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【記者コラム】メディアのデジタル改革とニューヨークタイムズ

新聞の発行部数が減少している、というのは昨今あちこちで話題になっている。一方で、デジタル版が各新聞社の「救世主」になり得るかといえば、現状では「紙」の部数減をフォローしきるまではほど遠いようだ。

日本の新聞社の有料オンラインサービス「唯一の成功事例」と言われる日経電子版ですら、2020年以降デジタル版の有料会員数は完全に伸び悩んでいて、「紙」と電子版の合計購読数は減少の一途。他社の苦戦は推して知るべしである。こうなると「新聞」という形態そのものが、デジタル化に向いていないのではないかとすら感じる。

一方で、海外にはこんな事例もある。米ニューヨーク・タイムズの「デジタル・ファースト」な企業体制づくり、である。

先日、日本の独立系ベンチャーキャピタル大手、株式会社ONE CAPITALのオウンドメディアで、志水優太氏が書いたコラムを読んで目から鱗が落ちた。以下はその記事からの引用を含めて記述する。

ニューヨーク・タイムズは、地方紙でありながらも世界的にも米国を代表する新聞として見なされ、これまでピューリッツァー賞も90以上獲得してきた。

そんな同社にも、当然「紙」の部数減は押し寄せ、近年はデジタル版への重心移行を高めてきたのだが、順当に推移してきた新規有料購読者数が2012年~2013年にかけて一気に半分以下になった。課題を解決すべく英BBCで数々の実績を築いてきたマーク・トンプソン氏がCEOに就いた。

トンプソン氏は、まとめられたイノベーション・レポートを元に、施策として「Growing Our Audience(読者開発)」「Strengthening our newsroom(編集室の強化)」という二部構成の改革を打ち出し、2016年ごろからデジタル分野のサブスクリプションを急激に伸ばし始めた。2020年にはデジタル部門の購読・広告売上が紙版を上回るほどに、見事なデジタル・トランスフォーメーション(DX)を遂げている。

数多くの施策のどれもが既存の新聞社やそれを中心にしたマスコミ業界に、それまでなかった考え方だったと感じる。それを考えると、常に新しい情報を提供し続けるのが仕事のように見える新聞というパッケージが、いかに世間の潮流にアジャストしていなかったか、ということにもつながるのだが。

記者が最も印象的だったのは「ビジネス部門と編集局の協業強化」である。それまでの新聞業界では「国家と教会の分離」というメタファを用い、広告獲得や収益拡大と記者の記事執筆が近づくことでジャーナリズムの独自性が損なわれるという「常識」がはびこっていた。しかしデジタル時代にはそれでは通用しないという判断をしたのだ。ビジネス部門と連携することで、記事を書くだけで終わりだった編集局が読者データを分析し、読者の求める形でコンテンツを届けられるようになるなど、デジタル時代に適したメディアの作り方を学ぶことができ、これは読者体験の改善にも繋がるものだ。

メディアにおけるDXとは、単純な労務の合理化や人減らしではない。ジャーナリズムの独自性を担保しながら、デジタル時代の需要をオンタイムで掴み、常にユーザーフレンドリーでいることが求められる。既存の姿勢に、さらに「ひと汗かく」必要がある。

にいがた経済新聞には、現在のところ有料コンテンツはない。すべての人が無料で楽しめる紙面であり、すべては広告収入のおかげである。だからといって、もちろんジャーナリズムの独立性は損なわれてはいないのだが、今後は「紙面の質」をどう考えるか、がますます問われるだろう。

(編集部・伊藤直樹)

にいがた経済新聞 2024年8月18日 掲載


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