【記者コラム】新潟の暑い夏と糀(こうじ)
俳句で「甘酒」は夏の季語、これをご存じの読者はどれほどいるか。江戸時代、夏の暑い盛りになると町に甘酒売りが姿を見せることから、この姿が夏の風物詩ということになっているのだ。
ここで言う甘酒は酒粕から作ったものではなく、清酒の原料でもある米糀を加熱し糖化させたもの。ケミカルなところがない自然な甘味の糀甘酒は、冷やして飲んでも美味い。ノンアルコールの自然食品なので、身体にはすこぶる優しいし、もちろん運転などにも差し支えない。
江戸時代、夏に甘酒売りが出たのも、糀の甘酒が疲労回復や滋養に良いためだ。同様の理由で、昔は妊婦に甘酒を勧めていたという話も聞く。まさに夏バテ対策、天然成分のエナジードリンク。
醤油、味噌、醸造酢、漬物、清酒…日本の食文化は糀とともに広がってきたと言ってよい。国鳥=トキ、国花=桜、菊のように国菌=糀菌(糀を作る菌)というのは実際の話だ。それだけ古くからの日本人の生活に密接にかかわってきた。
以前、阿賀町にある山崎糀屋の女将・山崎京子さんに聞いたのだが、昔は町中に「味噌屋」というものがなかったのだという。味噌は自分の家で自家製するか、山崎さんのような糀屋に大豆を持ち込んで仕込み味噌をつくり、自宅に持ち帰って自分の家で熟成させたのだという。「手前みそ」の由来である。
米糀で、なぜ身体が整うかといえば、要約するとそれは「酵素」に帰結するだろう。糀はでんぷんやたんぱく質を分解する酵素を含む。代謝促進や消化促進などが疲労回復につながるという。また、糀甘酒は天然オリゴ糖を多く含むので「腸活」にも最適。「脳腸相関」と言って、腸は身体全体を整える重要な器官でもある。
日本中で「発酵で町おこし」のような動きを見る。新潟県をとっても「発酵の町」と謳う地域が数多くある。日本の食文化が糀に根ざすところがある以上、日本中に「発酵の町」があるのは必然だ。最初は記者も「また発酵の町かよ」と少し冷めた目で見ていた。
ただよく考えてみると、糀などの発酵食品を作るのに必要な菌や微生物は土着性が強く、言わばその土地のオリジンである。その土地なりの特色を発信できれば「発酵の町」の売り方にも面白みがあるように思える。
(編集部・伊藤直樹)
にいがた経済新聞 2024年7月28日 掲載
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