上なく大事な人で、私に一点の曇りもなく充実な人です。」
ようやくペテロの顔も晴れ晴れとなる。
「イエスさま、ゆるしてください」
「そうです、ゆるします。あなたのふくれっ面は愛だから。
けれど、ヨナのシモン、もう妬んではいけません。
イエスの心がどんなものか知っていますか?
湖(うみ)、そして“ほんとうの海”を見たことがありますか?
ある? そう、私の心はあの海よりも広い。
そこには、全人類、皆のための場所があります。
一番小さいものにも、大きいものにも席があり、
その上、罪びとも罪のない人との同じようにそこに愛を見つけます。
この人たちにある使命を与えたいとすれば、それをするのが悪いですか、
あなたたちを選んだのは私であってあなたたちではないのだから。
『イエズスに出会った人々(一)』12トマは弟子になる p.76~
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