Vol.18|お別れは自宅の庭に樹木葬で――愛犬をイメージした桃の木のそばに
天国の少し手前には「虹の橋」があると言われています。そこは、亡くなったペットたちが自分の飼い主と待ち合わせるための場所。
飼い主が自分のところに来るまで、ペットたちは楽しく遊びながら待っているそうです。
ここ「虹の橋こうさてん」は、そんな虹の橋をイメージし、お別れを経験した人、これからその時を迎える人のための情報交換の場です。
大切な家族とのお別れを経験した方へのインタビューをとおして、お別れまでの過ごし方や、お別れの仕方についてのさまざまな選択を発信していきます。
vol.18は、姉妹犬よりも活発に動きまわり、長生きしたスモモちゃんのお話をお届けします。
犬種:パピヨン/女の子
享年:19歳
語り手:H.Uさん
お互いに視線を外せなかった運命的な出会い
最初に出会った時の印象を教えていただけますか?
スモモちゃんを飼う前、実は同じ犬種をもう1匹飼っていました。でも、その子は家に来て1年も経たないうちに交通事故で亡くなったんです。当時、私は小学生だったのですが、寂しかったので「もう一度、ワンちゃんを飼いたい」と親に伝えていて、新しいワンちゃんを迎える準備ができていました。
その後、母の友人から「よかったら子犬を1匹もらってほしい」と連絡があり、私は「自分で選びたい」と見に行ったんです。「2匹の女の子のどちらかを選んでね」と言われたのですが、片方の子が私からずっと視線をそらさなかったのと、元気でやんちゃそうだったので直感で決めました。
しつけで特に頑張ったことはありましたか?
先代のパピヨンはすごくおとなしい子だったのですが、スモモは思っていた以上にやんちゃでした。
お座りの後のお手が、なかなかできなかったので、根気強くやりましたね。「お手」というと、なぜか後ろ足を上げていたので笑っていたんですよ。「芸が1個増えたね」と。2ヶ月くらい練習して、やっとできるようになりました。
活発だけど優しい面もある、お姉さんのような存在
どんな性格のワンちゃんでしたか?
我が家では、しばしば兄弟の誰かが親から怒られていたんですけど、それを見るとスモモが親側に立って怒りはじめるんですよ! 私が言い返すと、噛みついてくることもありました。
でも、しばらく部屋に引きこもって泣いていると、部屋の前まで来て「ここにいるよ。開けて」とドアを引っかくんです。部屋の中に入れると、私が泣き止むまでそばにいてくれましたね。優しかったです。
好きなお出かけ先は、どこでしたか?
スモモの姉妹犬が私の友達の家に引き取られたので、よく会って遊ばせていました。2匹で遊ぶのは、すごく楽しそうでしたね。
2匹を観察していると、育った家の環境で性格がだいぶ違うなと感じたんです。うちは3人兄弟で騒がしかったことが関係したのか、スモモはすごく活発な性格。反対に、友達は2人姉妹だったせいか、ワンちゃんもおっとりした性格でした。
環境でそんなに違いが出ると思っていなかったので驚きましたね。友達とは「姉妹犬じゃないみたい」と話していました。
「ここが可愛いんです!」推しエピソードを教えてください。
名前を呼んだら走ってきて、「何?」と首をかしげる仕草がすごく可愛かったです。それを見るためだけに、何度も名前を呼んでいました。でも、そんな風に呼ぶことが多すぎたのか、最後の方は「単に呼ばれてるだけなんだ」と理解していたみたいで全然来てくれませんでした(笑)
こっちがしてほしいことを察していたのかな。私たち兄弟が眠たくて横になっていると、タオルケットを口に咥えて、引きずりながら持ってきてくれました。布団の中に入ってきて、「よし、寝るよ!」という感じでしたね。
私が里帰り出産で家にいた時は、子供が寝ている枕元でいっしょに寝てくれました。スモモの他にもワンちゃんと猫ちゃんが1匹ずついるのですが、わが子が3匹に囲まれて眠る光景は、とても微笑ましかったです。見ていて、ありがたいというか「見守ってくれてるんだな」と感じました。
最後の力を振り絞って、家族と触れあう時間を過ごそうとしてくれた
亡くなる前はどのように過ごしていましたか?
亡くなる半年くらい前から、散歩に行かなくなりました。耳の聞こえが悪くなり始めたのと、白内障でほとんど見えてなかったので、どこを歩いてるのかわからなかったんだと思います。他に飼っている2匹といっしょに散歩をしていたので、ペースが合わなくなっていたのも原因だったんでしょうね。
私の職場が実家の近くだったので、仕事帰りに様子を見に行くこともありました。スモモはストーブの前で、ゆっくり寝ていることが多かったです。ブラッシングをしてあげたり、「お腹空いてない?」と餌を持って行ったりしました。その後、私は引っ越したので、帰る頻度が減ってしまったんですよね。
お別れの兆候があったそうですね。
そうなんです。スモモは亡くなる2、3日前くらいから急に元気になって、ご飯をよく食べ、外に行きたいと主張し始めました。それまでは散歩に行きたがらなかったのに、10~15分間の散歩をすることが続いたので、両親は「もしかして」と覚悟していたみたいです。テレビでもそういう話はよく見るし、過去に実家で飼っていたペットも同じだったんですよ。
私は亡くなる前日に、たまたま会いに行っていたんです。後から考えると、私に会えるまで待っていてくれたのかな、と思いますね。2~3時間くらいの短い間だったんですけど、散歩もしました。まさか翌日に亡くなるとは思っていなかったので、「次に帰ってきた時も、お散歩行こうね」と言ったのですが、その時は尻尾を振って反応してくれましたね。
その後、スモモは横になって寝てしまったので、私はずっと体を撫でてあげました。そんな風に過ごしながら「もうすぐお別れしちゃうのかな?」と思うと、まだそのタイミングじゃないのに泣いてしまったんです。
愛犬をイメージできる木を植えて、樹木葬をおこなった
亡くなった直後はどのような行動をとりましたか?
亡くなったことは、仕事中に母からの連絡で知りました。仕事中は顔に出さないように過ごしたのですが、実家でスモモの姿を見た途端、ガクンと気落ちしてしまったんですよね。母からは「スモモ頑張ってたよ、待ってたよ」と伝えられました。私は気分が沈んでしまって、泣ける状態ではなかったです。やっと泣けたのは、1日経ってからでした。
母が「お別れ会をしよう」と言ったので、庭に埋葬して、樹木葬をすることにしました。「何の木を植えようか」と家族で話し合って、桃の木を植えることにしたんです。スモモは生前、桜の並木道で落ちてくる花びらを口でパクっと取るように遊んでいたのですが、その印象が強かったこともあり、「桜にしよう」という案が出ました。でも、桜を庭に植えることに難があったので、花の形が似ている桃の木になったんです。父が桃の木を売っている園芸店を知っていて、その日に買いに行きました。
両親はこれまでにも何匹もペットを見送ってきたので、お別れの時に行うことを事前に想定できていて、準備などをスムーズにしてくれました。それまでお別れした子たちと同じように、亡くなった後は火葬でなく、いつでも会いに行けるよう近い所に埋葬しようと考えていたみたいです。
どのようにお別れ会をしたのか、教えていただけますか?
翌日は、たまたま兄弟全員が休みだったため、集合できました。こんなことは滅多になかったので、タイミングが合ったことにみんなが驚いていましたね。スモモの体を入れた箱の周りに庭で育てていた花を敷き詰め、「頑張ったね」「うちに来てくれてよかったね」と声をかけて。埋葬して桃の木を植えた時は、「お疲れさま。ありがとう」という気持ちでいっぱいになりましたね。
実は、ここまで長生きしてくれると思ってなかったんです。というのも、スモモの兄弟は既にこの世にいなかったので。食事は年齢や体調に合わせて病院から指定されたものに変わりましたが、家に他にもペットがいたこともあって、寝たきりではなかったんですよ。散歩に行けなくなっても、運動量はそれなりにあったのが長生きの秘訣だったかもしれませんね。
命日には庭の墓前に手を合わせて近況を報告
亡くなって悲しい気持ちと、どのように折り合いをつけていましたか?
しばらくは亡くなったことを受け入れたくなくて、他のことで頭をいっぱいにして考えないようにしていました。でも、実家に帰ると思い出して寂しくなって。でも、「ずっと泣いていてはダメ、早く立ち直れるように」と思って、積極的に外に出ることを心がけていました。
当時、実家ではスモモのことを話題に出しちゃいけないという雰囲気が漂っていました。特に母はつらい思いを何度も経験してきたので、「(こんな悲しい思いをするのだったら)もう飼わない。今いる子たちで最後にするよ」と言っていましたね。
毎年亡くなった日には、都合がつけば墓前に会いに行って「元気だよ」と報告しています。その時は、楽しかった記憶が蘇ってきますね。亡くなってから5年ほど経つので、悲しい気持ちはほとんどないです。私たちが今でも悲しんでいたら、スモモも悲しいでしょうし。
実は現在、別の愛犬の体調が悪く、「そろそろなんじゃないか」と話しているところなんです。「まだ元気でいてほしいけど、徐々に覚悟していかないと」と思ってるんですよね。スモモの時は仕事が忙しく、たくさん遊んであげられなかったことを本当に悔やんでいます。その後悔が残っているので、できることをしてあげたいですね。
今、ペットと過ごしている人にかけたい言葉がありましたら、お伝えいただけますでしょうか?
本当に些細なことでも、「あの瞬間が大切だったな」と思える日が絶対に来ます。もしかしたら今、辛い時期を過ごしている人もいるかもしれないですが、楽しい思い出がたくさん残るように過ごしてほしいと思います。
当時は知らなかったサービスで、ペット供養に関して利用したいと思うサービスはありますか?
元々、祖父が飼っていたシーズーを引き取った時のことですが、その子を可愛がっていた祖父と同じお墓に入れてあげられたらよかったなと思いました。
〈おわりに〉
今回のお宅では、ペットが亡くなる直前に活動的になり、その後お別れを迎えるケースを何度も経験されていました。お別れする子のイメージに合わせて木を選び、埋葬地のそばに植えるのは素敵ですね。自宅でおこなう自分たちなりのお別れ会は、思い出に深く残ることでしょう。満開の桜の木の下で、スモモちゃんがはしゃいでいる様子が目に浮かぶエピソードでした。大切なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
(聞き手:イチノセイモコ/ライター)
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