新宿毒電波通信 第二号 「新宿黄金害」第二回
新宿黄金害 第二回
若宮とおる
下落合駅を降りてすぐの喫茶店「山びこ」に、若い女性客がいた。彼女はメロンクリームソーダをストローでぐちゃぐちゃにかき回しながら、目の前の『先輩』に話しかける。
「ねえ、先輩。『新宿黄金害』のビール、酸っぱくて不味いから行かない方がいいですよ。一杯八百円も払わされたんですよね。店長はプライド高くて、レイシスト。最悪の店です」
『ちょっと前までイケメンがいるって騒いでたじゃない。またヤリ捨てでもされた?』
「……結婚してたんですよ。子どもの写真、SNSで見つけて。あと、奥さんのアカウントも」
『学ばないねえ。毎回二番手、すぐ雰囲気に流されてゴム無しで交尾するしさあ。猛スピードで不幸に突入してんじゃん。愚痴るつもりでまさかエンジョイしてる? 自分のこと嫌いにならない?』
「ああもう嫌だ。私、悪くない。アイツ、全部悪い。ぶち殺したい。ゴミ、クズ、死ね」
『さっさと機嫌直して、和風おろしハンバーグでも食べよう。きっと今日も大根おろしびしゃびしゃだよ』
ひとりで泣きじゃくる女の元に、「山びこ」の店主がコンソメスープを運んでくるが、老齢のため手が震え、席につくまでにスープはほとんど残っていなかった。