Vol.12|手術?それとも入院?治療の方針に悩んだ末、家族が選択したのは
天国の少し手前には「虹の橋」があると言われています。そこは、亡くなったペットたちが自分の飼い主と待ち合わせるための場所。
飼い主が自分のところに来るまで、ペットたちは楽しく遊びながら待っているそうです。
ここ「虹の橋こうさてん」は、そんな虹の橋をイメージし、お別れを経験した人、これからその時を迎える人のための情報交換の場です。
大切な家族とのお別れを経験した方へのインタビューをとおして、お別れまでの過ごし方や、お別れの仕方についてのさまざまな選択を発信していきます。
vol.12は、芸達者で賢い! ミニチュアダックスフントのクッキーくんのお話をお届けします。
犬種:ミニチュアダックスフント/男の子
享年:8歳
語り手:K.Kさん
同じ年に迎えた、もう一匹の愛犬とは兄弟のように仲良しだった
クッキーくんとの出会いは、どのような印象でしたか?
私は長い間、脚が短くて、毛がロングのミニチュアダックスフントを飼いたいと思ってました。それまで外で飼っていた犬が亡くなったこともあり、そのことは家族にも伝えていたんです。
2015年10月にペットショップのセール広告が入っていたのでお店まで行ってみたところ、セールになっていないミニチュアダックスフントの子犬に目が行きました。「飼うなら女の子がいいな」と考えていたのですが、クッキーがすごく可愛い顔をしていたので、男の子だったけど第一印象で「この子にしよう!」と決めました。
家族のみんなが犬好きなので、飼うこと自体は許してくれていました。ただ、それまで犬は外で飼っていたので、室内で飼うことに少し抵抗されたんです。でも、いざ飼ってみたら、私よりも母の方が喜んで、とても可愛がっていました。
どのような性格のワンちゃんでしたか?
甘えん坊でしたね。おもちゃを投げると取りに行き、戻ってきました。子犬の頃は、いたずらもしていましたよ。洗濯物が好きで、私たちが畳んでいる靴下などをくわえて行って、噛み噛みしたり。「返して」と言ってもあまり返してくれませんでした。
10月にクッキーを迎えた後、2ヶ月後のクリスマスイブに2匹目のミニチュアダックスフントを迎えました。女の子でランと名付けました。それからは、2匹で仲良くじゃれあって遊んでいました。
家族で「2匹の子供が産まれるといいね」なんて話していたのですが、相性が合わなかったみたいですね。思った通りには行きませんでした。でも、兄弟のようにいつも仲良く遊んでいるのを見て、微笑ましかったです。
活発で芸達者! 外で遊ぶのも甘えるのも大好き
ランちゃんとは兄弟犬のように過ごしていたんですね。
2匹は、ほとんどずっと一緒でしたね。近所でのお散歩はもちろん、犬を連れて行ってもOKの公園にも行きました。毎回、ほぼ貸し切り状態のドッグランを走るのが大好きで、2匹でじゃれたり、別々に行動したり。私も犬と遊び回れるようにスポーティーな格好をして行って、追いかけっこしました。そんな風に過ごしていると、1時間くらいでこっちが疲れちゃうんですよね(笑) 家に帰ると、犬も疲れたのか、ぐっすり寝るんですよ。
しっかり しつけをしたとお伺いしました。
そうですね。しつけは、主に父が担当してくれました。トイレはほとんど決められた場所でできていたし、ご飯を食べる前には、お手などを一通りさせていました。手で鉄砲の形を作ってバン!ってやると倒れる芸もしましたよ。
手を差し出すと、掌にあごを乗せることも。私が床に座っていると太ももの辺りにあごを乗せてきて、寝る姿が可愛らしかったです。
さまざまな選択肢に悩んだ結果、そばで見守りたいと思った
闘病の期間が長く、大変だったそうですね。
そうなんです。亡くなる2~3年くらい前から。最初は排便がうまくいかなくなったんです。徐々に歩けなくなり、よたよたと歩くようになりました。オムツをつけると、ほとんど動かなくなってしまったんです。トイレに行こうとはしていたけど、ぜんぜん間に合わないし、出したいけど出ないという感じを繰り返していました。かかりつけの病院には月に1度のペースで、薬をもらっていたので薬が切れたら行く、という感じでした。
亡くなる5ヶ月くらい前、かかりつけの病院に母が連れて行ったところ、都市部の大きな病院を紹介され、そこで僧帽弁閉鎖不全症という心臓の病気が判明したんです。お医者さんからは、「手術して100%治るわけではないけど、良くなる可能性はある」と言われたので、手術をするかどうか家族で悩みました。でも、話し合った結果、手術代が大きかったこともあり、最終的には手術をしない決断をしました。
手術をしないという判断までには、さまざまな葛藤があったと想像します。
もし、「100%治る」と言われたら、私たちの判断は違っていたと思います。ところが、手術しても「症状の進行を遅らせることはできるかもしれない。手術後はクッキーの体力に任せるしかない」という見通しで、手術には踏み切れませんでした。入院の話もあったんですけど、「ずっと会えなくて、病院で亡くなるかもしれないのなら一緒にいたい」と通院に付き添っていた母が判断して、最期まで家で過ごしたんですよね。
朝はいつも通りだったのに、お別れは突然だった
亡くなる直前はどのように過ごしていたのでしょうか?
亡くなる日の朝、私は普段と同じように「行ってくるよ」とクッキーに声をかけて家を出たんですよ。いつもどおりの時間が流れていると思っていました。「今日が山場です」と言われたわけではないんです。長い間の闘病で、かなり弱っていたんですよね。
母が言うには、クッキーはいつもと同じように「しんどくて寝てるのかな?」と思っていたそうなんです。でも荒い息をしはじめたので「もしかして……」と思い、しばらく見守っていたところ、そのまま息を引き取ったとのことでした。私はその場にいなかったので、母から連絡をもらいました。
亡くなった直後は、どのような行動をとりましたか?
母以外は最期を見届けてないから、お別れがいきなり過ぎて。私は仕事から帰って来て、クッキーの姿を見て本当に悲しかったです。世話をするのは母が多かったけど、自分で選んでお迎えした子だったし、よく遊んでいたから。ランと比べても私は断然、クッキーへの思い入れが強かったんですよね。
火葬場は、自宅から近い所をインターネットで探しました。経営母体が一般によく知られていて、値段があまり高くなく、ちゃんとやってくれそうな雰囲気だったのが決め手でした。
亡くなってから火葬までは1週間以内だったと思います。すぐに火葬場へ連れて行かないで、少しの間、家で寝かせていましたね。検索すると「亡くなったら体を冷やした方がいい」と書いてあったので、母が家にあった保冷剤をクッキーの体にタオルでぐるぐると巻きつけました。時々、交換していたと思います。
火葬までの間、どういう風に感じていたかはあまり覚えてなくて、クッキーの体が硬くなっちゃってて、冷たいし。今まで亡くなった犬をまじまじと見たことがなかったので、びっくりしていた感じです。火葬場に行くまでは、タオルをめくって姿を見るのも悪いかなと思って、あまり見ていません。
クッキーが亡くなった後、姿が見えないからランはわかったみたいで、何日間かご飯を食べませんでした。
外で飼っていた愛犬よりも身近な存在になっていた
お別れはどのような雰囲気でしたか?
火葬場には人間が座る椅子がちゃんと置いてあって、人間のお葬式みたいな感じでしてもらいました。祭壇のそばの棺に寝かせて、火葬場のスタッフの方が式の進行をしてくれたのを覚えています。「最後にお別れしてください」ということで、棺の中にお花、好きだったおもちゃ、お菓子を入れました。当時はあまり実感がなくて、スタッフの方が何をしゃべっていたか覚えていません。
遺骨を土に埋められる箱を買ったんですけど、埋めずに今も実家に置いています。母はまだ埋めたくないみたいでした。今後どうするのかは、わからないです。
亡くなってから1年ほど経ちましたが、現在はどのようなお気持ちですか?
クッキーを亡くした時は、以前、外で飼っていた子とお別れした時とは違う感じがして、もっとずっと悲しかったです。日常生活ではあまり考えないようにして、時々、スマホの中に残っている、たくさんの写真を見て気持ちを落ち着かせていました。
今は家族があつまる場所にクッキーの写真と遺骨を飾っていて、見るたびに思い出しています。家の中でいっしょに過ごした時間が長かった分、より身近な家族になっていたなと感じますね。実家には他に2匹の犬と猫がいるので、それで寂しさが少しまぎれているんですよ。この子たちも、まだまだ可愛がってあげたいです。
今、ペットと一緒に過ごしてる人にかけたい言葉はありますか?
元気なうちにいっぱい遊んで、思い出の写真をいっぱい撮る。犬が疲れるくらい遊ばせると、お互い満足ですよね。元気なうちにいろいろやらせてあげるといいと思います。
〈おわりに〉
ご自宅では、他のワンちゃんや猫ちゃんに囲まれて生活していたというクッキーくん。突然の静かなお別れは、もしかしたら他の子たちやご家族を気遣って、クッキーくんが選んだことだったのかもしれないですね。
ご家族はいっしょに遊んだり、長い闘病生活に付き添ったりする中で、その時々の判断に悩み、クッキーくんをいつくしみながら生涯に伴走してきたことをうかがえました。
難しい判断を迫られる場合もありますが、それぞれのご家庭によって事情は異なるものです。どんな決断も、その時のご家族にとって最適な答えなのだと思います。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。
(聞き手:イチノセイモコ /ライター)
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