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【第599回】⦅視察報告・欧州編②⦆したたかな欧州の野望。デジタル・産業政策(2024/10/09) #山田太郎のさんちゃんねる 【文字起こし】

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発言者:
(山田さん) 山田太郎 参議院議員
(小山さん) 小山紘一 山田さんの秘書 その1
(小寺さん) 小寺直子 山田さんの秘書 その2


今日の内容

(山田さん)
はい、始まりました。山田太郎のさんちゃんねるです。今日は、実は衆議院が解散になったんですけども、その話はしません。来週以降、衆議院選挙を取り上げたいと思っています。

なんと今回は、この山田太郎のさんちゃんねるが599回目ということで、次回は600回目となります。しかし、衆議院選挙特集を挟むため、次回は「599.5回」という形になると思います。

今回の特集は「欧州視察報告パート2、したたかな欧州の野望。デジタル・産業政策」ということで、この夏4回にわたって海外視察を行った、全ての報告がようやく終わります。

(山田さん)
8月28日から9月7日までの12日間で、ドイツ、チェコ、ハンガリー、フランスを訪問しました。ドイツについては、前回1時間以上かけて説明しましたので、今日はチェコからハンガリー、フランスについてお話ししていきたいと思います。

ドイツの復習をすると時間がかかりすぎてしまうので、早速チェコに進みたいと思いますが、チェコについて話す前に、「東欧の複雑さ」について少し触れておきたいと思います。

東欧の複雑さ

(山田さん)
東欧というと、地図を見ていただくとわかりやすいのですが、まず東欧全体についてどんなイメージをお持ちですか?

(小寺さん)
特にイメージがなくて、どんな料理があるのか、どんな人が住んでいるのか、あまりイメージできませんでした。

(小山さん)
旧社会主義国というイメージが強いですね。

(山田さん)
そうですね、旧ソ連というイメージがあるかもしれません。しかし、戦後の歴史をたどると、実際にはそうではないことがわかります。東欧の複雑さは、まずロシア系のスラブ民族とヨーロッパの民族が混在している点にあります。

(山田さん)
また、宗教も複雑で、カトリックとギリシャ正教が入り組んでいます。言語に関しても、スラブ系やラテン系の言語が混ざり合い、これが民族、宗教、人種、そして政治的な対立に繋がってきました。第二次世界大戦後、旧ソ連が介入して社会主義を維持してきた地域ですが、反発する国も多かったのです。

もともとスラブ人という人たちはどこが発祥の地かというと、現在のウクライナ北部とベラルーシの辺りがその発祥地とされています。そこから、東側(ロシア方面)へ移動したのが東スラブ人、西側へ移動したのがスロバキア人、チェコ人、ポーランド人などです。また、南に移動したのが南スラブ人と呼ばれています。

実はチェコスロバキアという国は、スラブ系の国として非常に分かりやすい例で、ポーランドや他の紫色で表示されている地域もスラブ系の人々が多く住んでいます。一方、ルーマニアやブルガリア、そしてマジャール人と呼ばれるハンガリーの人々は、スラブ系とは異なります。

まず、ルーマニアはローマ帝国が支配した時代からの影響を受けており、ルーマニア人は「我々はローマの子孫だ」という意識を持っています。彼らはラテン系の民族です。

一方、ハンガリーのマジャール人は、ウラル系のアジア人と言われていますが、現在ではアジア人ではないとも考えられています。さらに、ブルガール人と呼ばれるブルガリアの人々はトルコ系のアジア人です。つまり、ハンガリーとブルガリアはスラブ系ではなく、この地域は複雑に入り組んでいます。

次に、宗教についても見ていただきたいのですが、ポーランド、チェコスロバキア、ハンガリーのマジャール人、クロアチアはカトリックです。しかし、ルーマニアはラテン系でありながらギリシャ正教を信仰しており、セルビアやブルガリア、ロシアもギリシャ正教です。このように、宗教と人種が入り乱れているのが、東欧の複雑さを一層深めています。

右側の地図は政治的な区分を示しています。オレンジ色で示した線は、カトリックと正教会の境界線です。さらに、薄いピンク色で示された地域は、すでにEUに加盟している国々です。ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ルーマニア、ブルガリアは、かつては社会主義国でしたが、現在では全てEUに参加しています。

NATOについても話題に上っていますが、これらの国々の多くはNATOにも加盟しています。ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバを除くほとんどの国がNATO参加国です。

ルーマニアの西側に位置するセルビアやその西にあるボスニア・ヘルツェゴビナはNATO非加盟国ですが、それ以外の国、例えば北マケドニアやアルバニアはすべてNATO参加国です。

オーストリアは永世中立を掲げているためNATOには加盟していません。同じく、スイスもNATOには参加していません。

一方、北の方に目を向けると、バルト三国(エストニア・ラトヴィア・リトアニア)もNATO参加国です。最近では、フィンランドやスウェーデンもNATOに加盟しました。これで、この地域はほぼNATO加盟国で埋め尽くされている状況です。

最近話題になっているのは、モルドバがEUに参加したいという意向を示していることです。ウクライナもEU加盟を目指しています。このような状況が左側の図に示されています。ロシアから見れば、ロシア勢力はかなり危機的な状況にあるといえるでしょう。

一方、CIS(独立国家共同体)というのは、旧ソ連を中心とした国家群の組織です。モルドバなどはEUに非常に近い政権ができていますが、CISには加盟しているという複雑な状況にあります。これが現在の緊張関係を生んでいる背景です。

このような状況を理解した上で、今回はチェコとハンガリーに視察に行ってきました。チェコとハンガリーの違いがあまりよくわからないという人もいるかもしれませんが、左側の地図で説明したように、チェコは基本的にスラブ系の国であり、ハンガリーはマジャール人、つまりアジア系の人々が多い国です。このように、実は人種が異なるという点を押さえておいてほしいと思います。

チェコの概要

(山田さん)
さて、まずはチェコについてお話ししたいと思います。小山さん、チェコの特徴といえば、どんなイメージですか?

(小山さん)
チェコといえば、私はプラハしか思い浮かびません。

(山田さん)
プラハ、どうでしたか?

(小山さん)
綺麗で、いいところでしたね。
プラハといえば、ミュシャかカフカといった2大有名人が思い浮かびます。

(山田さん)
なるほど。今日は少し歴史についても触れてみましょう。プラハといえば、「プラハの春」がよく話題に上がりますが「プラハの春」とは何か、簡単に言うと、ソビエト連邦から抜け出したいという動きです。実際に抜け出すところまではいかなかったのですが、これには少し歴史的背景があります。

(山田さん)
東欧諸国は当初、ソビエトを「解放者」として歓迎していました。しかし、スターリンの独裁が強まり、厳しい統治が続きました。スターリンが亡くなった後、フルシチョフが書記長に就任し、「スターリン批判」を行います。これにより、東欧全体が少し自由になり、「人間の顔をした社会主義」を掲げるドゥプチェク第一書記が検閲の廃止を進めました。

それで「プラハの春」という民主化運動が起こりましたが、ソビエト連邦はすぐに軍事介入を行い、「プラハの春」は短命に終わります。フルシチョフの時代は比較的自由な雰囲気がありましたが、1962年には「キューバ危機」が発生し、ケネディ大統領とフルシチョフの間で激しい交渉が行われました。結果的にソビエト側が譲歩し、キューバから核兵器を撤去する形で危機は回避されましたが、この事件が原因でフルシチョフは1964年に失脚します。

その後、ブレジネフがソ連の第一書記に就任し、再び統制が厳しくなります。ブレジネフは「スターリン的」と評され、1960年代後半には締め付けが強化されました。こうして、「プラハの春」は結局ソビエトによる介入で失敗に終わってしまいました。

その後、「ビロード革命」という出来事が起こります。これは1989年に起きたもので、東西ドイツが統合し、1991年にソ連が崩壊していくという背景があります。この時期、ゴルバチョフの存在が大きかったですね。チェコスロバキアの社会主義政権は、約30万人のデモによって倒れました。

「ビロード」とは、ベルベットのような柔らかい素材を意味していて、革命も大きな混乱はあったものの、死者を出さずに政権が倒れたことから「ビロード革命」と呼ばれています。

その後、1993年にはチェコとスロバキアが分離しましたが、これも話し合いでスムーズに進行したため「ビロード離婚」とも言われています。いずれにしても、ビロード革命が成功し、1989年にチェコスロバキアは社会主義から解放されていきました。

チェコといえば、やはりカフカの『変身』が有名です。『変身』は、主人公がある日突然巨大な虫になってしまい、家族に疎まれるという物語です。彼は仕事に行こうとするのですが、体が重く、虫の姿では今まで通りの日常を続けることができないと感じます。そして最終的には、家族からリンゴを投げつけられて死んでしまうという、非常に救いのない話です。

この作品は実存主義の思想の前提としてよく取り上げられます。実存主義というのは、いろいろな考えの前に「実存」があり、それがすべての基盤となるという考え方です。また、仮面ライダーの「変身」というコンセプトにも、カフカの『変身』が影響を与えたと言われています。カフカは、まさにチェコを代表する作家です。

さて、このチェコで何を見てきたかということですが、1つは東ヨーロッパの中でも最大の工業国の1つであることです。特に日系企業の展開がわかりやすい例として、チェコのピルゼンというプラハから離れた工業都市を訪れました。

視察報告(チェコ)

(山田さん)
まずは株式会社ジェイテクトというトヨタグループの主要17社の1つにあたる日本企業を訪問しました。ジェイテクトはパワーステアリングを製造しており、ハンドルを曲げる際に、電動モーターでタイヤを動かしやすくする仕組みを持つ世界トップクラスの企業です。このジェイテクトがチェコでどのように展開しているのかを見てきました。

(小山さん)
訪問時の感想ですが、ピルゼンといえばチェコを代表するビールの産地として知られていますが、その地域自体はのどかな地方でした。しかし、ジェイテクトの工場は非常に日本企業らしく、綺麗に整えられており、常に効率を向上させる工夫がなされていました。

(山田さん)
次に訪れたのは、株式会社東海理化です。こちらはプラハ郊外に位置しており、シートベルトや自動車用のスイッチなどを製造している企業です。東海理化では、現在のチェコの労働環境についてわかりやすく説明していただきました。

特に興味深かったのは、従業員の半分がウクライナ人であるという点です。これは、東ヨーロッパ全体の景気が良く、ハンガリーも同様に失業率が非常に低いことが背景にあります。そのため、ブルーカラーの労働者を確保するためには、ウクライナからの難民などを雇うしかないという状況があるのです。ウクライナからの労働者は比較的安価で雇えるということもあり、チェコの産業を支えている重要な存在となっています。

さらに、チェコの労働市場の特徴として、離職率が非常に高いことも挙げられました。そのため、労働者の入れ替えが頻繁に行われているという現状もあります。ウクライナからの労働者が多くを占めているため、言語の問題もあるようですが、現場ではしっかりとウクライナ語にも対応しているとのことでした。

チェコは基本的にスラブ系の言語に近いので、私たちがルーマニアに行ったときよりも、言葉の壁が少ないという点で、入りやすいと感じました。しかし、もう1つ重要な点として、東ヨーロッパの工場は日本企業が参入しにくい部分もあるということです。

具体的に説明すると、東ヨーロッパの工場はドイツの「ジャーマン3」と呼ばれる、メルセデス・ベンツ、BMW、Audiといった大手自動車メーカーに部品を供給することが多いです。これらのメーカーは非常に標準化された設計を持っており、例えばベンツならCクラス、Eクラス、Sクラスとモデルが決まっていますし、BMWも3シリーズ、5シリーズ、7シリーズといった具合に構成が固まっています。

一方、日本の自動車メーカーはバリエーションが非常に多いのが特徴です。そのため、大量生産の効果を出すという観点からすると、ドイツのメーカーとは異なる作り方をしているため、競争で勝つのが難しい部分があるのです。これが、日本のものづくりが東ヨーロッパに展開する際の弱点の1つだと感じました。

ハンガリーの概要

(山田さん)
次はハンガリーについての特集です。ハンガリーについて少し歴史から入りたいと思いますが、チェコとハンガリーを訪れた際の印象の違いについて、どう感じましたか?

(小寺さん)
ハンガリーの方がもう少し発展していて近代的なイメージがありましたが、実際は意外と素朴な雰囲気がありました。チェコの方が、どちらかというと街がきらびやかでしたね。

(小山さん)
私もプラハは観光に力を入れている感じがしました。外国人をたくさん呼び込んでいる印象です。一方、ハンガリーのブダペストも立派な観光施設がたくさんありますが、少し散らばっている感じがありました。観光客が1箇所に集まっているというより、現地の人々が日常を過ごしている中に観光客が紛れ込んでいる感じがしました。両方とも楽しかったのですが、ブダペストは1日で回るのは難しいですね。

(山田さん)
さて、ハンガリーについて、私の大好きな歴史から話を始めたいと思います。実はハンガリーには、チェコ以上に説明したいことがたくさんあります。まず、あまり知られていないことですが、ハンガリーは東欧が解放される大きなきっかけとなった国なのです。これについて説明していきます。

ハンガリーと言えば、まず1953年に起こった「ハンガリー動乱」があります。これもスターリンの死後に起こった出来事で、フルシチョフが「スターリン批判」を行い、その結果、東欧諸国が揺れ動き始めます。

このとき、ナジ・イムレという人物が立ち上がりますが、最終的に失脚し、ハンガリーは徹底的にソ連に抑え込まれてしまいます。なぜチェコとは状況が異なったのかというと、ナジはソ連に対して非常に強硬な路線を取ったためです。

ちなみに、ポーランドもこの時期に連帯的に運動が発展し、徐々に自由な動きが見られるようになります。ポーランドはもともとソ連に対して非常に反感を持っており、それはナチスとソ連によって領土を奪われ、一時的に国が消滅したことが背景にあります。確かに、ソ連はナチスからポーランドを解放しましたが、同時に占領支配も行ったため、ポーランド人はソ連を非常に嫌っています。

しかしポーランドはソ連とうまく立ち回ったのに対し、ハンガリーのナジ政権は強硬に対抗しようとしました。そのため「ハンガリー動乱」は徹底的に潰されてしまいました。しかし、この出来事以降も、ハンガリーはソ連に対して強い不満を持ち続けていきます。そんな中で、実は「ピクニック計画」というものがありました。ご存知ですか?

(小寺さん)
知らないです。

(山田さん)
ぜひ知ってほしいのですが、「ピクニック計画」という、冗談のような名前ですが、実は非常に重要な出来事でした。昔、オーストリアとハンガリーの国境付近で、貴族が国境を挟んでお茶会やピクニックを開いたというエピソードがあり、それをもじって行われたものです。

この計画は、ハンガリーとオーストリアの国境地帯にあるショブロンという街で、同じようにパーティーを開こうというものです。裏ではハンガリーのネーメト氏という人物が関わっており、彼の政権下でこの「ピクニック計画」が実施されました。

計画の趣旨は、特別なイベントを理由にビラを配り、これを見た東ドイツの人々がチェコスロバキア経由でハンガリーに集まってきました。そして、国境の検問が開けられ、東ドイツの人々600人がオーストリアに逃亡することができました。この数は次第に増え、最終的には15万人が亡命するという大規模な動きへと広がっていきました。

当然、この動きに対応を迫られましたが、当時のソ連のゴルバチョフ書記長はこうした動きを黙認する形で見守っていました。東ドイツは、ソ連にとって優等生的な存在とされていましたが、東ドイツの人々が次々とチェコスロバキア、ハンガリー経由でオーストリアへ逃れ、西ドイツへと亡命していく状況が進行していきました。

この出来事が1989年に国境を開放するきっかけとなり、東西ドイツの間でビザの扱いについても再検討が必要となりました。その後、いろいろな連絡ミスや決定の遅れが重なり、最終的にベルリンの壁が崩壊するという結果に至ります。このように、「ピクニック計画」は、東西の壁が崩れる大きなきっかけとなった出来事です。

このようにして、ハンガリーは反ソビエト的な考えを持ちながらも、社会主義体制からの解放を進めていきました。しかし、現在ではオルバン政権の下で独自の外交路線を取っています。

(小寺さん)
オルバン首相は非常に有名ですよね。彼はハンガリーをかなり保守的な方向へ導いており、その点で注目されています。また、EU内でもハンガリー独自の路線を取っており、反対派もいる一方で、国内では強固な支持基盤を持っています。

(山田さん)
オルバン政権はEUがロシアに対する制裁として石油輸入禁止措置を導入しようとした際に、これに反対しました。結果的に、制裁が全会一致で成立しなかったということがあります。また、オルバン首相はプーチン大統領や中国の習近平主席、さらにはアメリカのトランプ前大統領とも会談を行うなど、独自の外交姿勢を見せています。そのため、欧州内では「暴れん坊」とも言われていますが、国内では非常に人気が高いのです。

(小山さん)
彼はもともとリベラル系の政治家としてキャリアをスタートさせましたが、現在では完全に保守的な立場に立っていると認識されていて、非常に興味深い政治家ですね。

(山田さん)
また、ハンガリーは科学技術の分野でも発展しており、ワクチンの元となった技術もハンガリー人による発明です。さらに、ルービックキューブもハンガリー人の発明品です。

視察報告(ハンガリー)

(山田さん)
さて、今回のハンガリー視察で見てきた内容についてお話しします。まず、ハンガリーといえば「マジャールスズキ社」です。スズキは日本の会社ですが、ハンガリーでは「国民車」とも言われています。2022年まで7年連続で国内販売台数のトップを誇っていました(現在はトヨタがトップのようですが)。特に、スズキはインドでも大きな存在ですが、ヨーロッパでの生産拠点はハンガリーが中心で、このハンガリーから世界各国に展開しています。

(山田さん)
今回、ハンガリーにあるスズキの工場を視察しました。私もこれまでいろいろな工場を見てきましたが、マジャールスズキの工場は非常にわかりやすく整っていました。例えば、トヨタの工場では土地が狭い場所に建設されているため、ラインが複雑になっていることが多いですが、スズキの工場は縦にまっすぐ綺麗にレイアウトされており、部品が効率的に集まる設計がされています。自動車工場としては非常にわかりやすい作り方がされていると感じました。

また、スズキの担当者と話をしていて、EUにおける環境規制が非常に厳しいという話題が出ました。特にカーボンニュートラルの推進が求められており、スズキとしても対応が必要です。しかし、現在スズキはEV車(電気自動車)を持っていないため、今後ヨーロッパ市場でどう生き残っていくのかが大きな課題となっています。ハンガリーでは国民車と言われるスズキですが、EU内での競争をどう乗り切るのか、選択を迫られている状況です。

さらに、ハンガリーの失業率は非常に低く(1.2%)、人材を確保するのが難しいため、ウクライナ難民も多数雇用しているという状況です。もう1つ気になったのは、セキュリティやデータ連携に関する対応が日本の本社で管理されているという点です。私は、現地にもこういった管理体制を置くべきではないかと思いましたが、いずれにせよ、日本企業がヨーロッパで展開する難しさについても多くの示唆を得ることができました。

(山田さん)
次に視察したのは、ハンガリーの「コップ・マーリア人口・家族問題研究所(KINCS)」です。ハンガリーを訪れた目的の1つは、少子化対策に非常に力を入れているこの国の政策を学ぶことでした。

(小寺さん)
この研究所は国営の機関で、少子化対策のために設立されています。最近、ハンガリーの少子化対策はテレビやネットでも多く取り上げられ、日本でも「見習うべきだ」という声が多く聞かれています。今回、私たちはその前提や背景をしっかりと確認し、日本にどのように応用できるかを学ぶために訪問しました。

この研究所は大規模な体制で運営されており、子どもを増やすためのデータやエビデンスを収集し、それに基づいて政策を立案しています。2010年以降、家族関係の支出を増やし続けており、現在はGDPの6.2%が家族関連の支出に充てられています(日本は1.7%)。この結果、出生率は1.52まで引き上がっています。

ハンガリーの少子化対策の代表的な例として、2019年から始まった「4人の子どもを産むと所得税が免除される」政策があります。さらに、住宅ローンの免除や大家族向けの自動車購入支援など、家族を増やすことを支援する政策が中心となっています。

また、祖父母が孫の世話をすると保育手当が支給されたり、子どもを望んでいるけれども産めない人には補助金が出たりするなど、子どもを希望する人に対して積極的にお金を支援するという政策を徹底しています。

(山田さん)
ハンガリーの少子化対策は、子どもがいる家庭が経済的に裕福になるよう設計されています。住宅支援や親のニーズを反映した政策、家族第一主義の浸透が図られており、家族がいれば経済的に優遇される一方で、子どもがいないと大変というほど、家族主義が徹底された国です。

しかし、この政策が日本でどこまで参考にできるかについては、慎重な議論が必要です。多様な生き方を否定するリスクがあるため、注意深く考えるべきだと思います。少子化対策について、最終的にはその国の国民が判断することですが、日本に合うかどうかは難しいところがあります。

(小寺さん)
ハンガリーの憲法には「結婚は男女間で行うもの」と明記されており、すべての政策が結婚を前提にして恩恵を受けられる仕組みになっています。そのため、結婚率も上がり、それに伴い出生率も上がっている状況です。

ただ、結婚を前提とした政策という点が、他の生き方も容認する国にとって大きな選択となるでしょう。

(山田さん)
自民党内でも、このハンガリーの少子化対策が優れているという評価がありますが、実際に現地で話を聞いてみると、極端な部分もあるように感じました。

(山田さん)
次に、ハンガリー視察の際に、イシュトヴァーン・フッレル議員と面会しました。彼はハンガリー・日本友好議員連盟の副会長で、今は野党の議員です。

ハンガリーでは、2010年から2015年の間に20代の成人の6%が海外に移住しており、20代の国外流出が続いています。その中でもハンガリー国籍の6人に1人が外国で生まれています。これがハンガリーの大きな課題の1つとなっています。

(小寺さん)
この海外移住者の多くは、反オルバン派であり、EU内で仕事を求めたり、結婚したいと考えている人々ですが、その一方で、国内ではオルバン首相の人気が高まっている状況です。

(山田さん)
フッレル議員は少子化対策について、与野党を問わずハンガリーの政策として推進していくことを力強く語っていました。さらに、ハンガリー国会議事堂も視察しました。非常に立派な建物で、まるでお城のような豪華さでした。感想としては圧倒されましたね。

(小山さん)
とにかく大きくて立派でしたね。ハンガリーは紀元1000年頃にハンガリー王国を築き、1100年頃にはかなり大きな帝国となっていました。しかし、その後は戦いに敗れることが続き、国が縮小していく歴史があります。

この国会議事堂も、オーストリア・ハンガリー帝国時代に着工されたものですが、国が縮小していく中でも建設が進められました。当時は財政的に余裕があったため、立派に作り上げられたそうです。建築家のシュテンドル氏が手掛けたのですが、完成の直前に亡くなってしまい、その姿を見ることはできませんでした。

(山田さん)
僕も最初はお城だと思っていましたが、実際には国会議事堂として設計された建物です。オーストリア・ハンガリー二重帝国時代に大きな国会議事堂を建設することになり、1985年から着工し、19年の歳月をかけて完成しました。以前訪れたルーマニアの「国民の館」と比べてどうでしたか?

(小寺さん)
大きさではルーマニアの方が上でしたが、美しさや繊細さ、そして長い歴史を感じさせる点では、ハンガリーの国会議事堂が勝っていたと感じました。また、ハンガリー王国の歴史的遺産である王冠や剣などが、24時間体制で守られているという点も印象的でした。

(山田さん)
次に訪問したのは、「BOSCH(ボッシュ)」です。ボッシュはドイツの会社ですが、ハンガリーはドイツに次ぐ重要な研究センターを構えています。特にAI技術の研究が盛んで、4000人近い技術者が働いています。ハンガリーにはLT大学という有力な大学があり、AIの技術開発や自動運転技術の研究で連携しています。

ボッシュでは、高度な自動運転技術に関する研究や、生産現場でのAI活用に力を入れています。ハンガリーにAIセンターを置く理由は、東欧地域で優れた人材が集まることが大きな要因で、ドイツ国内でも人材の争奪戦が激しいため、ハンガリーでの研究が合理的だと感じました。

(小山さん)
ボッシュの工場も広大な敷地に大きな建物があって、そこで働く人々がのびのびと仕事をしている印象を受けました。皆さん定時になったらきちんと帰るのでしょうね。生産性が高そうだという感じがしました。残業で疲れているような人は全然見かけませんでした。定時で仕事を終え、ハンガリーの生活を楽しんでいるように見え、羨ましい限りでした。

視察報告(フランス)

(山田さん)
さて、ようやくフランスに話が移ります。今日は最後にフランスについてお話ししますが、長い視察を経て、最終国のフランスにたどり着きました。まず、フランスでは「INA(フランス国立視聴覚研究所)」を訪問しました。これはヨーロッパ視察の中でも重要なテーマの1つでした。

(山田さん)
INAは何かというと、フランスで放送されたすべてのテレビ番組、最近ではインターネットのコンテンツも含めて、デジタルで公開されたものをアーカイブして保存する公共機関です。

そして、アーカイブするだけでなく、それを公開して利用できるようにしています。日本のNHKアーカイブセンターに似ていますが、INAはすべての番組を対象としており、国民のために公開している点が特徴です。このINAの役割は、デジタルアーカイブの理想的な形だと感じました。

さらに、INAではAIとの関係においても注目されており、マルチモーダル動画の活用がこれからますます重要になっていくという議論が進んでいます。特に、INAとBNF(フランス国立図書館)、そしてフランスのユニコーン企業である「ミストラルAI」が共同でプロジェクトを進めています。動画をAIでどう活用するかというテーマは、フランスでも重要視されています。

日本では、残念ながら、利権や制度の壁があり、まだ十分に進んでいませんが、フランスのINAはアーカイブから配信、AI活用まで一貫して取り組んでおり、その役割は非常に大きいと感じました。小山さん、どう思いますか?

(小山さん)
日本では、放送局に勤めている人々から「アーカイブを作ると、後で国民や政治家に揚げ足を取られるのではないか」という懸念がよく聞かれますが、INA(フランス国立視聴覚研究所)の人々と話したところ、フランスではそのような問題はないと言います。

むしろ、ジャーナリストが報道した内容を守るためにもアーカイブすることが必要だと考えているそうです。過去を批判するためや、過去の方が良かったと懐古するためにアーカイブするのではなく、過去の出来事を見ながら現在の状況を正しく理解するために使っているのです。

例えば、昔の街角アンケートで「奥さんを叩きますか?」と尋ねる映像が残っていて、「叩きます」と答える男性がいた時代がありました。今ではそのようなことは考えられませんが、当時はそれが日常的だったという事実を踏まえて、現在を振り返るという使い方をしています。

過去を美化することはせず、現在をより深く理解するためにアーカイブが活用されているのです。この姿勢は、非常にフランスらしいと感じました。

(山田さん)
もう1つ注目すべき点は、INAには「法定納入制度」がしっかりと整備されていることです。日本でも国立国会図書館に納本制度がありますが、INAでは1992年からすべての放送番組を納入しなければならないという法律があり、1995年から研究者はすべての番組を原則閲覧可能です。2006年からはインターネット資料も法定納入の対象となり、すべての情報がINAに集まる仕組みができています。

また、一般公開も進められており、50箇所の国立図書館や大学図書館で集められたデータが公開されています。フランス国民にとって、INAは非常に身近な存在です。これを支えているのが「文化資産法典」で、研究目的のために公衆閲覧を可能にすることが義務付けられています。著作権法においても、研究目的での敷地内閲覧は権利処理が不要とされており、放送法では公共放送の番組を放送後1年以内に納めることが義務付けられています。

さらに、著作権者にも配慮がなされており、売上の6%程度が著作者団体に支払われる仕組みも整えられています。こうした法的な整備が、INAの強みだと言えます。小寺さん、どう思いますか?

(小寺さん)
これは本当に驚きでした。話には聞いていましたが、ここまでしっかりと働いている方々が自分たちの文化や言語を守るためにアーカイブしているというスピリットを非常に感じました。

日本でも、これだけデータが蓄積されている中で、それを研究に活用するのが難しい状況にあり、そもそもアーカイブされていない情報も多いのです。やはり、法律でしっかりとその部分を担保することが重要だと感じました。非常に先進的な良い事例を見られたと思います。

(山田さん)
もう1つ、先ほど少し触れましたが、INAではフランス語を守るという点も強調されていました。フランス語は英語に比べると「マイナー言語」であり、日本語と似たような状況にあります。たとえば、フランスのコンテンツを調べているのに、英語圏や他の国の情報が出てきてしまうことがあるという話です。

日本でも同様に、動画のコンテンツが正しく反映されず、中国語の情報が出てくるなど、非常に混乱した状況が見られます。これに対応するため、フランスではINAを中心に、こうした問題に対処する取り組みが進められています。また、ドイツではフラウンホーファー研究所が同様の役割を果たそうとしています。

日本も、この分野において頑張らなければならないと強く感じました。アーカイブの政策は、私自身も重要な政策として取り組んでいる分野であり、責任あるAIを構築するためには、こうした整備が必要だと思います。

(小山さん)
フランスと日本の状況には違いがありますが、自然言語処理の観点から見ると、フランス語では比較的しっかりとした文章が出てくるそうです。しかし、それでもフランスの文化や歴史を正しく反映した内容が必ずしもアウトプットされるわけではなく、フランスの出来事がイギリスの話にすり替わってしまうこともあるそうです。

フランス人は、遺産や文化、歴史に対して非常に強い意識を持っており、他のヨーロッパ諸国を回っても感じられないほどでした。これはINAを訪れて特に強く感じた点です。

(山田さん)
さて、次はフランスで「シュナイダーエレクトリック」を訪問しました。シュナイダーエレクトリックは、日本ではあまり知られていないかもしれませんが、日本で言うと三菱電機のような企業です。ドイツのシーメンスとも競合する大手企業で、制御機器やネットワークシステムを提供している会社です。

シュナイダーエレクトリックは、AIと密接な関係があり、サイバーの結果を物理的にどう動かすか、例えばロボットを動かすなど、制御系の仕組みを世界中で提供しています。

さらに、最近ではDX(デジタルトランスフォーメーション)関連の業務が全体の50%を占めており、特にサイバーレジリエンスとサイバーセキュリティが重要視されています。サプライチェーンにおける制御システムがサイバー攻撃を受けると、工場の停止や業務に大きな影響が出るため、これが最大の課題となっています。

また、AIを活用したPLC(プログラマブルロジックコントローラ)の制御プログラムも、シュナイダーの主力製品です。PLCは制御機器をネットワークで繋ぐ仕組みですが、これを自動生成する技術が実用化されており、技術者の負担を大幅に軽減しています。機械ごとに異なるプログラムを作成する手間を省き、効率化が進んでいます。

さらに、ロボットの動作に関してはNVIDIAとアライアンスを結び、データセンターのリファレンスデザインなどを世界中に提供しています。これまでに多くの企業を見てきましたが、シュナイダーほどAIを活用している会社は他にないと感じました。

次に、シュナイダーエレクトリックの「ライトハウス」と呼ばれるパリ郊外の工場についてお話しします。この工場は世界トップクラスと言われており、特にサイバーセキュリティとマネジメントの仕組みが非常に優れています。

制御を担当する責任者、IT担当者、サイバーセキュリティ担当者が一体となって連携している点が特徴です。日本では、IT担当役員や工場の役員、サイバーセキュリティの担当者が別々に存在し、連携が取れていないことが多いですが、シュナイダーではこれが当然のように一体化されています。こうした組織の強さを強く感じました。

(山田さん)
また、シュナイダーの製品展示も非常に洗練されていました。アメリカ企業も展示に力を入れていますが、フランスの企業はおしゃれで、ネットワーク関連の商品やロボットを使った実演などがわかりやすく展示されていました。小山さん、シュナイダーの展示についてどう思いましたか?

(小山さん)
山田さんがおっしゃったように、展示がとても上手でした。自社が持つ歴史や現在の強みを、来場者にしっかり伝えることが徹底されていると感じました。

山田さんも政治家として、何をしているのかを伝えるのが重要だとおっしゃっていましたが、まさにその通りです。シュナイダーもそうですし、BMWも素晴らしかったですが、欧州の一流企業は来場者に対して、自社の過去と現在、そして未来をしっかりと説明し、しかも楽しい展示を用意しています。説明するスタッフも情熱を持って説明していました。

(山田さん)
僕は日本のメーカーの工場や研究所を100社以上訪れたことがありますが、日本では事実を淡々と説明することが多いです。一方で、欧米、特にヨーロッパでは、会社の目的や社会的意義を真剣に説明し、未来のビジョンを描いています。各社とも、自分たちが世界一だということを強調して説明しますが、日本の会社はその点が謙虚で、世界一だと言いたがらない印象があります。

もちろん、その謙虚さは日本的な良さでもあり、否定するものではありませんが、国際競争の中で戦うためには、もう少し力強く自分たちの強みをアピールしても良いのではないかと感じました。

それからもう1つ感じたのは、おしゃれさですね。どの会社も非常に洗練されています。日本の工場や研究所は、こうでなければならないという固定観念があるのかもしれません。例えば、ボッシュを訪れたときも、研究者たちは全員私服で、作業服を着ている人はほとんどいませんでした。

(小山さん)
敷地内では電動キックボードに乗って移動しているなど、非常に自由な雰囲気でした。

(山田さん)
そうした環境を見ると、良し悪しは別として「どちらで働きたいか」と考えてしまいます。そこに加えて給料も良いとなれば、人材争奪戦は避けられません。特に研究開発の領域では、職場環境を魅力的に整えることが非常に重要だと感じました。

(山田さん)
さて、次に「ダッソー・システムズ」についてお話しします。今回、私は2年ぶりにダッソーを訪れました。元々、私は競合企業であるPTCにいたため、ダッソーを訪れるたびにライバル企業に足を踏み入れる感覚がありましたが、今回もダッソーのソリューションについて説明を受けました。

ダッソーは世界3大CAD企業の1つで、もう1つはNXを持つシーメンス、そしてPTCです。現在、ダッソーが世界最大のCAD企業だと思いますが、最近では3Dエクスペリエンスのプラットフォーマーとしての位置づけが強くなってきています。特に、製造業やライフサイエンス、ヘルスケア、都市インフラなどが主要な分野となっています。

今回、ライフサイエンス分野について詳しく説明を受け、ダッソーがAI分野でもどのようにアメリカのGAFAMに対抗していくかという戦略が垣間見えました。特に「バーチャルツイン」によって生成されたデジタルデータの所有権や、製品がどのように認証を受けるのかといった問題が、今後ヨーロッパや世界全体で重要な課題になると考えられています。

また、AIによって作られた成果物の知的財産権の保護や、逆にダッソーのソフトウェアで作られた製品が特許や著作権を侵害するリスクも懸念されています。この点について、ダッソーの担当副社長とも話し合いましたが、AIの枠組みや知的財産保護の仕組みは、今後ますます重要になってくると感じました。小山さん、この点についてどう感じましたか?

(小山さん)
やはり、知的財産権の侵害によって訴訟に巻き込まれるリスクはあると懸念していました。しかし、そうしたリスクがあること自体が、AIソフトウェアの可能性を示しているとも考えられていました。

もちろん、知的財産の保護は重要ですが、それと折り合いをつけながら進めていくためにさまざまな工夫をしているとのことでした。懸念は受け止めつつも、非常に前向きに考えている姿勢が印象的でした。

(山田さん)
ダッソーが目指す方向についても説明がありました。1999年までは「3D PLM」(製品ライフサイクル管理)で、これはPTCと激しく競い合っていた時期です。ちょうど私が2000年にPTCに入社した頃で、どちらがPLMの王者なのかという議論が盛んに行われていました。その後、2012年からは「3Dエクスペリエンス」という新しい概念を提唱し始めました。

「PLM」や「PDM」(製品データ管理)は、設計開発とデータの連携に重点を置いていましたが、「3Dエクスペリエンス」はそれを超えて、ビジュアライゼーション、つまり視覚的な表現に焦点を当てています。バーチャル空間をどう作り上げ、3次元の体験をどのように提供するかがこの新しいプラットフォームの中心となっているのです。ダッソーの戦略は、あらゆる現実を3Dのバーチャルな世界で表現するという方向に進んでいます。

2020年から「デジタルツイン」のコンセプトが導入され、特に「ヒューマンツイン」、つまり人間のデジタルツインが進められています。人間の細胞や脳、心臓、DNA、さらには電気パルスまですべてのデータを網羅し、最終的には人間のためにあらゆるサービスを提供しようというものです。ライフサイエンスや人間工学の分野にも力を入れており、その一環として「リビングハートプロジェクト」が2015年から展開されています。

(山田さん)
このプロジェクトでは、心臓の組織をCADやビジュアライゼーションの技術を用いて仮想空間で表現し、医師や研究者が心臓の構造を様々な角度から分析できるようにしています。メタバースのような仮想空間で、心臓を可視化し、手術や創薬、人工弁の開発などに役立てるための研究が進んでいます。

(山田さん)
今回、2年ぶりにダッソーを訪問したところ、さらに進化した「人体のバーチャルツイン」のプロジェクトが紹介されました。心臓だけでなく、すべての細胞や神経、電気信号、さらにはDNAの情報までをデジタル化し、データベースに蓄積。それを基に手術や薬品開発に役立つソリューションを提供することが目標です。人間の目や感覚では捉えきれない情報までもデジタルツインを通じて解析し、インダストリー5.0を実現しようとしています。

インダストリー5.0はまだ曖昧な概念ですが、欧州委員会は「ヒューマンセントリック(人間中心)」「サステナビリティ(持続可能性)」「レジリエンス(回復力)」の3つの柱を掲げています。ダッソーはこれを踏まえ、AIとデジタル技術を駆使して新たな価値を創造しようとしています。

日本のAIに対する考え方は、アメリカのGAFAMが提供するツールを利用して、効率化や生産性向上を目指すところにとどまっているように感じます。しかし、ダッソーのアプローチは全く異なり、仮想空間で新しい世界を創り出し、データを徹底的に活用して新しいサービスを構築するという姿勢が見えました。

今回の訪問で感じたことは、欧州の戦略の一部がここにあるということです。ドイツやフランスはGAFAMのようなインフラ技術ではアメリカに勝てないと認識しています。そのため、アメリカのコアテクノロジーを活用し、その上で自分たちのデータや応用技術で付加価値を生み出すという方向性を打ち出しています。この点について、小寺さん、どう感じましたか?

(小寺さん)
私はこの視察には参加していませんが、話を聞いただけでも日本が相当遅れを取っているという危機感を強く感じました。

(山田さん)
遅れているというよりも、発想自体が全く異なるという印象です。日本は、まるで一歩も前に進んでいないように感じます。正直なところ、アメリカのGAFAMが提供するツールを使って「すごいね、翻訳がうまくいったね」とか「議事録が簡単に出来たね」といった具合で、単なるユーザーにとどまっています。

そのデータを使って日本らしい付加価値をどう生み出すかというところまで至っていないのが現状です。発想の競争において、日本はまだ一歩も踏み出せていないと感じました。毎年ヨーロッパを訪れるたびに、ヨーロッパの発想の進み具合に驚かされます。特にドイツやフランスではその違いが顕著です。

ドイツは日本と近く、ルールベースで堅実に進めていく傾向がありますが、フランスはビジュアライゼーションや応用に優れていると思います。

(小山さん)
日本の企業は「お客様は神様」といった考え方が根強く、マーケットインの発想で「お客様に寄り添います」となりますが、ダッソーはプロダクトアウトです。「我々が良いものを作るから、これを使ってくれ」と自信を持って提案してきます。その姿勢が非常に強く、製品の価値を高く見積もり、しっかりとマーケティングしている点が印象的でした。

(山田さん)
次に、「キャップジェミニ本社」にも行きました。キャップジェミニは、日本ではあまり有名ではありませんが、ヨーロッパ最大のコンサルティング会社です。

企業のエンジニアリング業務をアウトソーシングしており、ヨーロッパの大手メーカーや政府との関係も強固です。また、欧州委員会に対しても大きな影響力を持っており、標準化やヨーロッパ戦略の策定にも関わっています。

キャップジェミニは、公的な役割も担いながら、エンジニアリングのユースケースの開発を進め、それをヨーロッパ企業に提供しています。ダッソーが技術的な実現を担う企業だとすれば、キャップジェミニは戦略面を担う企業です。このように、AIの周辺に強力なプレイヤーが存在するのがヨーロッパの特徴だと感じました。

(山田さん)
さて、最後に訪問したのは「AWS社・LightOn社@Station F」です。Station Fはパリにあるスタートアップの集積地で、敷地面積はなんと3万4000平方メートルもあります。元々、列車の車庫を改造して作られた場所です。私たちも訪れたのですが、縦に長く広がる敷地に、ボックス状の部屋がたくさんあり、多くのスタートアップ企業が入居していました。

フランスはAIスタートアップ戦略を進めており、「フレンチテック」という政策を通じてテクノロジー企業を積極的に育成しています。この政策の成功により、世界でもフランスから多くのユニコーン企業が誕生しています。実際、ユニコーン企業の出現率はフランスが世界一となり、アメリカよりも多いという結果が出ています。フレンチテックの政策が非常に効果的であることが示されています。

アメリカと比較すると、アメリカは1960年代から70年代にかけて、ロケット戦争、いわゆるソ連との宇宙開発競争を国の事業として推進しましたが、その後は国のサポートがなくなり、民間が中心となってベンチャーを育成し、エコシステムを構築していきました。一方、フランスは国が主導権を握り、スタートアップ戦略を進めているという点で、欧米間ではスタートアップに対する考え方に大きな違いがあります。

フランスのスタートアップには2つの大きな軸があります。1つはAIの分野で、ミストラルや今回訪問したLightOnのような企業が活躍しています。私たちはLightOnのCOOにも会いました。もう1つは環境対応で、カーボンニュートラルに向けた試みなどが盛んに行われています。これらのベンチャー企業はフランス政府の強力なサポートの下、成長を続けています。

(山田さん)
もう1つ、日本のスタートアップの枠組みとフランスとの違いについてお話します。私も日本国内のスタートアップのインキュベーションセンターに行ったことがありますが、何が違うかというと、例えば今回訪問したStation Fには、AWS社やヘネシー、ルイ・ヴィトンのような大手企業が同じ場所に入居しています。これにより、スタートアップがすぐに大手企業と相談しながら、自分たちのサービスを応用し、実際に販売することが可能になるのです。

日本のインキュベーション施設は、不動産業者が安くオフィスを貸し出しているような印象が強く、ビジネスを実際に作り上げるためのネットワーク構築が十分にされていないことが多いと感じます。フランスのStation Fや、前回訪れたシリコンバレーとの違いは、人のネットワークを作り、エコシステムを構築するということが、スタートアップ戦略の最も重要な要素である点です。

(小寺さん)
Station Fは、小さなシリコンバレーが詰まった場所のようで、そこで人脈を築き、エコシステムが生まれています。

(山田さん)
さらに、Station Fは非常におしゃれな空間で、多様な部屋がありますが、誰でも自由に入れるわけではなく、きちんとした手続きが必要です。今回はLightOn社のCEOにも来ていただき、AI戦略についても話を聞くことができました。

フランスのスタートアップ支援の仕組みである「フレンチテック」について、小山さん、どう感じましたか?

(小山さん)
フレンチテックという政策は、2013年にオランド大統領が始めたものです。それまでは、フランスのICT政策は主にインフラ整備、例えば光回線や通信網の整備が中心でした。しかし、オランド大統領はフランス経済の衰退や国の危機感を背景に、デジタルサービスの振興とスタートアップ育成に力を入れることを決定しました。現在では、マクロン大統領がその政策を引き継ぎ、積極的に推進しています。

日本でも実はスタートアップ政策が進められています。第2次岸田政権になってから、スタートアップ担当大臣が置かれましたが、誰が担当していたか覚えていますか? 最初は山際大志郎先生、次が後藤茂之先生、そして新藤義孝先生が担当し、現在は石破内閣になっていますが、このように、日本ではスタートアップ担当大臣が毎年のように変わっています。

フレンチテックの成功の鍵は、トップが非常に力を入れて推進している点が大きいと思います。

(山田さん)
僕もスタートアップの経験があり、上場も果たしています。私自身も6社ほどの企業や中華料理店、接骨院などの経営に携わり、上場企業も作ってきた経験がありますが、やはりそういった経験がないとスタートアップの支援は難しいと感じます。資金や人材の不足だけでなく、情報が足りない、どう進めて良いか分からないという問題に直面します。そういったことを理解した上で、トップが支援に取り組むことが重要です。

(小山さん)
フレンチテックが10年経ってどうなったかというと、2013年から2023年までの成果として、フランスへの外国投資はイギリスやドイツを抜いて1位になりました。

2023年時点の記事によると、その後も若干の変動があるようですが、フランスはユニコーン企業の数で大きな進展を見せています。2013年にはフランスに1社しかなかったユニコーン企業が、2022年には25社にまで増え、さらにミストラルAIなどの企業が登場しています。この勢いは続いているようです。

ちなみに、日本では2022年に第2次岸田内閣がスタートアップ5カ年計画を策定し、その時点でユニコーン企業が6社ありましたが、2027年までに100社に増やすことを目標に掲げています。経団連と協力してこの目標に向かっていますが、現状どこまで進んでいるかについては調べきれていませんので、後ほど確認が必要です。

フレンチテックは、単にスタートアップを支援するだけでなく、イーロン・マスクのような世界的な人物を招いて、ビジネスとして成功するための実践的なサポートを行っています。

日本のように、形式的にお世話して「後は自分でどうぞ」というのではなく、上場やM&Aに詳しい人材とスタートアップの経営者を結びつけ、実際に成果が出るような支援体制が整っている点が印象的でした。

(山田さん)
すいません、少し訂正します。投資についてはやはりアメリカは圧倒的に世界中から集まっています。前回もお話ししましたが、シリコンバレーやシアトル、ボストンなどの特定の地域に集中しています。最近はテキサスにも展開し始めていますが、やはり地域ごとの集積が特徴的です。フランスも国主導でスタートアップ政策を強力に推進していますが、アメリカの圧倒的な投資の力には及ばない部分があると思います。

欧州視察まとめ

(山田さん)
ここまでで、ヨーロッパ視察のまとめとして、特にフランスを中心に報告しました。今回のテーマを踏まえて、ヨーロッパ全体を見た上で考えると、アメリカの産業政策やAIなどに関するアプローチは、やはり「コアテクノロジー」に重点が置かれていることがわかります。特定の地域でネットワークが作られ、そこに人材が集まり、プラットフォームを中心に大きな利益を生むという構造です。

アメリカのプラットフォーム企業(AmazonやGoogle、Appleなど)は、基本的にプラットフォームを提供するだけで、他者がその上でサービスを展開し、結果として莫大な収益を得ています。Appleも、プラットフォーム上でアプリケーションを通じて課金を行うことで成功しています。このように、アメリカはコアテクノロジーを押さえることで圧倒的な競争力を持っています。

一方、ヨーロッパはコアテクノロジーの分野ではアメリカに追いつくのが難しいと認識しています。そのため、プラットフォームの巨大な投資はアメリカに任せつつ、自分たちはデータやその周辺の応用に力を入れ、付加価値をつけるという戦略を取っています。特にデータに関しては、自国でしっかり管理する姿勢を持っています。

例えば、ヨーロッパではサイバーセキュリティやAIに関する規制を強化し、責任あるAI(レスポンシブルAI)やサイバーレジリエンス法を導入しています。これにより、アメリカ企業がヨーロッパでビジネスを展開しにくい環境を作り出し、自国の優位性を確保するという戦略を取っています。

ヨーロッパのスタートアップ企業や国の産業政策は、国家社会主義的なアプローチで進められています。国が主導して徹底的に産業を伸ばしていくという姿勢は、ドイツでも同様です。たとえば、フラウンホーファー研究所のように、国が中心となって知識やデータを集め、それを民間と協力して活用するというやり方がヨーロッパ型の特徴です。アメリカを意識しつつ、アメリカができない部分にどのような付加価値を見出すかを考えながら進めているのです。

また、フランスとドイツの違いについても以前お話ししましたが、この2国はヨーロッパ内で互いに競争しています。そして、東ヨーロッパ地域は、ヨーロッパ全体の成長の果実を享受しています。たとえば、人件費が安く、教育水準が高いことから、ドイツやフランスのサブ工場や研究所が東ヨーロッパに置かれています。結果として、最近ではドイツやフランスでの失業率がやや上昇している一方で、東ヨーロッパ諸国は失業率が低下し、経済成長に貢献しています。

また、東ヨーロッパ諸国はEUからの分担金や補助金を受け取りながら、ヨーロッパ全体の経済的な格差を活用して成長を遂げています。たとえば、ハンガリーのオルバン首相は金融政策で注目されていますし、ルーマニアもEU内での存在感を強めています。ルーマニアは人口規模が大きく、EU議会での発言力を高め、補助金を引き出すことに成功しています。

このように、ヨーロッパ諸国はそれぞれの特徴を生かしながら、EU全体として一体化し、最終的にはアメリカの経済圏と競争しています。EU内では「ブリュッセル効果」によって、ヨーロッパ企業が有利に働くように規制を設けています。たとえば、EUの自動車産業は比較的順調ですが、アメリカの自動車企業はヨーロッパで苦戦しています。アメリカの自動車がEUの厳しい規制に適合しないことが一因です。

日本は、こうしたアメリカとヨーロッパの間で、どのように戦略を立てていくかを本気で考える必要があります。両者の大国に挟まれながらも、自国の利益を守りつつ、成長の道を模索することが求められています。

私は国会議員として、ただ国会内で議論しているだけではダメだと感じています。もっと「現場に出て」海外で他国や企業の戦略をしっかりと理解し、日本の強みをどうサポートできるかを考える必要があります。

たとえば、私は日本のものづくりは非常に強いと考えていますが、それをどう支援するかが大事です。日本が国際競争の中で打ち勝たなければ、いくら輸出力を強化しようとしても、従業員の給料を増やそうとしても成果は出ません。

そのため、私は現実的なアプローチを取り、政策を進めています。今回の視察では、アメリカのGAFAMや、ヨーロッパのBMW、ボッシュ、シーメンス、シュナイダー、ダッソーなど、強力な企業を徹底的に調査しました。それぞれの企業の違いや戦略を見た上で、日本が何をすべきかを具体的に考えています。どう感じましたか?

(小寺さん)
山田さんが言ったように、視察はそれで終わりではなく、これをどう政策に生かしていくかが重要です。これからが私たちの仕事だと思っていますので、しっかり進めていきたいと思います。

(小山さん)
今回はデジタルスタートアップを切り口に視察しましたが、山田さんのもう1つの重要な政策として「クールジャパン」もあります。コンテンツ関連の取り組みも行っていますが、内閣府の知的財産事務局が「食」に関する取り組みを打ち出しております。

今回訪れたドイツ、チェコ、ハンガリー、そしてフランスを見て感じたことですが、フランスやイタリアを除いて、これらの国々では食に対する関心が薄いようです。たとえば、現地の人々は「冷たいパンとハムで十分」という生活をしているという話を聞きました。ドイツでは、食にお金をかけるよりも住居にお金をかけるという文化があるようです。

一方、フランスやイタリアは食に非常に関心があり、それに合うワイン文化が根付いています。日本酒を海外に展開している企業の社長とも話しましたが、フランスやイタリアでは既存の食文化が強固なため、日本酒の浸透は難しいと聞きました。しかし、ドイツやチェコ、ハンガリーでは日本酒が受け入れられる土壌があり、新しい食文化とのコラボレーションも進んでいるとのことです。

こういった話を聞いて、ヨーロッパの中でも食に対する関心が高い国とそうでない国があることを実感しました。日本の食文化がまだまだ受け入れられる可能性のある国も多くあると感じました。今回の視察を通じて、日本の良い点をさらに売り込めると強く実感しました。

(山田さん)
ラテン系とゲルマン系の違いもあり、たとえばドイツのゲルマン系は法律が大陸法でルールベースに基づいています。一方で、アメリカではフェアユースといった柔軟な対応が取られることが多いです。同じヨーロッパ系や欧米でも、それぞれ考え方が大きく異なります。

今回、歴史についてもかなり詳しく話しましたが、たとえば日本は人口1億2000万人規模の国ですが、ヨーロッパの国々はそれぞれ1000万人や2000万人といった規模で、州や県ごとに大きな違いがあります。ヨーロッパを理解するためには1000年近い歴史をしっかりと学び、地域ごとの背景を理解することが非常に重要です。

ステレオタイプにとらわれず、東欧はかつてソ連の一部だったからロシアと近いといった認識ではなく、現在はEUの一員としてフランスやドイツと同じ枠組みで動いていることを理解する必要があります。

こうした歴史や構造を踏まえずにただ見て回ると、観光旅行に終わってしまう可能性があります。そのため、歴史を理解した上で訪れることが重要だと感じました。逆に、日本の歴史も改めて考える良い機会となりました。ヨーロッパでは、皆が歴史を語り、歴史的な背景を踏まえない議論は批判されることが多いです。日本も歴史を振り返り、見直す良いチャンスだと感じました。

(小山さん)
余談ですが、ビールといえばドイツというイメージが強かったのですが、1人当たりのビール消費量が最も多いのはチェコだそうです。チェコ人は夕食後に街の酒場に繰り出し、ひたすらビールを飲むという文化があるようで、国によって食文化が大きく異なることも感じました。

エンディング 海外視察まとめ

(山田さん)
ということで、この夏に行った視察は、台湾から始まり、アメリカ、ルーマニアとモルドバのウクライナ支援、そしてヨーロッパ各国と続きました。この一連の視察に関しては、放送で報告をさせていただきました。必要に応じて、視察の成果や報告を公開していきたいと思っています。

最近は「視察と言って観光旅行してるんじゃないか」と言われたりしますが、視察内容については今後も引き続き報告していきたいと思います。

次回は600回目の予定でしたが、選挙特集に変更となります。衆議院選挙の公約比較を行いますが、今日の段階で公約が出そろっていないため、次回の放送で詳しくお伝えしたいと思います。次回は「599.5回目」ということでよろしくお願いします。

今日はこれで終わりにします。ありがとうございました。