見出し画像

【第589回】台湾視察報告🇹🇼台湾半導体産業はなぜ強い?日本が勝てない理由とは!?(2024/07/24) #山田太郎のさんちゃんねる【文字起こし】

文字起こし元の配信動画

発言者:
(山田さん) 山田太郎 参議院議員
(小寺さん) 小寺直子 山田さんの秘書


今日の内容

(山田さん)
山田太郎のさんちゃんねるです。今日は「台湾視察報告」ということで、6月26日から28日まで台湾へ行きました。特に、半導体産業の現場や工場の自動化現場を視察、なぜ台湾は半導体産業が強いのか、日本はどうして勝てないのか、その理由について迫りたいと思っています。

そういう意味で、これは非常に保存版になると思いますので、どうか皆さん、いいねをしていただければ幸いです。

さて、まず「表現の自由を守る会フォーラム」が、このコミケで今回開かれる中で開催されますので、このあたりの報告を小寺さん、お願いします。

(小寺さん)
8月12日(月・祝)の17時30分から19時30分の2時間で、いつものTFTビル東館9階で開催いたします。参加費は無料で、どなたでも、初めての方でもご参加いただけるようになっております。

今のところ、申し込みはX(旧Twitter)で投稿しておりまして、そちらのフォームから事前に申し込みが必要となっております。明日以降、ホームページと「表現の自由を守る会」にもアップいたしますので、そちらからも申し込みが可能です。ぜひ、たくさんの皆様にお会いできることを楽しみにしております。

(山田さん)
事前申し込みということなので、必ず申し込みをお願いしたいと思います。すでにXの方では申し込みが開始しております、そして今年のコミケも、街宣を含めて売り子もする予定ですので、そちらもよろしくお願いします。

さて、今週の動きについても少し見ていきたいと思います。まさに夏真っ只中で、会館の中は夏休みの雰囲気です。しかし、自民党としては総裁選に関して、慌ただしいほどではないですが、いろいろと動きがあるようです。

総裁選が近づいてきたら、自民党総裁イコール総理大臣になる可能性がある人を選ぶという重要な局面です。これについてもしっかりとご説明していきたいと思います。

(山田さん)
7月18日から24日までの1週間、どんなことをしてきたかについてですが、まず1つは経済安全保障に関する議論が党内で行われました。経済安全保障は非常に重要な内容を含んでおり、特に今日の半導体に関しても、経済安全保障が大きく関わっている話ですので、これについてもしっかりご説明したいと思います。

それ以外には、学校で先生の不適切な指導によって、子供たちが自殺してしまうという問題があります。この問題については、これまでもかなり議論されてきましたが、子供の自殺に関する統計調査がしっかり行われていないことが改めて浮き彫りになってきています。この点についても、警察とどのように対応できるかを今議論しているところです。

さらに、いじめに関しても「いじめ重大事態」というものがあります。旭川の爽彩さんの事件も、この番組で何度も取り上げてきました。なぜいじめが起こるのか、また、いじめが起こった後にどのような対処がされるのか。特に、いじめ重大事態が宣言されず、調査も解決策も見つからないままのケースが多くあります。この点についても議論を続けています。

それからマイナンバーカードを使った本人確認や署名等に関する内容も、デジタル庁と総務省で進めています。マイナンバーカードを本当の意味で利活用するためには、このあたりに関してもしっかりとした仕組みが必要だということです。

それ以外にも、AI関連企業の訪問や製造業関連の視察も行いました。台湾には1ヶ月前に行ってきましたが、来週以降はアメリカのGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)なども視察予定です。どのようなことを見てくるのか、どんな要望やニーズがあるのか、既に準備が始まっています。

視察というのは、実際に行く前から始まっているもので、我々もその準備を進めています。まず、今日はちょうど1ヶ月前に行った台湾視察の報告を、内容がまとまりましたので、皆さんにご報告したいと思っています。

台湾視察報告

(山田さん)
6月26日から28日まで台湾に行きましたが、小寺さん、台湾というとどんなイメージですかね?

(小寺さん)
イメージですか? 私、台湾が実は大好きで、もう7、8回は行っています。台北、台中、台南、高鐵(高速鉄道)も利用しました。台湾の人々はとにかく優しいし、親日的ですよね。あとは、食べ物もおいしい。日本の皆さんも、良い国だというイメージを持っていると思います。

そして、やはり半導体産業で世界の中心を占めているということも、私を含めてほとんどの方がそういうイメージを持っているのではないかと思います。

(山田さん)
私も台湾に行くのは4回目か5回目になると思いますが、これだけ産業界を中心に台湾を回ったのは初めてでした。今日は、詳しく台湾について、どんなところを巡ってきたのか、まず最初に概要をご説明したいと思います。

(山田さん)
3日間の間に巡った場所について、順番にご紹介します。まず、CIMFORCEとEA-SUNというところです。これらは自動化の仕組みに関する企業です。自動化とは何なのかについては、後で詳しく説明します。

次に訪れたのは、United Microelectronics Corporation(UMC)です。これは、かの有名なTSMCの兄弟分であり、実はお兄さん分に当たります。TSMCがあまりにも大きくなってしまったため、現在は競争関係にありますが、老舗のUMCにも行き、現場の副社長とも面談し、議論をしてきました。

さらに、Andes Technologyという会社にも訪問しました。これもUMCの兄弟分に当たりますが、後で紹介するITRI(工業技術研究所)の卒業生が設立した会社です。半導体の優秀な設計を手掛けており、RISC-V(リスクファイブ)というオープンな規格を提唱したメンバーの1人が創業者とされています。このAndesの副社長とも、随分と議論を重ねました。脱NVIDIAの動向や、日本の半導体政策に対する厳しい指摘も受けたので、このあたりも説明していきたいと思います。

その後、新竹サイエンスパークにも行きました。最初、私は読み方がわからず「シンタケ」と呼んでしまいましたが、正しくは「シンチク」です。この新竹サイエンスパークの管理局の局長とも話をしてきました。なぜ台湾が日本よりも強いのか、なぜ台湾の半導体産業が強いのかという秘密を解き明かすためには、このサイエンスパークの存在が非常に重要です。TSMCの本社もこの新竹サイエンスパークの中にあります。

次に台湾日本研究院の理事長である李先生です。彼はサイバーセキュリティや安全保障の専門家であり、台湾海峡やセキュリティ問題、大陸との関係についても密な意見交換が行われました。ただ、今日は主に半導体産業についてお伝えするため、李先生の話にはあまり触れません。

その後、台湾経済部、つまり台湾政府の経済産業省にあたる場所で、何政務次長(副大臣に相当)と1時間近くにわたって会談を行いました。台湾の産業政策や半導体政策、さらに人材の確保に関する厳しい現状について、あるいは日本とどのように協力していくのかについて、かなり深く議論しました。この点についてもご報告したいと思います。

また、皆さんが期待しているTSMCについてですが、元副総経理(元副社長に相当)であるボブ・チェンさんと会食も交えながら、3時間弱にわたってさまざまな話をしました。TSMCの秘密や、日本に対してどのような期待を持っているのか、熊本で展開しているJASMに関する話など、言える範囲で皆さんにご報告していきたいと思います。

この時、一緒に同席したのは林宏文さんです。彼は「TSMCの世界を動かす秘密」について書いた有名な本の著者であり、ジャーナリストでもあります。林さんやTSMCの元副社長ともに、現在、彼はTSMCグループの同窓会のような組織の理事長も務めており、非常にディープな議論ができたのではないかと思います。

さらに、日本台湾交流協会、台湾における日本の大使館にあたる機関とも少し議論をしました。残念ながら、台湾と日本は正式には国交がないため、大使館を設置できない状況ですが、その代わりとして日本台湾交流協会が存在しています。

ということで、今日は大きく2つの話があります。1つ目は、台湾の自動化が日本よりも極めて優れているという点です。この自動化技術が、実は台湾の半導体産業を非常に強くしている理由でもあります。また、今後、ものづくりや製造業がAIを活用する際に、どちらの国がより効果を発揮できるかという点でも、自動化技術が非常に重要です。この点について、最初にお伝えします。

もう1つは、TSMCをはじめとした半導体産業の実態です。なぜ台湾の半導体産業が強いのか、そして日本は同じように半導体分野で台湾に追いつけないのかという点が明らかになりました。これは保存版として、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。

台湾視察の5つの目的

(山田さん)
さて、改めて今回の視察の目的についてですが、5つの目的を持って台湾を訪問しました。

(山田さん)
1つ目は、先ほど申し上げたCIMFORCEさんの視察です。実はこれは経済ミッションのような形で、日本の大手自動車部品メーカーや自動車メーカーと一緒に訪問し、CIMFORCEさんが展開している自動化技術を学ぶためでした。CIMFORCEはFoxconnからスピンアウトした会社であり、ファブ(半導体製造工場)の分野でも力を持っている企業です。彼らがシステム化を進めている現場を、つぶさに見させていただきました。

2つ目は、サイバーセキュリティです。日本でもサイバーセキュリティの取り組みは行われていますが、台湾のサイバーセキュリティはやはり全然違います。この辺りの台湾政府の対応についても学んできました。

3つ目は、台湾が物づくりにおいてAI技術をどのように活用しようとしているのか、という点です。

4つ目は、皆さんが期待している半導体先進国としての台湾における産業政策や、民間の取り組みです。特に半導体分野での取り組みについて深く学びました。

5つ目は、人材不足の問題です。この問題に対して台湾がどのように対応しようとしているのかを、しっかりと視察してきました。

まず1つ目のCIMFORCEという話が出ましたが、この自動化技術について、最初にCIMFORCEのシステムを使っているEA-SUNという会社の工場で、試作ラインを見学しました。これを見ながら、自動化とは何なのか、そして台湾の基盤となる強みについて考えていきたいと思っています。

ところで、小寺さんはこういった工場や現場に興味がありますか?

(小寺さん)
ほとんど見たことがないので、山田さんの解説を楽しみにしています。私は台湾には行っていないので、今日は山田さんに教えてもらう立場です。

台湾の自動化技術

(山田さん)
今回見たのは、試作のラインで、実際の工場の機密があるため、写真などは撮れませんでした。しかし、このEA-SUNという工場で行われている試作を通じて、台湾が実現している自動化技術についてしっかり説明していきたいと思います。

(山田さん)
左側が全体の写真、そして右上にあるのが全てを制御するソフト端末です。この端末がすごくて、全てをコントロールしている、この機械については、後ほどもう少し詳しく説明していきます。

まず、自動化とは何なのかという点ですが、このラインの仕組みについて説明します。ここでは、放電加工や物理的な切削、例えば金型を作るための自動化ラインが実現されています。簡単に言うと、ワーク(被削材)と呼ばれる鉄の塊があり、それをさまざまな方法で削っていくのですが、鉄の特性に応じて適切な刃で削ります。

この刃は後で詳しく説明しますが、たくさん並んでいます。放電加工とは、レーザーの力を使って電気的に処理し、削っていく仕組みです。この2つの方法が並行して行われています。

(山田さん)
ポイントは、削るだけでなく、左側にある検査装置で、削ったものが許容範囲内の基準に達しているかどうかをチェックすることです。つまり、鉄の塊を置いて、それが運ばれて削られる工程があり、ロボットが刃を持ってきて削ります。削り終わったものは検査装置に持っていかれ、センサーで測定され、基準を満たしているかどうかを確認します。合格であれば、それが金型となり、その中にプラスチックなどを流し込んで製品を作るという流れです。

この全自動ラインは、鉄の塊や削るためのドリルのようなものを自動で付け替え、削ったものを検査装置に持っていく搬送ロボットを使用しています。

(山田さん)
特に放電加工の場合、削る刃の先端にあたる部分が並べられ、金属を検知しながら自動で付け替えが行われます。この付け替えは、金属の特性だけでなく、削りすぎて刃が使えなくなった時点で自動的に取り替えるという仕組みもあります。

(山田さん)
日本では、ワークの場所が別々だったり、アラームが出た後に人が止めて刃を取り替えるなどの作業が必要ですが、台湾ではこれが完全に自動化されています。このような自動化技術は、現在の日本ではまだ実現できていません。

日本が自動化出来ない理由

(山田さん)
日本も自動化をやりたいと思っているのですが、なかなか実現できていません。なぜできないのかというと、実は単純な理由があります。まず、現場が強すぎることや、現場に納める機械のメーカーがそれぞれ強力な存在であることです。例えば、三菱電機やオムロンなど、さまざまな会社がありますが、これらが縦割りで非常に強いのです。それぞれの会社が「うちが素晴らしい」と売り込んでいますが、全体の工程をデザインしている会社が存在せず、現場のユーザーが機械を繋ぎ合わせるというのが現実です。

そのため、事実上、途中で切れていて、搬送機のようなものに繋がっていることはありますが、データで全てが繋がり、自動的に流れるという形にはなっていません。

つまり台湾の強さはまさに「水平統合」にあります。どこのメーカーの機械であっても、強力なシステムインテグレーションの会社が全てをマネジメントし、CIMFORCEという会社がその役割を果たしているのです。実際に使われている機械は、日本の三菱製や台湾製、ドイツ製、スイス製などさまざまですが、それらを全てインテグレーションし、1つのシステムで動かしています。そして、24時間365日止めることなく稼働させているのが、台湾の強さです。

これが何が素晴らしいかというと、生産性が非常に高くなることです。同時に、私が感じたのは、台湾がさらに成長するならば、AI分野で大きく伸びるだろうということです。

今、AIを物づくりや製造業の現場で活用しようという動きがあり、各ベンダーやコンサルティング会社がさまざまな提案をしていますが、現状ではまだ、議事録を自動で作ったり、翻訳ツールを使ったりと、便利ツールとしての活用が中心です。下手をすると、検索ツールとあまり変わらない使い方をしているのが現実です。

もし物づくりの現場でAIを本格的に活用するのであれば、例えば、下流で不具合が起こる原因を上流の設計で改善する、削り方を変えるといったフィードバックが重要です。全てのデータをつないで、上流の設計や加工プロセスをどう組むべきかを瞬時に判断できるようにし、24時間365日稼働させることができる。それが、本当の意味での物づくりにおけるAIの活用です。

じゃあ、なぜ日本ができないのかというと、これがぶつ切りになっているからです。私は日本のメーカーのAI活用について今でも相談を受けていますが、設計は設計だけで一生懸命やっています。とにかく、設計のノウハウが次の世代に継承されないと困るからと、これまで作ってきた設計のノウハウを大型のLLMに一気に投入して、「これが我が社の設計ノウハウだ」と半年くらいかけて一生懸命作っていたりします。

検査工程は検査工程で、「こういう不具合が起こった」「こういう品質上の問題があった」といったデータを入れています。しかし、それは上流と下流が繋がっているわけではありません。統計的に「こういうことが起こりやすいから、こうなんじゃないか」と対応しているだけで、全てのデータが繋がっていれば、上流から下流、下流から上流へフィードバックしたり、前もって対応したりできるのです。この可能性は、ここまで自動化が高度に進んでいる台湾だからこそ実現できているのです。

もう1つ、なぜ台湾が自動化を実現できたかというと、水平統合せざるを得ない事情があったからです。台湾は人口が約2,000万人で、産業全体が小規模です。元々工作機械産業も現在のように強くありませんでしたが、台湾は日本のように産業の基盤が広く揃っている国ではないため、海外にも頼りながら、最初から全てをコラボレーションで繋いでいく必要がありました。

一方で、日本は系列という縦割りの垂直統合で「ここはこれで全て揃えます」「全部うちでやります」とやってきましたが、実際には他と繋がっていないことが多いのです。さらに、日本の工場は買収によって大きくなってきたため、最初から繋がらないケースが多くあります。まさに垂直統合か水平統合か、この違いが台湾と日本の力の差を生み出している理由の一つです。

ここまでで、どうでしょうか?

(小寺さん)
確かにそれは面白いですね。ただ素人からすると「自動化した方が生産性が高いのは当たり前だよな」と思いつつ、日本の現場で自動化や水平化を進めようという声や動きはどうなんでしょうか?

(山田さん)
あるにはありますが、日本では生産技術と言われる、設計したものを量産に持っていくための生産準備や生産技術の地位が低いのが現状です。どちらかというと、設計が王様だったり、工場が製造しているから工場が王様だったりします。役員の構成を見ても、生産準備の人が役員になるのは珍しいです。

私自身、この分野のプロとしてずっとやってきましたが、設計通りのものを作るのは簡単ではありません。設計者は下流のことをあまり理解していないことが多いです。そのため、現場では文句を言いながらも、設計を微調整するのが現実です。このようなつなぎの部分を担当しているのが生産準備です。

購買の準備に関しても、一度流れ始めれば現場の人たちが調整しますが、どこから材料を買うかは立ち上げ時に決めています。しかし、現場が工程に対して提案ができるかというと、多くの場合、長年同じメーカーに丸投げしているのが現実です。日本の場合は、こういう現場の状況があるのです。

一方、台湾は1980年代以降に工場としての展開を始めました。それまでは、ある意味で農業国家でした。70年代後半から80年代にかけての後発組です。そのため、先進的な工程を見ながら、自分たちだけではすべてを賄えないことを理解して、水平統合を戦略として採用しました。これが台湾の強みです。

これから話が半導体産業に移りますが、TSMCのようなファブレス(製造専門)企業は、物を作る部分だけに特化し、設計は他社に任せるという役割分担が自然にできたのです。台湾は、そうしなければ生き残れなかったという背景もあるのだと思います。

さて、これから半導体に関して、台湾の各視察先を含めて説明していきたいと思います。まず、そもそも「半導体とは何か?」という方も多いと思いますので、まずは簡単に「半導体教室」を少しやってから進めていきたいと思います。

半導体について

(山田さん)
半導体にはいくつか種類があり、半導体というのは非常に幅広い分野です。例えば、集積回路の中でもロジックと言われる部分は、CPUや並列処理を行い、特にグラフィックをコントロールするGPUなどがあります。また、メモリーとしては、データを一時的に蓄えるDRAMやNANDメモリーがあります。さらに、CMOSセンサーは画像処理に使われ、ソニーなどが強い分野です。デジカメのカメラで画像をデジタルデータに変換する技術です。

他にも、電力を効率的に変換するパワー半導体、ダイオードやトランジスターなど、さまざまな半導体があります。これらを総称して「半導体」と呼んでいます。

(山田さん)
半導体の役割を人間の機能に例えると、ロジック半導体は脳の役割を果たし、分析を行います。一方、メモリーは記憶の役割を担います。日本はかつてDRAMの分野で非常に大きなシェアを占めていましたが、1980年代後半の日米半導体摩擦以降、次第にダメになっていきました。今日はその話よりも、台湾がなぜ強いのかにフォーカスしたいので、ここでは詳しく触れません。

他にも、CMOSセンサーは「目」に相当し、カメラの役割を果たします。パワー半導体は筋肉のように力を増強します。そしてアナログ半導体は、数値を計測したりする「感覚」の役割を果たします。このように、用途によって半導体はさまざまな役割を持っています。

大きく分けると、ロジック、メモリー、その他の半導体に分かれますが、もう1つ注目すべき点は、ロジック半導体の「ファブレス」と「ファウンドリー」という区分です。

ファブレスとは、設計だけを行い、製造は他社に委託する企業のことを指します。例えば、スマホに使う半導体の回路を設計しますが、実際に作るのは別の会社です。一方、ファウンドリーとは、製造だけを担当する企業で、台湾のTSMCはこの分野で非常に強いです。TSMCは、さまざまな企業から設計を受け取り、製造を専門に行います。

一方、インテルはアメリカの半導体の巨人で、設計から製造まで垂直統合で行ってきましたが、この構図は変わりつつあります。現在では、TSMCを中心とした台湾が半導体産業をリードしており、これが今日のテーマとなります。

(山田さん)
繰り返しになりますが、半導体産業には「垂直統合」と「水平分業」という形態があります。設計だけを行うのがファブレスであり、さまざまなファブレス企業から受注して製造を行うのがファウンドリーです。今日の主役であるTSMCは、まさにファウンドリーを中心とした会社です。

後でAndes社や他の台湾のファブレス企業にも触れますが、それぞれの企業がどの領域で強いのか、どこを強化しようとしているのか、そしてその戦略についてこれから説明していきます。

世界の半導体メーカー

(山田さん)
具体的に、どのような力関係になっているのかについて、ここ数年の変化を見ていきたいと思います。まず、2021年下期の売上ランキングを見ていただきたいのですが、やはりサムスンは非常に強いです。韓国のサムスンは家電から半導体まで、設計から製造まで一貫して行っており、中国市場の需要を背景に、強力なプレイヤーとなっています。

そして、アメリカのインテルも依然として強い存在です。さらに、TSMCが台湾の代表企業としてその地位を確立しています。特徴的なのは、赤いバーが示すファウンドリー企業で、青いバーが示すのは、例えばクアルコムやNVIDIAのような設計だけを行うファブレス企業です。今日はNVIDIAについても少し触れていきたいと思いますが、NVIDIAは現在、時価総額で世界一となっています。この企業は設計専門の企業です。

台湾には、他にもメディアテックという設計専門の企業があります。半導体産業は、このように設計と製造の企業が混ざり合いながら成り立っているのです。

(山田さん)
最近、2023年の半導体売上ランキングトップ25が発表されました。ここでは、なんとTSMCが1位となり、その次がインテル、サムスン、NVIDIA、そしてクアルコムが続いています。TSMCは、ファウンドリーとして世界をリードしており、その売上シェアは圧倒的です。

ファウンドリー企業で2番目にランクインしたのはアメリカのグローバルファウンドリーズですが、設計専門の企業では、王者NVIDIAがランクインしています。次にクアルコムが続きます。

台湾では、TSMCが1位として君臨しており、その次がメディアテックです。実は、メディアテックはTSMCの兄弟会社で、UMCから分離した企業です。UMCは老舗の企業で、TSMCの1/10強の規模と言われていますが、戦略が異なるため、両社はしっかりと切り分けられています。

(山田さん)
ファウンドリーに限ると、TSMCは圧倒的で、シェアは61%に達します。UMCも6%のシェアを持ち、これを合わせると台湾のファウンドリー企業が68%、つまり7割を占めています。最終的には、半導体の製造のほとんどが台湾の企業によって行われていると言っても過言ではありません。

次に、サムスンについてですが、全体的に設計なども含めたさまざまな事業を展開しているため、それなりに売上規模は大きいです。しかし、ファウンドリー分野に限って言うと、シェアは14%です。中国はSMICが代表的な企業ですが、全体ではわずか5%程度のシェアしか持っていません。

これを見ても、やはり台湾、特にTSMCが半導体の王者であることは間違いないと思いますが、半導体における台湾の強さについて、小寺さんはここまでどう感じましたか?

(小寺さん)
そうですね。やはりファウンドリーの強さが台湾の強さだということは、世界的にも認識されていると思います。分業化が進む中で、そこを抑えたことが台湾の強みだと感じます。ただ、なぜアメリカや日本がその地位を取れずに、台湾がここまでのシェアを取れるようになったのか、その点については、これからの説明に期待しています。

(山田さん)
そうですね。答えを1つだけ言うと、微細な小さなものを作る能力が鍵です。ナノメートル単位という技術、後で詳しく説明しますが、これが非常に重要です。小さく作ることによって、効率が良くなり、スピードが上がり、消費電力も少なくて済みます。

現在、半導体は電力を大量に消費し、CO2の排出とも関連があるため、いろいろと問題視されています。これからAIの普及に伴って、データセンターが膨大に増えていくことになります。そのため、ますます半導体の性能が重要になります。

そのためには、できるだけ小さく作る技術が必要でが、世界で1位の小型化技術を持っているのが、まさに台湾であり、TSMCです。なぜ台湾がこの技術を実現できたのか、しかも短期間で成し遂げたのか。そして、なぜ老舗である日本がこの技術を実現できなかったのか。この点についても、これから説明していきます。

TSMCについて

(山田さん)
さて、ここからは「TSMCがなぜ強いのか」について、少し詳しく説明していきます。視察の成果でもありますので、TSMCの元副社長であるボブ・チェンさんから伺った話や、同席していた林さんとのやり取りも交えてご説明します。

(山田さん)
TSMCは、1987年にモリス・チャンという人物によって設立された、比較的後発の会社です。モリス・チャンは、TI(テキサス・インスツルメンツ)という、今でも存在するアメリカの老舗半導体会社に勤めていましたが、台湾に戻り、ITRI(工業技術研究院)の所長に就任しました。そこからスピンアウトして、1987年にTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)を設立しました。

起業時の彼の年齢は55歳ほどで、非常に驚きですよね。まさに、私の年齢くらいからスタートしたということです。

TSMCは、さまざまな企業からの依頼を受けて半導体を製造する、受注生産モデルを中心に展開しています。本社は台湾にありますが、世界的に事業を展開、最近では、日本の熊本にソニーと共同でJASMという工場を設立し、事業を進めています。

TSMCは、12インチ換算ウェハーで年間1,200万枚以上の生産を行っています。TSMCの最大の顧客は誰かと言うとAppleです。TSMCの収益の25%はApple向けであり、Appleのために半導体を製造しています。また、Apple周辺の技術も関連しています。例えば、ソニーのCMOSセンサーも、ほとんどがAppleに納められています。Apple向けのCMOSをソニーと一緒に作るのが、JASMの一例です。

このように考えると、TSMCが製造する半導体の約半分がAppleに納められていると言われています。つまり、TSMCにとってAppleは非常に重要な顧客であり、Appleのスマートフォンの中に組み込まれる、微細な5ナノメートルの半導体を製造できるのは、現在のところTSMCしかありません。

半導体産業の成り立ちについても触れておきます。ITRIについて言及した際に、蔣経国氏(蔣介石の長男)が行政院長、つまり首相に当たる時期に改革が行われ、その延長線上でITRIという研究所が設立され、TSMCはITRIからスピンアウトする形で生まれました。

繰り返しになりますが、モリス・チャンは1985年にテキサスインスツルメンツで半導体技術を学び、台湾に戻ってITRIの所長に就任しました。そして、2年後の1987年にTSMCを設立したのです。しかし、設立当初は順調だったわけではなく、技術もどこから持ってきたのかという話があります。

1つはもちろん、モリス・チャン自身がテキサスインスツルメンツで経験を積んだ実績があったという点です。しかし、最初のお客さんはRCAとフィリップスでした。アメリカのRCAは、真空管などの技術を含む半導体技術のベースを作り続けていました。RCA端子という名称もありますが、これは3色の端子でよく知られています。RCAは現在では分割されていますが、当時は技術供与を行っていました。

さらに、フィリップスと緊密な関係を築いたことも大きかったとされています。モリス・チャンが最初に頼ったのはフィリップスであり、TSMCを設立する際の株式の比率は、半分近くが台湾政府、27%がフィリップス、残りの24%がその他でした。フィリップスは相当な支援を行いました。

これは秘話ですが、最初はフィリップスの他の役員たちは反対していました。「台湾のよく分からない会社に投資し、半導体製造を任せるなんてとんでもない」と。しかし、当時のフィリップスの社長が「モリス・チャン率いるTSMCに任せてみよう」と決断したのです。これが決定的な一歩でした。フィリップスからの技術移転が行われ、さらに台湾政府の全面的な支援も受け、台湾は半導体産業に一点集中する産業政策を打ち出しました。

この戦略が始まった時、白羽の矢が立ったのはモリス・チャンとフィリップス、さらにRCAの存在も大きかったのです。モリス・チャンは、テキサスインスツルメンツ出身であったことも幸運でした。さまざまな偶然や経緯が重なり、1987年にTSMCは後発組としてスタートを切りましたが、ここまででどうですか?

(小寺さん)
いや、今の秘話は全然知らなかったです。

(山田さん)
ほとんど知られていない話です。これらは、創業当時から一緒にやってきた副社長や、当時の出来事を取材してきた林さんから直接聞いた話です。

(山田さん)
まず、TSMCがどこにフォーカスして成功したかというと、ファウンドリーという分野です。元々、UMCという兄弟企業が先にファウンドリー事業をスタートしましたが、TSMCも1987年にITRIからスピンアウトし、同じくファウンドリーに取り組んで、フィリップスなどの下請けとしてスタートし、そこから技術を磨いていきました。

その後、AppleやNVIDIA、AMDといった大口顧客を獲得し、仕事をどんどん強化していきました。当初、AppleもTSMCに対して懐疑的で、サムスンに任せるかTSMCに任せるかを悩んでいたようです。しかし、A10チップ以降はすべてTSMCに任せることになり、A9では半分ずつ製造していたようですが、A10からは完全にTSMCが製造を担当することになりました。

次に、TSMCの自主開発についてです。1987年に設立された後発の企業であるTSMCは、2000年には0.13マイクロメートルの銅配線プロセス技術の開発に成功しました。半導体はN型とP型の間に半導体部分があり、その配線の間隔が重要です。1マイクロメートルは1/1000ミリ、1ナノメートルは1/100万ミリですが、このような小さな単位で作る技術が求められます。この銅配線プロセス技術の開発は非常に重要でした。

もう1つの決定的な要素は、IBMに頼らなかったことです。当初、IBMはUMCや他の企業と共同開発をしていましたが、TSMCは独自の開発を決断しました。これにより、自社の特許を自由に活用し、技術を独立して成長させることができました。

少し脱線しますが、IBMと協力しなかったことで成功したのはTSMCだけでなく、ERP(企業資源計画)の王者SAPも同じ道を辿りました。大手に頼らず独自にやることは成功率が低いかもしれませんが、コア技術を独自で持つことが成長の鍵となります。TSMCも、顧客からの受注をしっかり受けつつ、コア技術に関しては独自に開発するという戦略を取ったことが、成功の要因の1つです。

もう1つ、夜鷹部隊という、とにかく働く部隊がありました。いわゆる「働き方改革」というのが日本でも話題になっていますし、台湾でも同様です。しかし、この当時は特に研究開発を24時間3交代制で行い、10ナノメートルプロセスを実現するために奮闘していました。台湾人の働き方は、日本と似ているところがありますが、ボブ・チェン氏も「これは台湾人の特徴だ」と言っています。

この努力によってスピードを高め、2014年から2015年にかけてTSMCは10ナノメートルプロセスを成功させました。当時、サムスンが14ナノメートル、インテルが10ナノメートルと言われていたので、TSMCはほぼ横並びの状態まで追いついたことになります。

これが大きな成功となり、その後も徹底的に設計開発に取り組みました。決定的だったのは、iPhone 6sシリーズのA9チップの受注です。当初は半分のシェアを獲得しましたが、サムスンとの競争に勝ち、2016年のA10チップでは全量を受注することに成功しました。これがTSMCにとって決定的な転機となりました。

TSMCはなぜ強いのか

2022年にはサムスンが3ナノメートルの量産を発表しましたが、TSMCはすでに強固な地位を築いていました。台湾では、徹底したストックオプション制度や高い給与を提供しており、これが人材を引きつける大きな要因となっています。今日のテーマの1つでもある「なぜ日本ができないのか」について、結論を言うと、設計開発者に対して十分な報酬を支払うかどうかが重要です。

台湾では、半導体産業に関われば高給が得られるため、優秀な人材が台湾に集まってきます。東欧のチェコなどからも人材が集まり、世界中から優秀な人材が台湾に集結しています。

一方、日本では、経産省との話し合いでは多くの補助金が提供されていますが、これらは設備投資に使われるもので、直接給与に使うことはできません。給料は、出てきた売上から支払われるべきだという考え方です。しかし、アメリカ系の考え方では、人に対して最初から投資を行い、まだ成果が出ていない段階でも大きな資金を投じて才能を集めます。これが好循環を生み出し、付加価値の高い製品やサービスを生み出すサイクルが出来上がるのです。

このあたりが、まさに「なぜ日本でできないのか」という点に関わってきます。日本は全体的にボトムアップがあり、GDPも高かったため、1960年代から70年代には世界の中で比較的給料が高い部類に入っていました。インフレ率が毎年6%から7%で推移していたので、今の日本とは逆ですよね。アメリカでは毎年給料が上がっている一方で、日本では実質賃金がマイナスになるという逆転現象が起こり、物価だけが上がり、給料が追いつかないという状況でした。こういった現象が、アメリカと日本の間で逆に起こっていたわけです。

ここまで見て、まず第一の秘密は「給料にある」という点についてどう思いますか?

(小寺さん)
確かに、欧米の人と話すと、働く目的は何かと聞かれたら『給料だよ』と即答します。中国人も、韓国人も、インド人も、同じように1番の理由として給料を挙げると思います。しかし、日本では『過労死』という言葉があるように、給料以外のやりがいや、目に見えない価値に重きを置いて働く人が多いです。経産省の話でもありましたが、この分野だけ給料を上げると、他との格差ができるため、政府としてはそれができないというスタンスですよね。台湾の政府が一点集中で特定の産業に投資するという判断をしたことが、強みになったわけです。日本の弱いところが、改めて浮き彫りになったと思います。

(山田さん)
成長する過程で、これも秘話ですが、TSMC周辺では50億円以上の資産を持つ人が1,000人以上いると言われています。これを見たら、「技術者になってみよう」「TSMCで働いてみよう」と夢を感じるわけです。しかし、日本では、給料は出さないけれど設備にはお金をかけるという状況が続いています。つまり、目に見えるものにはお金を出すけれど、インタンジブル(無形)のものには価値を感じない。特に、人材についてはできるだけ安いほうがいいという考え方が根強くあります。

このような考え方の差が、日本では優秀な人材を確保できず、技術者がやめてしまう原因になっています。気がつけば、日本の技術者の給料が世界で最も安いという状況になってしまった。こういうことだと思います。

熊本工場(JASM)について

(山田さん)
さて、次に熊本のJASMについてです。これはソニーとデンソーが共同で設立した熊本の工場ですが、ボブ・チェン氏ともこの件について議論しました。はっきり言うと、TSMC側からすれば、ソニーを支えることは結果的にAppleを支えることになり、まさにApple戦略の一環だということです。非常に分かりやすいですね。

ただ、これはボブ・チェン氏が直接言ったわけではありませんが、半導体製造には前工程と後工程があり、JSAMでは後工程が欠けているのです。前工程でチップを作り、そのチップをパッケージングして使えるようにする後工程、いわゆるボンディングと呼ばれる部分が欠けています。そのため、JASMが熊本に誘致されたことによる技術移転やプラス効果がどれほどあるのかは疑問が残ります。

さらに、人材の確保についても問題があります。JASMの給料は、新卒で他社よりも5万円ほど高いと言われていますが、実際には台湾本国の研究者よりも25%以上安いです。台湾の本社に比べて25%から30%安いというのが現実です。

さらに衝撃的な数字があります。2023年の速報値によると、日本と台湾、アメリカの1人当たりGDPを比べると、日本は33,800USドル、台湾は32,400USドルで、ほぼ追いつかれている状況です。実際には来年、台湾が日本を抜くと言われています。これは農業従事者やその他の人々を含めた全体の数字で、働いていない人も含めて計算された1人当たりのGDPです。アメリカは81,600ドルで、日本の約2.5倍です。

こんな状況下で日本が人材を集めようとしても、正直言って非常に難しいのが現実です。1人当たりのGDPは非常に重要な指標です。中国は人口が多いのでGDPは世界第2位ですが、中国では技術者に対して莫大な報酬を支払う「格差容認主義」が存在します。アメリカも同様に格差を容認していますが、それでも全体で8万ドルを超えるGDPを持っています。

このような中で、日本が経済を底上げせずに勝てるかというと、厳しいと言わざるを得ません。結局、給料戦略が重要になるのだと思います。

TSMCが発展した理由の1つとして、政府の強力な資金援助やモリス・チャンのリーダーシップが挙げられます。さらに、顧客対応も徹底しています。電話1本で、夜中でもすぐに対応してくれるという信頼感、安心感が品質に繋がっており、それがTSMCを選ぶ理由になっています。

しかし、それだけではありません。実はあまり知られていない3つの技術的な強さもあります。1つ目は「プロセスデザインキット(PDK)」です。これはTSMCが公開している製品の仕様で、自分たちが「この金額でこうやって作ります」という内容を全て公開しています。これにより、真似される心配や原価がバレるリスクがあるのではと思われるかもしれませんが、TSMCは「やれるものならやってみなさい」というスタンスです。

PDKに基づいて仕様がすり合わせられ、仕様が少しでもずれた場合には特別料金が発生する仕組みになっています。これにより、標準化された製品を大量に生産し、1個あたりの生産性を高め、価格競争力を持ちつつ、利益を増やすことができるのです。このPDKの公開は、TSMCの強みの1つです。

一方で、日本ではコンフィギュレーターやコンフィギュレーションと呼ばれる仕組みをWeb上で展開し、仕様を選んでもらうという取り組みが始まっていますが、正直言ってまだ十分ではありません。さらに、日本の見積もり能力が弱いという問題もあります。日本では後から仕様が決まり、その結果としてコストが増加するケースが多く、メーカー側がその負担を負うことになります。これが、最終的にコスト増につながってしまうのです。

2つ目の技術力としては、クリーン技術が挙げられます。日本では、半導体製造において中と外の区別が徹底されており、ナノ単位の世界での争いが行われています。例えば、女性のお化粧の粉よりも小さいサイズのものを作っています。配線のナノ単位での間隔に浮遊物が入ると大変なことになるため、「イレブン9」と言われる、99.999999999%のクリーンな環境が必要です。

しかし、このクリーンルームを維持するために膨大な電力が必要で、半導体製造で消費される電力の44%はクリーンルームによるものと言われています。これをカセット型にして、人が完全に入らないようにする「極小クリーンルーム技術」が導入されれば、効率的に成り立つのではないかと考えられています。

後ほど紹介するUMCを訪れた際、モニターで見せてもらいましたが、半導体製造は自動化が進んでおり、人間があまり入らないようになっています。ただし、何かトラブルがあって生産が止まると、人間が点検などを行う必要があるため、ここでも自動化技術が求められます。TSMCの極小クリーンルーム技術は非常に優れており、これにより歩留まりが低く、新製品の立ち上げにも強い対応力を持っています。

さらに、最近では「チップレット技術」と呼ばれる技術も発展しています。これは、シリコンチップを細かく切り、積み重ねて1つのチップを作る技術です。TSMCは大量生産できるからこそ、この技術が活用できるのです。SOC(システムオンチップ)やチップオンチップが実現できるのも、量産による効果があるからです。

一方、日本では、プロセスデザインキットが全く進んでいません。日本は、膨大なコストをかけてクリーンルームを作り、電力を大量に消費し、チップレット技術にも取り組んでいますが、受注できる量が少ないため、うまく機能していません。この点については、ラピダス戦略で見直す必要がありますが、これについては別の回で触れたいと思います。

UMCについて

(山田さん)
次に、UMCについて説明します。UMC(United Microelectronics Corporation)は、TSMCのお兄さん格にあたる企業です。1980年にTSMCと同じくITRIから分離独立し、同じくファウンドリー事業を行っていますが、売上ではTSMCの約10分の1です。

(山田さん)
UMCは、多品種の中量産に対応している企業で、TSMCがAppleに集中し、大量生産効果を出しているのに対し、UMCは中量産でさまざまなバリエーションに対応しています。このように、TSMCとUMCは市場を分けており、UMCは「TSMCが狙っていない市場を狙う」という戦略を取っています。

もう1つ、技術の宝庫と言われているのが「聯」という字がつく企業群です。台湾には「聯」という字がついた企業が多く存在しています。例えば、メディアテックは設計を中心に行うファブレス企業ですが、元々はUMCから分離独立した会社です。このように「聯」という名前がつく企業は、兄弟関係や親子関係にあることが多いです。

一時期、設計を行う「聯」がつく会社とUMCが一緒になって垂直統合を実現しようとしましたが、うまくいきませんでした。結果として、UMCもTSMCと同じくファウンドリーの道を歩むことになりました。

面白いのは、UMCがインテルと共同事業を行っている点です。例えば、インテルの顧客がいなくなった場合、12インチプロセスでの膨大な設備投資が無駄になる可能性があります。その際インテルのプロセスを借りて、UMCが共同で製品を作るという方法が取られることがあります。また、日本ではデンソーと一緒にパワー半導体の分野で共同事業を行っています。

TSMCは主に先端ロジックやスマートフォン向けの小型チップにフォーカスしていますが、UMCは幅広い技術分野でさまざまな企業と連携し、異なる戦略を取っています。この点で、TSMCとは明確に差別化されています。

(山田さん)
ただし、UMCも人材不足に直面しています。台湾全体で人材の争奪戦が繰り広げられており、UMCは台湾政府と協力して「半導体学院」を設立し、人材を集めるための取り組みを行っています。台湾中に展開されている大学や研究機関と協力しながら、半導体産業に人材を集める努力を続けています。

UMCとTSMCを比較すると、UMCには確かに独自の強みがあります。UMCの関係者からは「確かに今はTSMCが大きいかもしれないが、我々が兄さんだ」という気合を感じました。

Andes Technology Corporationについて

(山田さん)
Andes Technologyは、後発組として2005年に設立されたアジア初のCPU IPベンダーです。こちらもITRIから分離独立しており、CPU IPベンダーとして設計を専門とするファブレス企業です。

(山田さん)
例えば、AMDやNVIDIAと競争関係にありますが、特徴的なのは「オープン戦略」を掲げている点です。Andes Technologyは、RISC-Vというオープンな技術をベースにして製品を開発しています。

一方、AMDはクローズな形で技術を管理しており、AMD対RISC-Vグループという形でよく比較されます。NVIDIAはGPUを中心に展開していますが、NVIDIAのクーダがRISC-Vに対応するかどうかが常に議論となっています。NVIDIAは囲い込み戦略を取っているとも言われています。

私は来週以降、アメリカに行ってNVIDIAの本社に直接訪問し、今後の戦略について聞いてくる予定です。また、その際にお伝えしたいと思います。

いずれにしても、設計サイドの戦略としては、すべてがNVIDIA対策になっています。現在、世界のGPU市場の8割はNVIDIAが占めています。データセンターの構築においても、AIの前提としてNVIDIAの半導体に依存しています。しかし、NVIDIAからの脱却を図るため、Andes Technologyや最近ではサンバ・ノバなどの新しい半導体設計企業が登場し、競争が激化しています。

一方で、GoogleやMicrosoftは独自のAIアクセラレーターを開発し始めており、AppleもM2やM3など独自のチップを開発しています。Meta(旧Facebook)は、Andes Technologyと協調し、Meta社の技術開発をサポートをしています。現在、NVIDIAが一強とされていますが、高価格でオーバースペックと言われる中で、台湾のITRIからスピンアウトした企業群が挑戦を続けています。

Andes Technologyは、RISC-Vの開発に携わったメンバーの1つであり、SOCのコアとしてRISC-Vが注目されています。実際にAndes Technologyの副社長とも話をしてきましたが、やはり人材の確保が最大の課題だと言っていました。

最近、Googleやクアルコム、NVIDIAもハイテクパークに誘致されており、これは人材交流という意味で海外の技術を手に入れるためには重要なことです。しかし、実際にはその場所で人材を奪われてしまうケースもあり、それに対して遺憾の意を示す声もありました。

その一方で、Andes社は「我々は何が違うのか」を積極的に主張しながら、人材確保に力を入れています。技術も重要ですが、最終的には「どうやって優秀な人材を確保するか」が成功の鍵であると明言していました。

日本についても、日本企業と提携を進めようとしているものの、日本は良い製品を持っていても、適応力が遅く、リスクを取らないため、結果として意思決定のスピードが遅れてしまうと指摘されていました。シリコンサイクルが7年ごとに変わると言われていますが、現在ではAIの進化に伴い、毎年どころか半年ごとに技術の変化が起きています。

このような中で技術を展開していくためには、日本の遅れた対応が課題であるという現実を痛感しました。

今日のまとめ

(山田さん)
TSMCやUMCを生み出した重要な研究所であるITRIの歴史についてもお伝えしたかったのですが、今回はここまでとし、次回に詳しく触れることにします。もし小寺さんから質問やご意見があれば、ぜひお聞かせください。

(小寺さん)
モリス・チャンさんのTSMCの強みについての話を聞いて、日本にはないものだと感じました。TSMCが発展した理由として、国際的な強力な協力関係があったことが非常に重要だと感じました。台湾は人口が2,000万人しかいないため、最初から世界を見据えて、アメリカに向けたファウンドリー戦略を取っていた点が優れていたと思います。

モリス・チャン氏も、学部はハーバード、修士はMITで博士号を取得し、アメリカの良いところを全て学んで台湾に戻ってきました。しかし、今の日本では、博士号を取得しても給料が低く、優秀な人材が帰ってこない現状があります。高度な技術を学んだ人材が、そのままアメリカやイギリスに移住してしまうのは非常にまずい状況です。

このように、技術を学んで帰国することで、国に利益をもたらす人材となり得るのだと感じました。高度な人材をどう確保するかが鍵だという話がありましたが、日本も戦略的に考えなければ復活は難しいのではないかと思います。次回以降、山田さんの視点で日本がどうなるかについても伺いたいです。

(山田さん)
ITRIが台湾を最初に引っ張っていったわけですが、人口2,000万人の台湾だけでは全てを賄うことができない。そのため、垂直統合ではなく水平統合を選び、自分たちの強みを徹底的に伸ばし、足りない部分は他と組むという戦略を取っていることが、台湾の強みだと思います。

また、台湾の弱みとして、データ活用がまだ十分ではないという点があります。日本は現場でのデータ蓄積が進んでいますが、それをどう活用するかが課題です。台湾も、自動化は進んでいますが、データ活用はまだ進んでいません。ただし、AIやデータ活用を始めれば、自動化が進んでいる台湾は日本を一気に追い抜くのではないかという懸念もあります。

次回以降、このあたりについても少し触れていきたいと思います。

ということで、途中ですが、ITRIをはじめとする台湾政府とのコミュニケーションやサイバーセキュリティの話などは、次回以降にお伝えしたいと思います。正直、ここまで3日間の視察を通じて得た理解を国会議員がここまで詳しく伝えることは少ないと思いますので、ぜひ皆さんからの評価をいただきたいと思います。

山田太郎の視察というのは、こういうものです。最近、視察というと評判が悪いことが多いですが、私の場合、遊ぶ暇もなく、これだけ多くの訪問先を一度に回ることができたのは自分でも驚いています。ただ単に挨拶をするのではなく、ほとんど喧嘩腰といってもいいくらい熱のこもった議論を行っています。これが視察の現場です。本当は、この視察の様子を生でお見せしたいくらいですが、その雰囲気は次回、しっかりとお伝えしたいと思います。

今日はこれくらいにしたいと思います。どうもありがとうございました。