見出し画像

【編集後記】 「相談できる環境」

10月17日、新潟市西区内での80歳代の女性が運転する軽自動車が誤って電車の線路内に進入する事案が発生した。筆者も記者として現場に赴き、記事作成や現場撮影などを行った。

現場に行ってみると、車両が進入したとみられる場所は非常に車通りも多く、進入したとみられる時間も帰宅ラッシュの時間で、目撃者が皆無という状況は考え難い印象を受けた。

何人が目撃していたのかという事はわからない。もしかしたら、たまたま皆が目を離した瞬間だったのかもしれない。または、運転手の女性の認識と同じで手前の道をしっかりと左折したように見えた人しかいなかったのかもしれない。

今回のように事件現場に赴くと、事件はまた違った印象を受けることが多々ある。事件記事を読んでいて、「なんでこんな事件が起きるのだろう?」という疑問を持つ人は多いと思う。

この「なんで?」には、多くの場合、当事者にしか理解できない事柄があり、理屈通りというわけにはいかない。

特殊詐欺被害などは、こういうケースが特に多い。滅茶苦茶な事を犯人が告げていても、人間は一度肯定した感情を否定することが、とても困難な生き物だ。息子が、孫がと告げられると、「何とか護らなければいけない」という感情が強く刻まれ、そういった事柄を否定することが難しくなり、犯人が示した「偽りの解決策」を頼りに進んでしまう。

5秒ほど深呼吸をすれば解ける呪いだとしても、その5秒を犯人は与えてくれない。被害者に偽りの救済ミッションを提示し、「それをすれば護ることができる」と誤認させる。

非常に恐いことだ。自分一人では抗う事が困難と言える。

では、こうした事柄に対抗するにはどうすればいいかというと、やはり普段からのコミュニケーションが特効薬と言えるだろう。そういった環境を整える要因の一つとして、普段から「悩み」=「弱み」というものを曝け出しやすい環境を整える必要性がある。

根本的に「人間は弱い」。自分だけで解決できない事柄も非常に多い。では、「弱い」事は「悪」なのかと考えると決してそうではない。善悪論で語る事ではないというのは承知の上だが、少なくとも「弱い事」に引け目を感じる必要などないのだ。

必要なのは、弱さを補ってくれる存在を作る事。同時に、自分が誰かの「弱さ」を補完できる立場に身を置く為に尽力することだと思う。

そうして支え合う仕組みを確認し、構築していく事で特殊詐欺事件のような「人の弱み」を利用する事件は劇的に減る事と思う。そもそも、「誰かを護らなければいけない」という強い感情からこういった事件は発端となるケースが多いのだ。誰かを護る手段として、自分以外の誰かに相談する環境を整えるという努力は周囲と自分を守るために必須だと言える。

寒暖差が激しくなり、これから体調を崩す人が多くなってくることと思う。そうした時に普段から「体調はどうですか?」と聞くことで、そういった言葉がやがて将来の自分や周囲を護る第一歩になる事と思う。

(編集部・児玉賢太)

にいがた経済新聞 2023年10月22日 掲載


【にいがた経済新聞】

いいなと思ったら応援しよう!