新宿毒電波通信 第三号 RED TRIP〜赤い旅路 第三回
旅行記 第三回
RED TRIP〜赤い旅路
山本 拓也
なんだか話が横道にそれてしまった。旅行の話を始めよう。
それまで漠然と夢想するだけだった北朝鮮旅行を具体的に検討し始めたのは、新しい元号の始まりを間近に控えていた頃のことだ。改元やオリンピックなどの「国家的イベント」に際して、メディアがお祭り騒ぎするいかがわしい雰囲気には辟易していた。そんな空騒ぎどこ吹く風で、改元の瞬間を平壌で迎えるというのはどうだろう? この思いつきは私を大いに魅了した。大型連休と重なるのも都合が良かった。
旅行の下調べを進めていくなかで、北朝鮮への渡航者が必ずアクセスしなければならない北朝鮮当局公認の旅行代理店があることを知った。日本には中外旅行社とJSツアーズの二つの公認代理店がある。両社の扱っているツアープランに大した違いはなく、価格も似たり寄ったりだ。別にどちらで申し込んでも構わなかったのだが、よくよく調べるうちに一つ気になるものを見つけた。それは「オフ会」の存在だ。中外旅行社のホームページには「朝鮮旅行友の会」というリンクがあるのだが、どうやらこの会では年に1回程度、北朝鮮旅行愛好家が集まるオフ会が催されるらしい。開催時には、中外旅行社の利用者に招待状が届くとのこと。つまり日常生活ではまず出会うことのない「同志」とお近づきになれるのだ。これが決め手となった。
そんなわけで、中外旅行社に申し込みのメールを送った。送信ボタンを押すと、さすがに興奮で頭が沸騰してくる感じがして、自宅の狭い部屋の中をわけもなく歩き回ってしまった。出発の1か月半前のことだ。
メールの返信はすぐに来た。キムさんという人が担当だ。もしかしたら「過去に韓国へ渡航したことはあるか?」とか「あなたの信じるイデオロギーは何だ?」とかいろいろと聞かれたりするのかなと身構えていたが、特に尋問めいたものはなく、あっけないほど簡単に申し込みは済んでしまった。その後、希望の観光スポットやオプション(今回申し込んだオプションの以外にも市内サイクリング、囲碁対戦、射撃場など興味をそそられるプランがあった)に関してのメールのやり取りを経て、具体的な旅程が固まった。なお、平壌までの直行便は存在せず、中国を経由することになるのだが、中朝国境の丹東までの移動に関しては、チケットを自分で手配する必要があった。せっかくなので出発を1日早め、かねてより行きたかった大連に寄り道してから丹東に入るというスケジュールで、チケットとホテルの予約をした。
準備万端で後は当日を待つばかりだった。しかし出発の2週間前、突然キムさんから電話がかかってきた。