新宿毒電波通信 創刊号 「新宿黄金害」第一回
新宿黄金害
若宮とおる
下落合駅から徒歩一分ほど。喫茶店とパン屋に挟まれた雑居ビルの三階にその店、新宿黄金害はある。カウンター五席、メニューは瓶ビールとピーナッツ。隣の喫茶店で出前を取ることもできる。
今夜は大根おろしでびしゃびしゃの和風ハンバーグ定食に添えられたスパゲティをつつく女と、店主の中年男が話している。
「ええ、お前さん、ゴールデン街なんかに行きたいの? 小便臭い女と親からマトモに自立できない男がデカイ面して乳繰り合ってて、おれは昔からだいきらいなとこだけどね。『人と人とが肩寄せ合って、その場限りの会話を楽しむ、人の温もりが感じられる昔ながらの場所』ってイメージあるでしょ。あんたみたいなのは、話しかけづらくて誰からも相手にされないか、歯の黄ばんだオヤジに値踏みされて悪口言われるだけで、なあんっにも面白くないよ。二丁目が楽しそう? やめとけ、やめとけ。計画性のない親がデキ婚して生まれたガキばっかで、性欲と愛情の区別もできない奴らが性加害しあう依存症の掃き溜めだろ、気色悪い。
行くな行くな、あんな場所。高くて不味くて汚くて臭いだけ。あんたにはこの店くらいがちょうどいいよ。昔からこの辺住んでいる人はみんな変に背伸びもしてないし、肩の力が抜けた感じのいい大人が多いよね。ああ、おれ? 出身は船橋だよ。でも、受験して私立中高通ってたし、東京は地元みたいなもんかな。お会計ね、はいはい。また来てね」