
vol.15|治療はせず家で看取るという選択。最期に立ち会えて本当に良かった。
天国の少し手前には「虹の橋」があると言われています。そこは、亡くなったペットたちが自分の飼い主と待ち合わせるための場所。
飼い主が自分のところに来るまで、ペットたちは楽しく遊びながら待っているそうです。
ここ「虹の橋こうさてん」は、そんな虹の橋をイメージし、お別れを経験した人、これからその時を迎える人のための情報交換の場です。
大切な家族とのお別れを経験した方へのインタビューをとおして、お別れまでの過ごし方や、お別れの仕方についてのさまざまな選択を発信していきます。
vol.15となる今回は、マルチーズのミルキーちゃんのお話をお届けします。
犬種:マルチーズ/女の子
享年:10歳
語り手:T.Kさん
一目惚れでお迎え。変わって行く環境の中で、接し方に悩むことも。

ミルキーちゃんとの出会いについて教えてください
結婚してからしばらく子どもができなくて、寂しいなと思っている時にペットショップで出会いました。すごく可愛かったのと、僕たちにすぐに懐いてくれたので、その日のうちに迎えることを決めました。
実は、その当時住んでいたアパートは、ペット不可の物件だったんです。すぐに引越しを決めましたが、1ヶ月程はそのアパートでバレないように暮らしました。本当はダメだとわかって反対しましたが、奥さんが「どうしてもこの子がいい」と心に決めてしまっていて。その強い意志に負けて迎え入れました。
好きだったことはありますか?
座っていると膝の上に乗ってくるような、抱っこが好きなわんちゃんでした。遊んで!と来ることはほぼなかったですね。特に、人間の赤ちゃんのように仰向けで抱っこすることが好きだったので、よくしてあげていました。
散歩は、あまり好きではありませんでした。山に連れて行くと歩いていましたが、アスファルトが好きではなかったようです。あとは、なぜかわかりませんが、階段が好きでした(笑)階段を登ったら抱っこで降りて、また登って……と歩いていましたね。
食べ物で言えば、魚を焼く匂いに強烈に反応していました。飼い始めた時に、少しだけあげてしまったことが原因だと思いますが、魚を焼いていると、食べたすぎておかしくなっていました。いつもは絶対にしないのに、食べた後のゴミをあさってしまったり。必然的に私たちが焼き魚を食べないようになりました。

環境が変わって、ミルキーちゃんの性格が変化したようにも思っていたそうですね。
距離感が近い一方で、凶暴でした。すごくツンデレで、何が沸点になっているのかはわかりませんが、油断していると噛まれてしまうんです。触って欲しそうに近寄ってきたな、と思って触ってみると、噛まれたり。こちらからは、あまり積極的に構わないようにしていました。
子どもが生まれて、子どもの方に意識が向いてしまったことや、ミルキーと触れ合う時間が減ったことが原因なのかもしれません。やっぱり寂しかったのかなとは思います。
ただ、他の人に比べて、僕自身はミルキーにとって特別なんだろうなと感じていました。僕以外の人に凶暴だったこともそうですし、僕が外出しようとすると必死で止めてくることもそう感じる理由です。
会社へ行こうとバッグを持った瞬間に飛びかかってきて、服を噛んで引っ張ってきたり、玄関を出て自転車で出発するまでずっと家の中で吠えていたり。妻や子どもに対してそういった行動をとることはなかったので、僕だけにしてくれているのを見るとかわいいなと思っていました。
治療はしないという選択。みんなでお見送りができたからこそ、後悔はない。

ミルキーちゃんの病気について教えていただけますか?
長毛犬だったので、定期的にトリミングに連れて行っていたのですが、そこで体重が減っていることに気がつきました。調子が悪いのかな?と思っているうちに、ある日、突然ご飯を食べなくなってしまったんです。
「1日中、まったく食べないのはまずい」と思って病院に連れて行き、色々な検査をしてもらった結果、糖尿病になっていると診断されました。病院の先生には、「毎日インシュリン注射をすれば生きてはいける」と言われました。
ただ、正直なところ、金銭的な面で現実味がないと思ってしまったんです。毎日注射を打って、毎月何十万円をかけるのは難しいと。
長生きして欲しい気持ちもありつつ、綺麗事ではやっていけない。奥さんや子どもは長生きして欲しいと思うはずだけど、僕が悪者になっても良いから、治療はしないと決断しました。
治療をしないと決めてからのことを教えてください。
悲しかったのですが、治療をしないと決めた2日後には亡くなってしまいました。もっと早く病院に連れて行っていれば、死なせなかったんじゃないかとも考えてしまいます。
会社に犬や猫を飼っている人が何人もいたので、「自分が治療をしないと決めたから、見殺しにしてしまった」と話したんです。その時に、猫の治療で何十万円も払ったことがある人の話を聞いて、「やっぱりミルキーのことが好きだったからこそ、最後にすごくお金がかかって大変だったと思いたくないな」と思えたんです。都合の良い解釈かもしれませんが、最後の最後まで手のかからない良い子だった、という思い出で終わることができてよかったんだという風に。
色々な決断をされる方がいて、もちろんできるだけ延命することも良いと思いますが、自分はそんな風に決断をしました。後悔しないように自分に言い聞かせている面もあるとは思いますが、後悔はありません。最期亡くなる瞬間に一緒にいられたので、見送れてよかったと思っています。
亡くなる時はご家族で過ごせましたか?
亡くなった日、ミルキーはずっと震えていて、カチカチと歯が当たる音がしていました。その後、震えが止まった時に亡くなったんだと分かりました。
亡くなった後、どうすれば良いのかは事前にネットで調べていたので、目を閉じてあげて、体が固まってしまう前に可愛らしい形に整えてあげました。
24時間対応してくれる葬儀屋があることもわかっていたので、夜中の12時くらいに電話をして、次の日に火葬車に来てもらうようお願いしました。火葬するまでの間は、段ボールに自分が着ていたパジャマを置いて、保冷剤と一緒にミルキーをその上に寝かせました。お花を買ってきて、周りに置いてあげたりもしました。
ミルキーに見えるお月様。心の整理を後押ししてくれた時間の経過。

心の整理の仕方について教えてください。
火葬を終えた夜、奥さんと子どもと3人で散歩に行きました。その時、満月を見た子どもが「ミルキーに見えるね」って言ったんです。「どんな風にミルキーに見えるの?」と話していると、自分にもミルキーの形に見えてきました。
その後もずっと月を見るたびにミルキーに見えていましたが、今はもう月がミルキーに見えることはありません。その時に、自分の中で心の整理がついたんだなと思えました。
ただ、思い出すと悲しい。いつまで経っても悲しいんだろうなとも思います。他のわんちゃんが散歩している時に触らせてもらったりもしますが、マルチーズは触れません。目では追ってしまいますが、なんとなく触れないなと今も思っています。
最後に今、愛犬と過ごしている方にメッセージをお願いします。
一緒に過ごしていると、なんとなく「もうすぐお別れが来る」とわかるのではないかと思います。最後は、本当に好きな食べ物をたくさん食べさせてあげるのがいいんじゃないかな。うちでは、最後は魚を焼きまくって食べるだけ食べてもらいました。ほとんど体が動かない中、大好きな焼き魚を喜んで食べているのを見て、これでよかったなと思えました。
わんちゃんの幸せを第一に考えて過ごしていただきたいなと思います。
おわりに
愛犬の病気との向き合い方は、とても難しいなと改めて感じました。私自身も愛犬の介護を経て見取りを経験しているため、病気と向き合う難しさは金銭面に限らず、人の生活を変えるしかないということにもあると思っています。人間と同じように、いつどんな時に病気になったり、怪我をしたりするのかはわかりません。なるべく長く一緒に生きていたいと思っているからこそ、不測の事態に備えてできることがないか考えてみる必要があると思います。
インタビューにご協力いただきありがとうございました。
(聞き手:西澤七海/ライター)
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