Vol.20|過去のペットロスを乗り越え、少しずつ心構えして迎えた愛犬の最期
天国の少し手前には「虹の橋」があると言われています。そこは、亡くなったペットたちが自分の飼い主と待ち合わせるための場所。
飼い主が自分のところに来るまで、ペットたちは楽しく遊びながら待っているそうです。
ここ「虹の橋こうさてん」は、そんな虹の橋をイメージし、お別れを経験した人、これからその時を迎える人のための情報交換の場です。
大切な家族とのお別れを経験した方へのインタビューをとおして、お別れまでの過ごし方や、お別れの仕方についてのさまざまな選択を発信していきます。
vol.20は、気分屋だけどいつも誰かのそばにいた、ダックスフントのチョコくんのお話をお届けします。
犬種:ダックスフント/男の子
享年:17歳
語り手:T.Jさん
無邪気な家族を迎えて、身近な環境を変えようとしていた
最初に出会った時の印象を教えていただけますか?
すごく活発で、みんなを元気にさせる雰囲気を持っていました。当時、高校生だった弟が学校に行けない時期があり、両親が「犬を飼うことで、弟が少しでも元気になってくれたらいいね」と提案したんです。私も喜んで賛成し、一緒にペットショップに行きました。
寝ているワンちゃんが多い中、ダックスフントのコーナーを見たら、嬉しそうに駆け寄ってきてくれたんです。元気に走り回って「一緒に遊びたい」と言っているような感じでした。それが本当に可愛くて、連れて帰りたくなったので選びました。
どんな性格のワンちゃんでしたか?
小さい頃は「かまって、かまって」という感じでした。よくソファーの端などを噛んでいて、私が大切に読んでいたマンガ本をボロボロにしたことも。適当に物を置いておけませんでしたね。
弟ともよく遊んでいて、可愛い弟ができたような感じに見えました。チョコを飼うようになってから、弟は別の学校に転入して将来の夢まで見つけたんです。家に犬を迎えたことで気持ちが少し上を向いたと思います。
成犬になるにつれて、少し気性が荒いところが出てきました。機嫌よく遊んでるなー、と思っていたのに、ちょっと気に食わないことがあると吠えていましたね。気分の上下がある、怒りっぽい感じの子でした。ベタベタ触り過ぎると怒るし、小さい子供にちょっかいを出されるのも嫌で吠えていましたね。でも、人の近くが良いみたいで、誰かに寄り添って寝ていました。そういうところが可愛かったです。
遠くにお出かけするのもへっちゃら!
どんな食べ物が好きでしたか?
ささみなどのお肉をドッグフードに混ぜると、喜んで食べていました。私は絶対に餌を取らないんですけど、チョコは食い意地が張っていたので、少しでも餌に近づくと警戒するように吠えていました。縄張り争いというより食事の時間が好きで、大切にしていたんだと思います。
好きな遊びはどんなことでしたか?
私と一緒に車に乗って、よく出かけていました。チョコはお出かけが大好きでしたよ。車の窓を少しだけ開けていると、車が停まった時に顔を出して景色を眺めていました。目的地に着くと、とても喜んでいましたね。「早く行きたいよ」という感じの活き活きとした表情が印象に残っています。
川や海、ペットOKのアウトドア施設にも行きました。長距離を運転して、宿泊したこともあります。他の犬に対して積極的に関わりに行ける子だったし、出かけた先で排泄できなくて困ることもなかったですね。
危機的な状況から回復し、家族と過ごした最後の1年間
晩年は、大腸がんを患ったそうですね。
16歳で大腸がんにかかりました。チョコは何度か瀕死の状態になり、「あと2、3日かも」と言われたので心構えをしていたんです。でも、生命力が強かったので、そこから1年くらい伸びたんですよね。
ご飯はよく食べていましたが、ベチャベチャの排泄物がたびたび体に付いてしまいました。そこを放置すると褥瘡(じょくそう)といって皮膚が赤くなったり、ただれてきたりするんですよね。だから、できるだけ体を清潔に保つために、すぐに暖かいお湯で洗っていました。チョコの体を抱えて洗面台に乗せ、汚れを流して、できるだけ優しく拭き、乾かして、処方された軟膏を塗っていました。それでも、最期は皮膚がボロボロになっていたところもありましたね。
亡くなる半年ほど前、腰ヘルニアが影響して脚を痛めたんです。それでも誰かが近くまで来ると匍匐前進するような形で、頑張って近づいていました。私や子供がいると賑やかになるからか、そばに来て寝ていましたね。
何度か危ない状況になったので、いつ亡くなるかわからないことに気持ちが揺らいだこともありました。幸い回復したので、「本当に強い子だな」と思いながらも、会うたびに「もしかしたらこれが最後かもしれない」と密かに考えていたんです。
亡くなる直前はどのように過ごしていましたか?
亡くなる前日も、よく食べていました。その頃は、ほとんど寝ているような状態で。「おーい」って声をかけながら体を優しく揺すると、しばらくして「ほぉ~」という感じで反応していましたね。寒い時期だったので床の至るところに毛布を置いて、上からも掛けてあげて、なるべく寒くないようにしていました。
いつも私の母と寝るのが落ち着くみたいでした。最期の方も、夜は母のベッドの下にいて、安心して寝ていましたね。
家族に心配をかけなかった愛犬に感じた尊敬の気持ち
亡くなった直後はどのような行動をとりましたか?
亡くなった日の夜もチョコは母の側で寝ていたんです。朝になって、母が気づいた時には冷たくなっていて、それから起きなかったんですよね。苦しむ様子もなく、眠るように逝ったんだなって。私には、すぐ知らせてくれました。30分ほどの距離に実家があるので、花を買ってその日のうちに会いに行ったんです。
高齢でほとんど寝たきりだったので、ある程度の覚悟はしていたんですよ。「もっと痛がったりするのかな?」と思っていたんですけど、私たち家族を悲しませないようにご飯をちゃんと食べて、最期、静かに亡くなっていた。誰にも迷惑をかけなかったし、心配もさせなかったんです。「そういう生き方がすごいな」と、チョコに対する尊敬の気持ちがあるんですよね。
どのようにお別れをしたのか、教えていただけますか?
最期まで両親がチョコの身近で過ごしてきたので、亡くなったことがわかっていても、母はしばらくチョコを抱っこして「寂しいな」と泣いていました。父は「頑張ったね」って声をかけて撫でていました。私も含め、3人で「よく頑張ったね」と褒めてあげましたね。
地元を離れている弟に知らせると、「よく長生きしたよね」と言っていました。チョコを飼い始めた当時、元気がなかった弟は、今では夢を叶えて結婚し子供もいるので、「彼が成長できたのもチョコのおかげだね」と母と話しました。
実家では昔から猫なども飼っていて、ペットが亡くなると「なるべく近くで花などの植物がある場所に埋めて見守っててほしい」と土に埋めてきたんですよ。なので、両親とは「すぐ近くの山(所有地)に埋めて、花をいっぱい飾ってあげようね」と話しました。父はもう仕事をしていないので、日中に準備ができていました。
亡くなった日の夜8時くらいに父がスコップで穴を掘って、近くに咲いていた花や、私が買ってきた花を入れました。その時は、「体を揺すって起こしたら、また起きるんじゃないかな、まだ寝てるんじゃないかな」と思っていましたね。埋葬するまで遺体は皆が集まる部屋ではなく、しばらく寒い部屋に置いていたんです。でも、「かわいそう、寒いよね」という気持ちになりました。生きている時と同じように接したかったんですよね。
土をかぶせて、大きめの石を置いて目印にしました。実際に埋葬するまでの時間に、家族そろってお別れをして、心の準備をしていたように思います。
愛犬がくれた猶予の期間に、心構えをしていた気がする
亡くなって悲しい気持ちと、どのように折り合いをつけてきましたか?
しばらくの間は、思い出して泣いていました。これまでも先代のペットとのお別れを経験しているんですけど、思春期の頃は身内が亡くなる経験がなかったこともあり、ペットが亡くなった後、鬱っぽくなるくらい悲しんでいました。その頃に比べると、祖父母との死別などを経験をして、昔よりも少しずつ自分の心が強くなっているように感じます。
チョコは高齢でもあったので、亡くなることに対しては1年間くらいかけて少しずつ心構えしていた気がしますね。以前に経験したペットロスとは、また違った気持ちでチョコの最期を迎えられたと思います。いなくなったことは寂しいけど、大往生だったし、今はいつもそばにいるような温かい気持ちになっています。
ご実家では、チョコくんのことをどのように受け止めていますか?
母はチョコの写真をすぐに現像して、みんなが見れるようにリビングに飾りました。子犬の頃から成犬になるまでの写真を飾っていて、毎日そばにいるような感覚で過ごしています。
チョコが亡くなった後、母は寂しい気持ちが強かったのか、駐車場にいた捨て猫を拾ってきて飼い始めたんです。でも病気がちで、すぐに死んでしまったんですよ。再度、悲しい経験をしたんですけど、チョコを失った寂しさを埋めようとした母の気持ちもわかるので、とても心配になって「ひどく落ち込まないようにね」と話しました。
実家では他にも15歳になるダックスフントを飼っています。今は、その子の面倒を最後までしっかりみよう、という気持ちですね。自分の子供みたいに大切に思っているんですよ。母も「この子が生き甲斐だよ」と、亡くなった子たちの分までお世話してくれています。
今、ペットと一緒に過ごしている人に伝えたいことを教えてください。
ペットは私たちが思っているよりも飼い主のことを愛してくれていて、そばで寄り添いたいと思っています。「家族、兄弟のように信頼してくれるんだな」と感じたので、無理に「何かしてあげたい」と思わなくても、犬は十分、幸せを感じていると思います。
〈おわりに〉
家庭内のすこし落ち込んだ雰囲気をやわらげようと、ご両親が提案して迎えたチョコくん。17年間の生涯ではおおくの素敵な時間に恵まれたものの、晩年には危機的な状況が訪れてしまいました。しかし、持ち前の体力で乗りこえ、最期のときを家族と過ごすことで、その生涯を精一杯、生ききったように感じました。大切なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
(聞き手:イチノセイモコ/ライター)