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人称の基本を知ろう(1)〜カメラの位置と性能

小説のちょっとしたコツや小技をご紹介するシリーズ。

今回は「人称の基本を知ろう(1)」です。


人称理解の最小限

小説を書こうと思ったとき、戸惑うのが人称の問題だと思います。

「そもそも人称ってなに?」
「何人称で書けばいいの?」
「ルールや制限は?」

いろいろ疑問が湧いてくると思いますが、あまり難しく考えると書けなくなります。

ですので、今回から何回かに渡って、「人称についてはこれくらいわかっておけば十分」といったところを解説していきます。


人称とは?

人称とはおおざっぱに言って「カメラの位置」だと考えればいいです。

小説における場面は、どこかにあるカメラから書いていくものですが、カメラの位置を決めておかないと読者が混乱します。

あちこちから書かれると、なにがなんだかわからなくなるのですね。

マンガや映画ならそうでもないのですが、小説は文章だけなので、書き方を制限しないとすぐにわからなくなってしまうのです。


「人称」と言われると難しそうに思えますが、用語に振り回されることはありません。

そもそも小説の目的は読者に物語を伝えることであり、その際に「こうした方が読者に伝わりやすい」とか「いろいろな場面を書きやすい」といった気づきが、後に「〜人称」などと呼ばれるようになっただけのことです。

当然ながら、「なんとか人称」という技術が先にあったわけではありません。
(文章作法も同じですね。先に作法があったわけではありません)


ですから、乱暴にいえば、

読者に伝わればどのような表現でもいい

のです。

ですので、まずは「伝わりさえすればなんでもいいんだ」くらいにゆるく考えておくのがいいと思います。


カメラの位置は2つ

さて、小説を書こうと思ったとき、標準的なカメラの位置は以下の2つになるでしょう。

  1. 人物の目

  2. 人物の背後

図にするとこんな感じです。↓

2つのカメラ位置

ご存じでしょうが、人物の目にカメラがある書き方を「一人称」、人物の背後にカメラがある書き方を「三人称」といいます。

すぐわかる違いは主語ですね。

  • 一人称

    • 主語:僕、私、俺、儂、拙者など

  • 三人称

    • 主語:人名が一般的


たとえばこんな感じです。↓

一人称:
 不意に名前を呼ばれ、は顔を上げた。目の前に立っていたのは見たこともない女だった。女は口の端を上げ、笑みを浮かべていたが、目はまるで笑っていない。それどころかを射抜くように鋭く細められていた。

三人称:
 不意に名前を呼ばれ、タナカは顔を上げた。目の前に立っていたのは見たこともない女だった。女は口の端を上げ、笑みを浮かべていたが、目はまるで笑っていない。それどころかタナカを射抜くように鋭く細められていた。

一人称では主語が「僕」ですが、三人称では「タナカ」になっています。

ひとまず違いはこれだけです。

ですが、カメラを分けた以上、もう少し違いがあるわけですね。

以下から見ていきましょう。


一人称のカメラは固定、三人称のカメラはわりと自由

一人称から見ていきます。

人物の目に固定したカメラから書くのが一人称ですから、カメラを動かしてはいけません。
(読者が混乱するからです)

ですので、一人称では、人物が見たこと、聞いたこと、感じたこと以外は書けません。


たとえば、こういうシーンを一人称で書くとしましょう。↓

僕が背後から殴られるシーンです。

一人称で書く場合は、こんな感じになります。↓

一人称:
「あなたは誰ですか?」
 そう尋ねた途端、僕は後頭部に衝撃を感じ、目の前が真っ暗になった。

背後で起こったことは、「僕」にはわかりません。

ですから、「衝撃を感じ」たり、「目の前が真っ暗になった」といった表現で、「おそらく背後から何かで殴られ、気絶したのだろう」と読者に伝えなければならないわけです。


一方、三人称はどうでしょうか。

三人称のカメラは人物の背後にあるのが基本なのですが、かなり自由に動かせます。

場面全体を写せる場所まで下がっても、あるいはもっと離しても混乱は起きません。

ですから、さきほどのシーンも単純にこう書けます。

三人称:
「あなたは誰ですか?」
 そう尋ねた途端、タナカは背後から殴られ、気絶した。

このときカメラは、図のような位置まで離れています。↓

三人称ではカメラがかなり離れても問題ありません。

すると、状況全体をカメラに収めることができるので、「背後から殴られた」ことや「気絶した」ことを書いてもいいことになるのです。


一人称は制限のある三人称

一人称のカメラは固定ですが、三人称はかなり自由だとわかったと思います。

ですので自由度で言うと、一人称と三人称はこうなります。

自由度低い:一人称 < 三人称:自由度高い


ですから、ちょっと抽象的にいえば、三人称は一人称を含んでいます。

一人称は「制限のある三人称」だと言ってもいいですね。


したがって、三人称の文章を一人称風には書けますが、逆はおかしくなります。

一人称の文章を、三人称風に書いてみましょう。

一人称:
「あなたは誰ですか?」
 そう尋ねた途端、僕は背後から殴られ、気絶した。

このくらいなら気づかない場合もありますが、小説に慣れている読者ならこう思うでしょう。↓

「殴られたってどうしてわかったの?」
「気絶したことって自分でわかるのかな?」

こう思わせてしまうと、読者は途中で読むのを止めるかもしれません。

いい加減な作者だと判断されるからです。

このように、一人称を書くときは、その制限についてよくわかっていなければならないわけです。


今回はここまでにしましょう。

まずはカメラ位置が違うということだけわかればいいです。

  • 一人称

    • カメラは人物の目に固定

  • 三人称

    • カメラは人物の背後〜多少離れても大丈夫


この書き方の違いは、情報の取り扱いにも違いを生じさせます。

それは次回に続きます。


今回のまとめ

小説のちょっとしたコツ「人称の基本を知ろう(1)」でした。

  1. 人称の違いはカメラ位置の違い

  2. カメラの位置は「人物の目」と「人物の背後」の2つ

  3. 人物の目に固定:一人称

  4. 人物の背後にある:三人称

  5. 三人称のカメラは人物から離してもいい

  6. 一人称は制限のある三人称と考えてもいい

三人称のカメラ位置はけっこう自由なのですが、最初は人物の背後にべったりつけておけばいいと思います。

すると、ほとんど一人称のように書くことができます。

次回は情報の出し方の違いについてです。↓

それではまたくまー。

(2023.3.20追記)
タイトルをわかりやすく修正しました。

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