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【記者コラム】花の季節
私は花が好きだ。鑑賞するのはもちろん、育ててもいる。土が動き出すこの季節になると、気分が高揚してくる。……などと言うと、温厚な人柄だと印象を持たれることが多い。のんびりとして、蝶よ花よと自然を愛する人物だと。
実際はそうでもない。むしろ草花に接していると過激になる。花は愛でても、食害があるので蝶は愛でない。草木すら、この時期になるとふつふつと土から頭を出す雑草類には愛情などない。冷酷に農薬という毒を降らせ、機械的に大地へ鎌を入れる。そも農業は自然を切り拓いてきた歴史。なのになぜ牧歌的で、特に「花」と言えばこんなにも善良な印象を抱かせるのか。
「コスパ」「タイパ」と名前がつけられたから目立つだけで、それこそ農耕社会が始まる前から残酷な取捨選択は合理化という名のもとに積み重ねられてきただろう。社会生活や職場環境にその空気は強く染み付いており、年始の地震のような非常時には、世論や言論にその過激な一面が現れる。
私も職場で、合理化や効率化を理由にいくつ取材を怠ってきたか知れない。
夢枕獏氏の小説「陰陽師」(この春、約20年ぶりに映画化される)に、主人公・安倍晴明の自宅の庭を描くシーンがある。清明はあえて過度に手を入れず、野山のように雑草の生い茂った庭に美を見出す。同作の1巻を読んだのは高校生の頃だったが、強く印象に残っている。
新年度、多くの新社会人が打ちひしがれる季節。平安の貴人ほどとまではいかないが、自分にも社会にも、雑草と不合理を許すだけの度量がほしいと思った。
(編集部・鈴木琢真)
にいがた経済新聞 2024年4月7日 掲載
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