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【第612回】生成AIによる著作権法違反で初摘発!?~「エヴァ」ポスター事件に迫る~海賊版?非親告罪?捜査機関によるAI規制?!(2025/1/29) 山田太郎のさんちゃんねる 【文字起こし要約】
文字起こし元の配信動画
出演者:
山田太郎 参議院議員・全国比例
小山紘一 政策秘書・弁護士
今日の内容
山田太郎のさんちゃんねるです。
本番組では、表現の自由に関する問題をはじめ、政治、経済、文化など様々な話題を取り上げています。どうぞよろしくお願いします。
さて、今日は大きなニュースがいくつか舞い込んできました。主な内容は表現の自由に関するものです。ひとつは、生成系AIによる著作権法違反で、初めて摘発された事例です。これが大きな話題となっており、詳しくお伝えしたいと思います。
もうひとつは、日本の銀行が成人向けゲームの収益を拒絶したことに関連し、銀行による表現規制の疑いがあるという点です。この2本は大変大きな問題であり、今後の表現に大きな影響を及ぼす可能性があるため、しっかりと検証していきたいと思います。
生成系AIによる著作権違反 初摘発
まず最初に、エヴァのポスター事件についてです。生成系AIによる問題と捉えられていますが、小山さん、どうお考えでしょうか?
生成AIを用いた表現物、すなわち著作物に類似したものが摘発されたという事例ですが、これはおそらく全国で初の摘発、書類送検に至った事件だと伺っています。
ここで問題となるのは、生成AIのどの部分に問題があるのかという点です。30条の4に関連して語られることもありますが、実際には30条の4は今回の事案とは全く関係ありません。
つまり、一般的に他人の著作物に類似したものを無断で販売すれば問題になるという、従来の規制の延長線上にあるものであり、生成AI自体には直接関係ないと捉えることもできるのではないかと思います。
実際、AIを使わずに自分で手書きで作成した場合でも、著作権を侵害すれば同様の問題が発生するはずです。
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神奈川新聞によると、人気アニメ「エヴァンゲリオン新劇場版」などのキャラクターのイラストを、人工知能(AI)で生成したポスターとして販売した疑いで、著作権法違反(著作権侵害)の疑いが持たれ、2名が書類送検されました。
神奈川県警によれば、画像生成AIを利用した著作権法違反の摘発は県内初の事例とのことです。捜査にまで至り、書類送検された事例として、警察庁が把握している限り初めてではないかという話です。
書類送検された容疑内容は、1人目が許諾を得ずに勝手にポスターを作成し、それを販売したというもので、もう1人はAIで生成したキャラクターのポスターデータを販売目的で所持していたというものです。
今回の事件と著作権法との関係について詳しく見ていきたいと思います。論点は大きく3つあります。
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まず、どのような著作権法違反があったのか。次に、著作権法における原則申告罪や非申告罪といった観点から、これは海賊版のような形で非申告罪事案に該当するのか、また、著作者に確認なく警察が動いた事案なのか。最後に、30条の4との関係があるのかどうかです。
これらのポイントについて、警察とのやり取り(レク)を通じ、実際にどのような形で容疑が固められ、捜査に至ったのかを詳しく説明していきたいと思います。
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ここで、なぜ「海賊版」や「非申告罪」という言葉が出てくるのかについてですが、神奈川県警の摘発報道向けの垂れ幕に「画像生成AIを使用した海賊版アニメポスターに係る著作権法違反被疑事件」と記されていました。
「海賊版」とあれば、一般的には非申告罪が連想されるため、事務所にはこの件に関していくつか問い合わせが寄せられていました。
しかし、結論から述べると、今回の事案は直接的にAIが問題になっているわけではありません。
生成系AIをツールとして利用し、その成果物を流通させ、販売していたという点で、ネット上に生成AIがそのまま出力したものが流れている事案とは異なります。そのため、警察側も「画像生成AIを利用した海賊版」かどうかについては誤解が生じる可能性があると指摘し、今回の事案をはっきりさせるためにレクを入れることになりました。
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まず最初に整理したいのは、どのような著作権法違反があったのかという点です。今回の事案では、罰則に関しては著作権法119条第2項第3号、そして著作権法違反の条項としては同法113条第1項第2号が適用されています。
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また、今回の件が非申告罪に該当するのかについてですが、実際には非申告罪ではなく、著作権者に確認の上で告訴を受け、申告罪として受理されている事案です。
これまで一部で「海賊版で非申告罪か」という議論がありましたが、NHKの報道などによれば、サイバーパトロールによって本件が発見されたこともあり、警察が生成AIに関する摘発に非常に積極的に動いたという見方もありました。しかし、サイバーパトロールで発見された後、著作権者の明確な告訴の意思表示があり、告訴上も受理されているというのが実情です。
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次に、著作権法第30条の4との関係ですが、今回の摘発対象は開発や学習段階での行為ではないため、30条の4は適用されません。
では、まず重要な罰則等について見ていきましょう。小山さんから、著作権法119条と123条について簡単に説明していただきます。
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著作権法119条は、罰則規定の中で最も重要な規定です。
第1項では、いわゆる著作権侵害に対し、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、あるいはその併科が規定されています。
第2項では、5年以下の懲役または500万円以下の罰金、またはその併科と定められています。
この中で、1号は著作者人格権や実演家人格権の侵害に関する規定、(2号は省略しますが)3号は、著作権法113条第1項第1号の規定に基づき、著作権などを侵害したとみなされる行為、いわゆる「みなし侵害」を行った者への処罰規定が記されています。
今回の摘発は、119条第2項第3号、すなわちみなし規定(みなし侵害)の部分に基づいて行われました。
次に重要なのは著作権法123条です。これは、私がTPPの著作権に関する非親告罪の議論の際に、非常に重視して守ってきた条項です。123条第1項では、各罪について告訴がなければ公訴を提起できないと定められており、これが告訴を前提とする申告罪となっています。
ただし、海賊版を直接そのまま流通させるケースについては、この限りではありません。原則として、著作権者が告発しなければ罪に問えない、つまり123条がしっかりと適用されるということです。
ここで誤解されがちな点について正確に申し上げます。123条第1項に「告訴がなければ公訴を提起できない」とありますが、これは検察官が裁判を行うかどうかの判断において告訴が必要である、という意味です。
捜査機関が捜査を開始する段階では、法律上告訴は不要です。申告罪であっても捜査は行われます。ただし、いずれかの段階で裁判にかけられなくなると、著作権者が「告訴しません」と明言すれば、基本的に申告罪の捜査は停止します。
一方、非申告罪の場合、たとえ著作権者が「告訴しない」と表明しても、法律上は告訴がなくても起訴が可能であり、著作者から告訴を得られなくても捜査が進められる可能性があります。捜査機関が「これは見逃せない」と判断すれば、主導的に告訴なしで捜査を進め、起訴まで持っていくことも理論上は考えられます。
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今回の著作権違反があった条項について整理すると、適用されたのは著作権法113条第1項第2号です。113条は「みなし侵害」に関する規定であり、1項第1号は輸入に関するものですが、2号では、海賊版を海賊版であると認識しながら頒布し、または頒布する目的で所持し、頒布の申し出を行った場合について規定されています。
今回のケースでは、海賊版であると認識しながら頒布の目的で所持していた者1名と、実際に頒布まで行った者1名の、合計2名が検挙されたと伺っています。
海賊版とは?(親告罪と非親告罪)
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次に、海賊版の概念についてですが、定義は非常に広範です。文化庁が発行している「著作権侵害・海賊版対策ハンドブック」では、海賊版を「著作権で保護される著作物を、著作権者の許諾なしに複製、出版等したもの」と定義しています。
つまり、他人の著作物を無断で複製して流通させたり、公衆送信したりすれば、海賊版とみなされるということです。典型的な著作権侵害の形態としては、複製権、頒布権、譲渡権、または公衆送信権の侵害が挙げられます。
海賊版に関する犯罪行為は、以下のような段階に分けて考えられます。
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海賊版の作成
→ これは明らかに複製権の侵害にあたります。頒布目的での所持または頒布の申し出
→ これについては「みなし侵害」の規定が適用され、実際に公衆送信、頒布、譲渡などの行為がなくても、犯罪とみなされる可能性があります。実際の譲渡、公衆送信、頒布
→ これらは、インターネット上での公衆送信侵害、頒布権侵害、または譲渡権侵害となります。
なお、複製権侵害や公衆送信権侵害の場合は、法定刑が10年以下の懲役または1000万円以下の罰金となるのに対し、みなし侵害の場合はその半分程度の刑罰となる規定もあり、各段階ごとに犯罪が成立する可能性があります。
すべてが合算されて懲役40年になるわけではありませんが、著作権侵害の場合、各要素を詳細に検討する必要があります。
次に、海賊版の非申告罪と申告罪についてですが、これは非常に複雑な問題です。
基本的に、著作権法は原則として申告罪ですが、特定の条件がすべて満たされる場合には、海賊版とみなされ、非申告罪の対象となります。
文化庁および私の事務所が、特にコミケでの漫画や同人誌の販売などが問題となった事例を踏まえ、以下の3つの条件を整理しました。
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対価を得る目的または権利者の利益を害する目的があること
有償の著作物に関して、原作のままであること
ここでいう「原作のまま」という表現は非常に重要で、たとえばAIで生成した場合に原作と同一視されるかどうか、または二次創作の場合には原作とはみなされない、といった判断基準となります。
原作のまま譲渡、公衆送信、または複製が行われること、並びに有償の著作物の提供・提示により、権利者の利益が不当に害されること
これら3つの条件がすべて満たされた場合、海賊版とみなされ、非申告罪として、著作権者の告訴がなくても公訴提起が可能となります。
この点については、文化庁と多くの議論を重ね、2013年から2014年にかけてまとめ上げたものです。
また、非親告罪となる著作権侵害の例としては、たとえば、販売中の漫画や小説をそのまま販売する行為、または海賊版をネットで配信する行為などが挙げられます。
一方、親告罪として扱われる例は、漫画等の同人誌をコミケで販売する行為や、漫画のパロディをブログに投稿する行為などです。
ただし、ここで「パロディ」という言葉については、時代の経過や国によってその解釈に違いがあるため、フランスやヨーロッパの法制度と日本の著作権法上のパロディの扱いは、必ずしも一致しない点に注意が必要です。
また、同人誌がすべて著作権侵害にあたるわけではなく、著作権侵害が成立するものだけが問題となるため、同人誌=著作権侵害という単純な図式ではない点も強調しておきます。
ここで少し補足しておきます。今回の新サイバー犯罪条約に関してですが、2013年から2014年にかけて、TPPが秘密交渉条約であったため、その中身がなかなか明らかにならず、知財全般(特に著作権を含む)を非申告罪化するという議論がありました。
その中で、留保規定を何とか盛り込もうと、交渉官と相当なやり取りを行いました。当初、交渉官自身もそこまで考えていなかった。政府の方針は、「海外に合わせ、非申告罪にする必要はなく、結局申告罪で問題ないのではないか」世界の常識に合わせようという議論があったのです。
しかし、もし全て非申告罪になったとしたら、同人や二次創作が潰れてしまい、コミケすら開催できなくなるという懸念もありました。そこで、TPP交渉官との交渉を経て、利用規定を残すことになったのです。
さらに、新サイバー犯罪条約と同様の構図として、国内で批准し法律整備を行う場合、すなわち著作権法改正の際に、この非申告罪の規定がそのまま国内法に導入されると、原則として日本でも申告罪で運用されることになってしまいます。
そこで、当時の著作権課長やはせ文科大臣にも働きかけ、同人等も含めて保護するために、著作権法の原則は申告罪とする方向で整備を進めました。ただし、海賊版等については非申告罪とするという形で、条文上「何をもって申告罪とし、何をもって非申告罪とするのか」をかなり詳しく検討・規定していったのです。
この過程は非常に大変でした。今になっても重要な問題ですが、もし当時、原則がすべて非申告罪になっていたとしたら、警察の判断一つで捜査や公訴の進展が左右される恐ろしい社会になっていたことでしょう。
著作権侵害は、許諾さえあれば基本的に問題にはならないため、全てが権利者の意思で決めることが出来るという点は非常に重大です。権利者の確認なしに捜査や裁判が進められるのは、非常に恐ろしい状況だといえます。
実際、韓国では著作権を非申告罪原則として運用した結果、「著作権トロール」と呼ばれる、関係のない第三者が弁護士などを利用して脅迫行為に及ぶ事件が発生しています。親告罪か非親告罪かという問題は、非常に大きな影響を持っているのです。
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整理すると、広義・狭義の海賊版の問題もありますが、原則として親告罪で整理され、海賊版に該当するもの(すなわち、著作権法123条第2項に定める3つの要件をすべて満たしたもの)は、狭義の海賊版とされ、非申告罪の対象となります。
著作権法第30条の4と第47条の5
ここからは少し複雑な話になります。もし何でもかんでも権利者側に寄せて取り締まると、権利制限や利用、開発段階での著作物利用の問題が生じるため、あらかじめ整理した情報があります。これに関しては、著作権法の30条の4と47条の5という規定が非常に重要です。
ここで小山さんに説明していただきますが、まず30条の4と47条の5は、いずれもAIに関係する著作権法の規定とされています。ただし、これは生成AIに限らず、AI全般について言えることです。
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30条の4
これは、開発や学習段階において機能する権利制限規定です。今回のように生成された成果物の利用段階では、そもそも30条の4が問題にされることはありません。基本的には、著作物の表現自体を享受しないため、著作者に与えるダメージはほとんどないと考えられます。47条の5
こちらは、たとえばスニペット表示やサムネイル表示など、情報解析、資料検索に伴う結果提供の場合に適用されます。47条の5第1項第1号では、軽微な付随利用(スニペット表示、サムネイル画像の表示など)が認められ、第2項では、学習のためのクローリングなども許容されています。これにより、著作物の表現そのものの享受を前提としないため、著作者に与える不利益は少ないと整理されています。
47条の5に関しては、例えばGoogleなどの検索エンジンで検索すると、結果としていくつかの著作物が表示されることになります。狭義に見れば、著作物が一つ一つ表示されることで、著作権侵害と主張される可能性もありますが、そうすると検索エンジンが使えなくなってしまいます。実際、平成30年の著作権法改正の際、日本の国産検索エンジンが衰退したのは、権利制限規定が不十分であったためだという議論もありました。
著作権法は、著作権者の権利保護と著作物の利用促進という、双方のバランスを取る難しい法律なのです。権利を過度に強化すれば世の中が回らなくなり、逆に緩すぎれば権利者に正当な還元がされないという問題があります。スクリーンショットの違法化についても、どのケースが問題でどのケースが許容されるのかを慎重に整理する必要がありました。
このように、著作権法は権利者の保護だけでなく、利用促進とのバランスを取るために、非常に緻密な規定や調整が行われているのです。
もう一つの論点として、生成AIに関する著作権法の規定があります。これについては、著作権法30条の4と47条の5が該当します。先ほどはAI全般の話をしましたが、ここでは生成AIに特化した観点でまとめています。
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まず、30条の4ですが、これは生成系AIであろうと一般のAIであろうと、享受目的がない場合に適用される規定です。享受目的が全くない場合は問題ありませんが、これはあくまで開発や学習段階に限定されます。つまり、生成された成果物の利用段階では、30条の4は機能しないということです。
一方、47条の5については、享受目的がある場合でも、利用が軽微であると判断されれば権利制限として認められる可能性があります。
生成AIを用いた情報の所在検索や、検索結果に付随して既存著作物の公衆送信が行われるケースもありますが、これらが軽微利用と認定されれば、著作権法における自由利用の範囲として保護されます。
現在、47条の5に関連して「ラグの問題」が大きな論点となっており、新聞協会などは「ラグが軽微利用に当たらない」と主張しています。しかし、軽微利用と認められない場合、学習段階から違法とされる可能性もあります。
こうした問題は、司法判断を通じて、司法、立法、行政が連携して運用を固めていく必要がありますが、現状、新聞協会はその方向まで踏み込んでいないように感じられます。
著作権法の基本
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著作権法の基本について簡単にお話しします。著作権には人格権と財産権がありますが、特に今回問われているのは著作権侵害についてです。
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まず、保護される著作物とは、単に何かを作れば自動的に著作権が発生するのではなく、創造性や独自性のある、ユニークな表現でなければなりません。著作物でないものを侵害しても、著作権侵害とはなりません。
また、法定利用についても整理が必要です。法定利用に該当すれば、許諾がなくても著作権侵害とはならない場合があります。さらに、「無権限利用」という概念は、許諾があれば問題なく、また権利制限規定に該当する場合も無権限とはならない、といった判断基準になります。
要は、あなたが著作物を利用する権利があるかどうかが重要です。権利が認められれば全く問題ありませんが、認められない場合は著作権侵害となります。
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それが著作物かどうかという点も非常に難しい問題です。生成AIに関しても、この点が問題になる可能性があります。著作物とは、思想や感情を持って創作的に表現されたものであり、文芸、学術、美術、または音楽の範囲に入るものを指します。
たとえば、事実の単なる収集や、コストがかかったという理由だけでは著作物とは認められません。また、スポーツのルールのように、誰が作っても同じような表現しかできないものは、創作性が認められず、著作物とはならないとされています。
さらに、表現されたもの、つまり実体や実物として表現されたものが保護される対象です。よく「アイディアは価値があるから著作物だ」と主張されることがありますが、実際にはアイディアそのものは保護されず、表現された形が保護対象となります。アイディアの保護は、特許法など別の法律によって行われ、厳しい限定要件があります。
ここからは、著作権に関する裁判例についての話になります。
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昨年、大変話題になったニュースがあります。将棋の指し手を示す棋譜情報、つまり対局時の盤面図や各コマの配置に関する情報について、大阪地方裁判所は「棋譜情報は公表された客観的事実であり、著作物ではない」と判断しました。
実際、将棋の指し手の記録を盤面図に再現した動画が、放送事業者「囲碁将棋チャンネル」によって著作権侵害として削除申請されたケースがありました。これに対して、削除された側が「自由に使えるものである」と反論し、逆に放送事業者に対して削除申請の撤回と120万円の支払いが命じられた事例があります。
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この事件は、明日大阪高裁の判決が言い渡される予定です。大阪地裁の判断が覆されるか、そのまま支持されるかによって、著作権や表現の範囲が大きく変わる可能性があり、非常に重要な裁判となるでしょう。
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放送事業者「囲碁将棋チャンネル」は、棋譜が著作物であるとするさまざまな根拠を主張していますが、日本棋院は、ホームページ上で「棋譜は著作物である」と明記しています。
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これは、文化庁の著作権法逐条講義において、著作権法の起草担当者であった加戸先生が、棋譜は対局者の共同著作物と解されると明記していることにも基づいています。しかし、棋譜が著作物と認定されると運用上さまざまな問題が生じる可能性もあるため、司法の判断を明日待つ必要があります。
このように、著作権に関する権利行使を無理に進めると、その行使自体が不法行為と判断され、手痛い反撃を受ける可能性があります。大阪地裁の判断、そして明日の大阪高裁の判決には、大いに注目したいと思います。
(2/1最新情報)
次に、もう一つ皆さんに知っておいていただきたい事例があります。
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これは、読売新聞の東京本社が起こした裁判で、新聞の見出しに著作権があると主張して争ったものですが、結果的に読売新聞側が敗訴したケースです。
この判決が重要な理由は、新聞社が今回のAIなども含めた著作権法に関して「権利侵害」になるのではないかという主張をしており、私のところにもさまざまな意見が寄せられているほか、立法府にもそのように解釈を固めてほしいとの要請があるためです。
実際、新聞社が著作権法違反で裁判を起こすのを躊躇する要因のひとつとして、この判決が影響していると言えます。
【判決の概要】
神戸の会社が「LINEトピック」というサービスで、読売新聞などの新聞見出しを大量に集めて配信していた際、読売新聞側から「自社の著作物を無断で使用した」と訴えられました。
しかし、裁判所は見出しの著作物性を否定し、著作権侵害は成立しないと判断、差し止め請求も原則として認められませんでしたが、高裁判決では、不法行為責任に基づく損害賠償は認められるとされました。
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読売新聞は、365個の『読売オンライン』の見出しを著作権侵害の根拠として挙げましたが、これらの見出しは客観的な事実をありふれた表現で構成しているに過ぎず、創作性が十分に発揮されていないとして、著作物性が否定されました。
著作権が認められるものは非常に強く保護されますが、知財高裁は本件について「著作権法違反には当たらない」と判断。すなわち、例外的に不法行為が成立する場合を除けば、自由に利用してよいという見解が示されました。
これにより、この判決は新聞社にとって大きなトラウマとなっていると評価されています。
次に、模倣に関する問題についてです。
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模倣の線引きにはさまざまな側面があり、例えば図表の例をご覧ください。簡単に説明すると、上の例は著作権侵害として認められたケースです。一方、下記の例は、サンリオの「ケロケロケロッピー」がもとにしたと主張する個人が制作したカエルのイラストですが、確かに似ている部分はあるものの、著作権侵害は認められませんでした。
つまり、上の例は著作物として保護される創作性が認められたのに対し、下の例は著作物性が否定されました。
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東京高裁は、カエルを擬人化する手法は広く知られており、カエルを擬人化する際に顔、目、胴体、手足といった基本的な構成要素は自明であると判断。結果として、通常予想されるありふれた表現の範囲に属するとして、厳しく著作物性が否定されました。
ただし、キャラクターの著作物性については、擬人化されたキャラクターが目立つ特徴を持ち、商業的に成功している場合、権利保護を強く主張する側も出てくるため、判断は非常に難しい問題となっています。
たとえば、ゆるキャラなどの一枚絵における保護範囲も、ケースバイケースで判断されるのが現状です。また、サザエさん事件のように、損害が認められた事例もあります。
次は、主人公の名前に関する事例です。
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これは非常に物議を醸した裁判で、『ドラゴンクエスト YourStory』の主人公名「リュカ・エル・ケル・グランバニア」が無断で使用されたとして、スクエア・エニックスや東宝などが訴えられましたが、東京地裁の裁判長は「人物の名称は著作物ではない」と判断。
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人物の名称は、思想や感情を創作的に表現したものではなく、文芸や美術に属するものとは言えないとの見解を示しました。これに対し、名称や名前に思想や感情を想起させる要素が含まれるとの主張もありますが、東京地裁は人物の名称については著作物として認めず。
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その後、知財高裁でも同様の判断が下されました。なお、本件は現在最高裁に上告中であり、最高裁の判断が待たれます。
次に、チラシの模倣についてです。
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どちらがどちらか判別が困難なほどそっくりなチラシが存在しましたが、大阪地裁の平成31年1月24日判決では、当該チラシの記載内容には創作性が認められず、各商品の配列などはコンタクトレンズ通販の広告としてありふれたものであると判断されました。その結果、本件チラシは著作物と認められず、著作権侵害および著作者人格権侵害は成立しないとされました。
著作物として保護されるもの
次に、どのようなものが著作物として保護されるのかについてです。
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小説や音楽といった言語表現、舞踊、美術、建築、また地図などは明確に著作物として保護されます。地図に関しては、どの程度まで利用が認められるかという議論もあります。映画や写真、プログラムも同様です。
声自体は保護の対象とはなりませんが、その表現された形は保護されると理解されています。ただし、声も保護すべきとの意見もあり、これは不正競争防止法による規制で対応すべきとの見解があり、経産省などと調整が進められています。
さらに、保護される著作物の範囲について整理すると、著作権法第6条では以下のように定められています。
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日本国民および日本法人によって作成された著作物
日本国内で初めて発行された著作物
その他、条約に基づき我が国が保護の義務を負う著作物(すなわち、ベルヌ条約加盟国のほぼ全てに対する保護義務を含む)
ただし、著作権の対象とならないものとして、憲法その他の法令、告示、訓令、通達、行政機関が発する文書、裁判所の判決や決定、及びそれに類する翻訳物や編集物などが挙げられます。
なお、保護期間については、著作者の死後70年が経過するまで著作権が存続するため、死後70年未満の著作物が対象となります。
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次は「法定利用」についてです。まず、読む、見る、聞く、触れる、覚えるといった行為は法定利用には含まれません。
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では、法定利用に含まれるものとは何かというと、複製、つまりコピーや、上映、公に伝達する行為などが挙げられます。特に難しいのは「公衆送信」の部分で、これは無線、有線はもちろん、現在話題になっているインターネットや、電話回線、ファックスなども含まれます。
また、伝達、上演、展示、頒布、譲渡、貸与、翻案なども対象となります。なお、翻案に関しては、単にそのまま出すのではなく、新たな創作的表現を加えて既存の著作物を利用する場合が該当します。
次に、弁護士.comニュースで2023年に出た記事をご紹介します。
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記事では、立ち読みそのものは違法ではなく、たとえ立ち読み中に写真を撮影したとしても、窃盗罪にはならないと解説されています。著作権法上、写真撮影は複製行為に該当しますが、単に自分自身の利用目的で撮影する場合には私的複製の権利制限が適用される可能性が高いとのことです。
ただし、本屋に行って写真を撮った場合、著作権侵害の問題ではなく、コンプライアンスや道徳的な観点から問題視される可能性もあります。また、立ち読みそのものが違法ではなくても、例えば「立ち読み禁止」と掲示されている場所に無断で立ち入れば建造物侵入罪、または「偽計や威力を用いて営業を妨害」した場合は業務妨害、立ち読み中に出て行くよう何度も要求されても従わなかった場合は不退去罪、さらに、本に貼付された立ち読み防止テープを破壊すれば器物損壊となるなど、著作権侵害とは別の法律で罰せられる可能性がある。
ここで強調しておきたいのは、我々が立ち読みを推奨しているわけでも、立ち読みして写真撮影してよいと主張しているわけでもなく、単に著作権侵害として違法とするのは難しいという点です。
生成系AIと著作権について
また、生成系AIが著作権法違反しているのではないかとよく議論されますが、生成系AIが著作権法上問題となるのは、主に「複製」と「公衆送信」に関わる部分です。
翻案の問題も含まれることがありますが、基本的には生成系AIが行っているのは、既存の著作物をコピーしている、あるいはネット上で送信しているという点に着目されます。
文化庁は「AIと著作権に関するチェック&ガイダンス」を昨年7月31日に発表しており、そこでは重要な前提として、著作権は複製や公衆送信といった法定利用行為にのみ及ぶとされています。
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上の図は、どこでどのような法定利用行為が行われているかを分析しており、複製と翻案が主な争点となっていることが示されています。
享受目的がある場合、単にプログラムを作成していないからではなく、そもそも既存の著作物を持ってきてコピーしている、またはネット環境で送信している点が問題となる可能性があります。
ここで、複製と翻案について整理します。
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複製とは、他人の著作物に依拠して、同一または類似のものを作成する場合に該当します。ただし、単なる部分的な変更や、創作性がほとんどない場合も複製と判断されることがあります。
一方、翻案とは、他人の著作物をベースにして、新たな創作的表現を付け加えた場合を指します。一般的には、依拠性、同一性、類似性が複製権および翻案権侵害の要件とされています。
今回、依拠性の証明は非常に難しいため、著作権侵害の成立を証明するのは権利者側にとって厳しいという指摘があります。文化庁は、相当な類似性が認められる場合には依拠性が疑われると整理しており、生成系AIで制作したもの、またはその生成を助けるプログラムを提供している側にも、証明責任があるとしています。これらの点は、今回のガイドラインにも明記されています。
私自身はAI推進に関わるデジタル本部などの立場もありますが、知財や著作権に関して権利者をどう守るかという観点では、文化庁と協議の上、適切な解釈とガイドラインの策定を進めていることをお伝えしておきます。
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「無権限利用」についてですが、これは、利用にあたって明示的な許諾があるかどうかの問題です。なお、許諾というのは、行為や態度から黙示的に認められる場合もあり、後から「許諾していない」と主張しても、実際には黙示的な許諾があったと認定される可能性もあります。
また、「権利制限」についても重要な論点です。権利制限規定の中では、私的使用のための複製や引用、非営利かつ無料の場合の著作物利用などが議論の対象となります。
しかし、私的利用については、その範囲がどこまで認められるのか、例えば家族5、6人の集まりでの利用はどうか、また引用についても条件や前提があり、無制限に認められるわけではありません。すべての著作物に対して著作権が発生し、権利が行使されると社会が回らなくなってしまうため、これらの権利制限の趣旨にも十分注意する必要があります。
次に、生成系AIやAI全般に対して、自分たちの著作物が無断で利用されないようにするための手段について検討します。
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まず、学習データとしての収集を防止する技術的手法があります。たとえば、検索エンジンのクローラーによるデータ収集を防ぐため、ウェブサイト内のrobots.txtに「AI学習データの収集禁止」の記載を入れることで、生成AIの開発事業者によるクローリングを抑制できる可能性があります。
また、IDやパスワードによるログインを必須とすることで、特定の領域への無断アップロードを防ぐ方法もあります。
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さらに、AI学習用データとして販売可能な形にしておく手段も考えられます。これは、著作物が享受目的で単に利用されるのではなく、あらかじめ自らのAI学習データベースとして整備し、販売しているという形をとることで、違反か否かの判断が明確になるという狙いがあります。
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次に、著作権侵害を伴うAI学習についてですが、ここでは特に、生成系AIが行う「複製」や「翻案」が問題視されます。たとえば、AI学習データに含まれる著作物の創作的表現が、出力されることを目的として追加学習に利用される場合や、ラグ(軽微利用)が実装された際に、軽微利用と認められず違法とされる場合などが考えられます。
新聞協会も、軽微利用と判断できないラグ利用があると指摘しており、現行法上で違法と判断される可能性があるのです。違法と認定された場合、権利行使が必要となり、民事・刑事の両面で積極的に対処する必要があります。
一方、特定のクリエイターの作品、つまり少量の著作物のみを学習データとして用いた場合は、享受目的が少なくとも併存しているという主張が可能であり、30条の4の適用が否定される場合もあります。
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権利侵害に関しては、侵害者が故意に行ったのではなく、過失や技術的な失敗で行われた場合でも、差し止め請求や、不当に利益を得たものに対する返還請求が可能です。なお、故意が認められる場合は当然刑事罰が適用され、過失があっても損害賠償請求は可能です。
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また、インターネット上の海賊版による著作権侵害についての相談窓口も設置されています。私自身、知財調査会などで著作権科を中心に対応を進めており、文化芸術活動に関する法律相談窓口でも著作権に関する問い合わせを受け付けています。これにより、著作権に関する問題に対して、直接行政に問い合わせることができる環境が整えられています。
AI関連法案について
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AIに関する法案についてですが、現在その法案が作られており、与党内で詰めている段階です。現時点では概要しか説明できませんが、新聞にも報じられているように、産業育成やリスク管理といった観点から、著作権侵害にならないよう配慮すると同時に、AIをうまく活用できるよう、両立したバランスを目指しているとのことです。今後、詳細が決まり次第、皆さんにお伝えする予定です。
銀行による表現規制!?
次に、本日のもう一つのテーマである「銀行による表現規制」について報告します。
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アメリカの会社が運営するPCゲームプラットフォーム「Steam」では、日本の個人クリエイターもゲームをリリースでき、また企業としてもゲームの販売が行われています。
しかし、アメリカの銀行から日本へ送金しようとした際、日本の銀行側が「お金を受け取れません」と拒否するケースが多々報告されています。原因として、以下の3点が指摘されています。
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成人向けゲームであるため、収益を受け取ることができない。
成人向けゲームを扱っている企業は、日本で銀行口座を開設できない。
SWIFTなどの民間ルールが存在する。
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これらについて、金融庁と経済産業省との間で意見交換(レク)が行われ、各行政機関の立場が整理しました。
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金融庁は、銀行が成人向けゲームだけを理由に収益を拒否しているわけではなく、犯収法や外為法に基づく慎重な総合判断が必要であると理解しているとのことです。
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また、成人向けゲームを理由に口座開設を拒否しているわけでもなく、同様に総合判断が行われていると認識しています。
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さらに、SWIFTをはじめとする国際的な民間団体による規制については、金融庁は承知していないとの見解です。
結論として、金融庁も経産省も本件に関しては現時点では具体的な規制は把握していません。また、犯罪収益移転防止法や外為法以外で規制することはできないと考えられており、民間の規約による規制についても、基本的には民々の契約に留まるため、行政が立ち入る領域ではありません。
とはいえ、クレジットカードなど公的な機関による取引においては、違法性がないのであれば取引が保証されるべきであるという議論もありますが、現状そのような仕組みは整っていないのが実情です。
なお、MANGA議連などは、日本のコンテンツの中核をなすマンガ・アニメ・ゲームの海外展開を応援しています。海外で売り上げた収益が日本に戻らないのは問題だと考え、経産省とも協議中です。
経産省としては、日本のコンテンツにエログロや暴力シーンが含まれていたとしても、それが必ずしも違法とならず、取引が継続できるような環境を整える必要があると認識しています。
そもそも、問題となるケースを整理しておきたいと思います。
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まず、犯罪収益移転防止法(犯収法)や外国為替及び外国貿易法(外為法)などは、基本的にマネーロンダリングや違法薬物の取締り、さらにはテロリストの資金源を断つために制定されています。
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これらの法律の上位層には、事前防止のための規定と、実際に取り締まるための規定が存在します。事前防止を厳格にしすぎると、合法な取引まで制限してしまうジレンマがあるため、防止規定が機能しつつも、合法な取引までアウトにしないような運用が求められています。
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銀行が取引を謝絶することについてですが、「成人向けゲームである」という理由だけで銀行が取引を拒否してよいのかという疑問があります。
金融庁が作成している「マネーロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(13ページ参照)には、合理的な理由なく謝絶等を行わないことが明示されており、成人向けゲームであるというだけで謝絶するのは、このガイドラインに反するという理解です。ただし、取引を保証する仕組みは現時点では存在していません。
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また、STEAMはPCゲーム市場の成長を牽引しており、昨年から経済産業省のエンタメクリエイティブ産業製作研究会などで、PCゲーム市場の拡大が期待されているとの話があります。
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グローバル配信プラットフォームであるSTEAMでは、インディーゲームの販売が可能になり、UGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)の時代がゲーム業界にも到来しています。これにより、個人でもSTEAMでかなりの売上を上げることが可能になりました。
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経済産業省は、ゲーム制作に関するアクションプランを策定し、国内のモバイルゲーム事業者の海外展開、翻訳、市場調査、プロモーション、拠点設置などを支援する方針です。
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ただし、法規制やレーティング、ガチャの問題など、国によって対応が異なる点や文化の違いも課題として挙げられています。とはいえ、エログロや暴力など一定の要素が含まれていても、違法とならない範囲であれば問題はないはずです。
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しかし、海外の法規制に引っかかってしまうケースもあり、その点は手が出しにくい部分でもあります。さらに、海外で合法なものであっても、日本の銀行がその売上の受け取りを拒否するのは別の問題であり、ゲームの海外展開を促進するためにも、経済産業省にはこの点をしっかり検討してほしいと伝えています。
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また、海外企業の口座開設支援については、外国人だけでなく、合法的な活動をしている日本人や日本企業も同様の枠組みで支援されるべきだと考えられ、自治体とも連携して、銀行と企業・個人・自治体の間でうまく運用できる制度が検討中です。
今日のまとめとお知らせ
まとめると、クレジットカード問題などから始まり、今後、銀行の取引がますます厳しくなる可能性があることが指摘されています。さらに、GoogleなどのサーチエンジンやAIが絡むコンテンツ表現においても、規制がかかる可能性が出てきています。
昨年夏にGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)もこの点について議論を重ねていますが、現状、クレジットカード関連も着実に進んでいるため、優越的地位の濫用、プラットフォームやインフラとしての規律、消費者保護、金融流通の確保といった多角的なアプローチが求められています。
いよいよ、銀行自体がこのような状況に直面しているため、早急に対策を講じなければならないと考えられています。
さらに、神奈川県警が摘発した「画像生成AIを利用した海賊版アニメポスターに関わる著作権法違反の被疑事件」についてですが、タイトルからすると生成AIが原因であるかのように誤解される恐れがあるため、警察側にはその点を明確にしてもらいたいと思います。
銀行の件については、口座開設に関して一般企業でも非常に難しい現状があります。成人向けコンテンツだけを理由にするのは、金融庁の見解の通り考えにくいかもしれませんが、口座開設の手続きがスムーズに進むような支援策があれば、ブラックボックス化せず透明性を保ってほしいと期待されています。
最後に、お知らせです。
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次回は2月16日(日)に、好評につきこれまで2回行ってきた動画作成講座の3回目を実施します。山田の街宣の撮影を交えて秋葉原駅周辺で開催します。未経験者の方も大歓迎です。参加人数が限られているため、早めのお申し込みをお願いします。
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今回、いろいろな方の動画がネット上に出回ることを私も楽しみにしており、全くの初心者でも3時間でそれなりのものが作れるということで、優しく解説するだけでなく、実際の対象物を使った実践的な内容で表現の自由を守る活動にもつながる面白い企画だと考えています。
以上、どうもありがとうございました。
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