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Vol.23|埋葬か、火葬か―今後の移住を見据えて、ペットの見送り方を考え直す
天国の少し手前には「虹の橋」があると言われています。そこは、亡くなったペットたちが自分の飼い主と待ち合わせるための場所。
飼い主が自分のところに来るまで、ペットたちは楽しく遊びながら待っているそうです。
ここ「虹の橋こうさてん」は、そんな虹の橋をイメージし、お別れを経験した人、これからその時を迎える人のための情報交換の場です。
大切な家族とのお別れを経験した方へのインタビューをとおして、お別れまでの過ごし方や、お別れの仕方についてのさまざまな選択を発信していきます。
vol.23は、「可愛い」も自分の名前だと思っていた白いポメラニアン、ヒナちゃんのお話をお届けします。
犬種:ポメラニアン/女の子
享年:12歳
語り手:Y.Kさん
「母と共に家を守っている」と思っていた愛犬
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最初に出会った時の印象を教えてください。
小学3年生くらいの時から「ポメラニアンって可愛いな」と思っていたんです。当時、外犬は飼っていたのですが、いわゆる「お座敷犬」がまだ一般的ではなかったので憧れて、しつけの本だけは持っていました。
たまたま父が、白いポメラニアン専門のブリーダーさんを新聞で見たんです。「珍しい、見に行こう」という父の一言で、家族そろって見に行きました。ブリーダーさんの所にはヒナと兄弟の2匹がいて、小さい毛玉やぬいぐるみのようで可愛かったです。2匹がじゃれているのを見ていると、ヒナの方が勝ち気な印象はありましたね。2匹のうち、「より白い方」と父が決めました。
どんな性格のワンちゃんでしたか?
おしゃまな女の子で、世話好きでしたね。子猫を飼っていた時は、ヒナが猫のお母さんのように口にくわえて玄関まで連れて行くなど、いろいろと世話を焼いていましたよ。
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私と姉は大学進学以降、家を離れたので、ヒナにとっては母が1番になりました。母とのツートップで「この家を守ってるんだ」と思っていたようでしたね。
母が3日ほど外出していた時、「1匹で家を守らなきゃ」と感じたのか、ストレスで頬の毛だけが一時、茶色になったんですよ。でも母が戻ってくると、すぐ元に戻りました。病気ではなかったから「大好きなお母さんがいないからだね」と話していました。
ドライブスルーで店員さんを笑顔にさせる可愛らしさ
ヒナちゃんとは、どんな関係でしたか?
これはあまり良くないかもしれないですが、私が高校生の時に、調教師が猿の首根っこを噛んで、自分が上だと教える内容のテレビ番組を見ました。それを真似して、しつけのつもりで一度だけヒナに同じようにしたんですよ。
強く噛んだわけではなくて、軽く。犬は普通、痛い時「キャン」って鳴くっていう印象があったんですけど、「きゃっ」て言ったんです。まるで人間みたいな言い方に驚いたんですけど、噛まれた方がもっとびっくりしますよね。それから私には、一目置いていました。
ヒナは雷をすごく怖がっていて、雷が鳴ると私のところに来ていました。本来だったらお母さんに行きそうなところなのに、いざという時には頼ってくれていたんだな、と。だから、「守ってあげなきゃ」という気持ちになりましたね。
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「ここが可愛いんです!」推しエピソードを教えてください。
アメリカのドッグショーでチャンピオンを取った血統の家系だったので、顔も可愛かったんです。外に連れていくと100発100中で「可愛い」と言われていたせいか、「可愛い」も自分の名前だと思っていました(笑)
ドライブスルーで商品を受け取る時は、満面の笑みで店員さんを待ち構えていました。吠えないし、スタッフさんは犬がいると思っていないから「お待たせしました」の後、喜んでいましたね。今飼っている子はこういう時に吠えるので、その度にヒナのことを思い出します。
家族の目が少し離れていた瞬間に旅立った
亡くなる直前はどのように過ごしていましたか?
その頃、私は社会人として独り立ちしていたので、亡くなる瞬間に居合わせられなかったんです。亡くなる1年くらい前にオムツをしてからは、寝ていることが多くなりました。
私は猫を飼っていたので、実家に戻る時、猫も一緒に連れて帰ったんです。猫の方がヒナを警戒して、ポンと跨いだんですけど、それに対して反応しなかったので「弱ってきたな」と感じました。若い時のヒナと違って、急におばあちゃんになったような気がして、少し戸惑いましたね。
その後も週に何度かskypeを繋いでいましたが、いつ見ても横になっていて、名前を呼んでも反応はほとんど無かったです。家族に様子を聞くと動いた様子などを話してくれましたが、私はヒナがしっかり動く姿を見られなかったので、日増しに見るのが辛くなっていきました。
容態が悪くなった時も、画面越しでした。でもその時は大事には至らず、ひとまずホッとしたのを覚えています。
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亡くなったことは、どのように知りましたか?
容態が悪くなった2日後でした。母と姉が父に呼ばれて、5~10分ほど外に出た時に亡くなっていたんです。だから、最期は誰も看取っていなくて。悪くなった時から持ち直していたので、心配無いと誰もが思っていたんですよ。
唯一の心残りは、「誰も居なかったからヒナがどう思ったかな?」ということです。お母さんがいないと不安に思ったのか、それとも、誰もいない時にそっと逝ったのか。実際はどうなのか分からないですけど、未だに「1人で逝ったのが寂しくなかったかな」と思いますね。
亡くなってから12年経っても、それが心の中に残っているのですね。
今まで多くのペットを飼ってきたんですけど、看取ることがなかったんですよ。外飼いの犬も、息を引き取る瞬間に立ち会ってないんです。ヒナはお座敷犬だから、看取ろうと思えば看取れたはずだったのに、ほんのちょっと離れた瞬間だったんですよね。だからと言って、家族を責める気持ちはないですよ。
ヒナが寂しかったんじゃないかと思う気持ちは、外で飼っていた犬の時も感じたんです。その犬の具合が悪くなった時に「これ食べたら明日、お散歩に行こうね」と言うと、食べてくれたんですよ。でも次の日、大雨が降ったので散歩に行きませんでした。さらに次の日、様子を見に行くと亡くなっていて、「あの時、散歩に連れて行ってあげたらよかった」と…。そういう経験もあって、後悔があるんですよね。
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実際に《その時》を迎えると、頭が回らない
亡くなった直後は、どのような行動をとりましたか?
私はすぐに戻れなかったので、やはり画面越しで亡くなった状態を見せてもらいました。本当に寝ているみたいでしたね。母も姉も泣いているから、ヒナの状態は聞けなくて。ただ悲しさだけが伝わってきました。
「火葬にするとお骨を家に持って帰れる」と聞いていたので、死期が近づいていた時に火葬の話も出ていたんです。「少しでもヒナがそばにいる感覚を残すために、手元に遺骨があった方がいいんじゃないか?」と。でも、火で焼くことになんとなく抵抗があるんですよ。
どのようにお別れをしたか、教えていただけますか?
実際にその時を迎えると、頭が回らないって言えばいいんですかね。悲しすぎて、冷静に火葬に向けての手続きなどを進める余裕はありませんでした。
ヒナは結局、土葬しました。当時はペットを火葬する習慣があまりなく、先代ペットと同じように庭に埋葬することにしたんです。体の腐敗のことが頭にあったので、お別れした後に「庭の1番いい場所に埋めないとね」という流れになりました。ドライアイスで体の状態を保つという考えは、その時、思い浮かばなかったです。
「ヒナが子猫の時に世話をしていた猫の隣がいいね」と、交通事故で亡くなった猫の隣に埋め、桜の木を植えて、小さい仏像とお水などを置いてお墓にしました。今までもツバキや水仙などの植物を、ペットのそばに植えています。
ぽっかり穴が開いたような悲しさと母のケア
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寂しい気持ちとどのように向き合ってきましたか?
家族とはもちろん、気持ちを共有しました。「離れた実家の犬だから、あまり理解されないだろうな」と思い、職場には休みを言い出せなかったですね。仕事中はとにかく我慢して、休憩中に仲のいい同僚にこっそり話を聞いてもらっていました。
亡くなった原因が老衰だったので、交通事故で亡くなった時よりも後悔がなかったです。事故の場合は、常に後悔があるんですよね。そういう意味では苦しみがなく、心の整理をつけやすかったかな。ぽっかり穴が開いたような悲しさがありました。
ご家族の様子はどうでしたか?
母の元気がなく、心配でした。母は泣くタイプじゃないんですけど、家事の途中で手が止まる、と落ち込んだ様子だったんです。ヒナの思い出を話そうとすると、涙ぐんでしまうことも。母が泣いているのを、今まで一度も見たことがなかったんですよ。「本当にショックなんだな」と思ったので、自分が悲しむよりも母のケアをしていました。
母としては最期、一緒に居られなかったのが辛かったようです。ヒナの話は出ますけど、亡くなる時に誰もいなかったことは、今でもタブーです。母が傷つくから、そこだけは触れないようにしていますね。
土葬と火葬の間で抱える葛藤
ペットの見送り方で悩んでいることがあるそうですね。
さまざまな事情があり、いつか実家を別の場所に移したいと思っているんです。でも、そうなると、ヒナをはじめ歴代のペットたちを今の場所に残していかなきゃいけない。
ペットの火葬が一般的になってきた今、思うのが、もし火葬を選んでいたら、位牌などを持って行くだけでペットと一緒にいられるので「火葬が良かったかな」と。まだ考えたくはないけど、今、飼っている子たちのことも悩んでいます。
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今、ペットや大切な家族と一緒に過ごしている人へのメッセージをお願いします。
日々の生活の中でご飯食べてる時に「お利口だね」とか、散歩中に「楽しいね」とかコミュニケーションをたくさん取ってあげれば、ペットの表情は輝いてきます。今まで野良出身の猫を飼ってきましたが、こうやってコミュニケーションをとると、やさぐれた鋭い目から、どんどん丸い目になって、可愛いお人形さんみたいな顔になるんですよ。ペットの気持ちを満たしてあげると、愛情を感じて安心するんだなとわかりました。
その子の好きなコミュニケーションを取りつつ、一方で「人とは違うよ」と線を引きつつ、いい関係を築いていったら、「この子のために精一杯やってあげられている」と感じられます。そうすれば、最期がどんな原因であったとしても、後悔や罪悪感は感じないんじゃないかな。
〈おわりに〉
これまでにたくさんのペットと過ごして来たY.Kさん。記事にはできませんでしたが、他のペットたちとのお別れについてもお話しくださいました。ヒナちゃんとのお別れ、その後のお母様のケアにも向き合い、さらに今後、生活の拠点を移した場合の在り方についても様々な思いをお持ちでした。この度はお話しくださり、ありがとうございました。
(聞き手:イチノセイモコ/ライター)
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