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『新潟市西区のむかしばなし』第4話「ハッピーなターン」

【第4話】ハッピーなターン

《行動範囲》寺尾 寺尾朝日通 小針 坂井東 寺尾東 寺尾上一丁目 坂井砂山

朝日が顔をのぞかせても 知らんぷり

すがたをみせても おれ知らね

ひたすら寝ているのもいれば

起きているのも いる

なにも しない なに してもいい しらない ぴょん

だから

だれも

だれにも

干渉しない

ほおっておく

お好きにどうぞ

僕は起きあがり 背伸びをして ふかく深呼吸をした

めを閉じて 風を吸いこみ 空気をもらって 息をはく

風は 僕たちにとって とても大切なもので

僕たちは 風から空気をもらって生きているんだ

風は めにはみえない小さな つぶつぶ の あつまりで

つぶつぶ の しょうたいは

空気 と 息

風を吸いこむと 空気と息がいっしょに からだの中に入ってくる

空気は からだじゅうにしみわたり 僕たちのちからになる

息は いらないから 口からはき出される

はき出された息は 風にまじり

それを こんどは

草木がもらうんだ

草木は 僕たちと反対に 風の中の 息が欲しくて 空気はいらないから 外へおいだす

おいだされた空気は

また 風にまじり

僕たちは

風を吸いこみ

空気をもらって

そんなふうに

ずっと

草木と

風をわけあいっこしているんだ

深呼吸をしていたら

遠くのほうから こっちへおいでよ と 声がした

だいぶ遠くのほうだけど

行ってみることにした

ながいながい丘 が ある

山から続く ながいながい丘

日の明かりをいっぱいに浴びて きれいだ

僕は 丘をみあげながら ゆっくりと歩いた

この丘は いったい どこまで続いているのだろう

日の明かりのほうを

ちらっと みた

「すっげ!」

緑のはらっぱ が ひろがっていた

大きな 大きな 緑のはらっぱが 日の明かりを浴びて 遠くまでひろがっていた

風も日の明かりを浴びて

きらきらと輝いてた

きっと この緑のはらっぱが僕に声をかけてくれたんだ

大きな大きな 緑のはらっぱ

風を吸いこみ 空気をもらう

からだじゅうに空気がしみわたり ぐんぐん と ちからがよみがえる

息をはく 緑が僕の 息をもらう

くりかえしくりかえし 緑と風をわけあいっこしながら 緑のはらっぱの中を歩いた

寝そべった でっかい空が どこまでも ひろがっていた

めを閉じた

気持ちがよすぎて

気がついたら 寝ていた

めをさましたのは

しばらくあと

太陽が あたたかくて 心地好くて

めがさめた

太陽が 顔のまうえにいた

にこにこ と 笑っていた

大きな 大きな 緑のはらっぱは

僕が寝ているうちに

大きな 大きな 日だまりになっていた

太陽が 得意気に笑っている

みんなに知らせよう

緑のはらっぱ

緑の日だまり

どっちでもいい

緑のはらっぱ だ

はや足で

みんなのほうへむかう

丘を道しるべに歩けば

みんなのいる山のすそのへたどりつく

僕は 丘を道しるべに山のすそのへ戻った

山のすそのでは ふたりの姫様と何人かで 草のしわけをやっていた

きのうあつめた草を みっつの組にわけていた

食える草 食えない草 しらない草

しらない草は みんなあつまってから 食いたいのに食ってもらう

ふたりの姫様は たまにおそろしいことをする

笑顔がこわかった

僕は 緑のはらっぱの話をした ふたりの姫様は 草のしわけをしながら うんうん と 聞いていた

ひとり

戻ってきた

川をみつけて カワザカナを持ち帰ってきた

カエルもたくさんいたそうだ

またひとり 戻ってきた

野原でウサギを一匹 つかまえてきた

土まみれになっていた

ウサギはすばしっこくて なかなか思うようにいかず どうにかこうにか一匹 つかまえたそうだ

バカがひとり 山のてっぺんから戻ってきた

ほんとうは 山はヘビがいて危ないから あまりひとりで入ってはいけないのだけれど

ふたりの姫様は

なに してもいい

と 決めた手前 とめられなかった

バカは へろへろのつくしをちからいっぱい握りしめていた

山のてっぺんに湧き水があった! と 大声で叫んだ

「本当らて!ひゃっけ湧き水があったんて!」

だいぶ日がかたむいたころ

遠くまで行った やんちゃな 幼いふたりが ようやく戻ってきた

幼いふたりは得意気に

「イネがいっぺことあった!」

と 僕たちにおしえてくれた

川をみつけて 川づたいに歩いていたら 川のほとりにイネがたくさん生い茂っているのをみつけた

幼いふたりは そこへ行く道をつくる 決めた と言う

みんな だめ とは言わなかった

さて

全員そろった

めし に しよう

火を起こす

ねむりにつく

太陽のかわりに

ねむっていた

火を起こす

ウサギを

火にかける

皮をはいだウサギを

火にかける

ぱちぱちと

音がする

めを閉じて ウサギの音に

耳をかたむける

わたしは ここでずっと暮らしていました

あなたたちも ここで暮らすのですか

わたしのからだには

ここで暮らす 知恵が つまっています

わたしは 夏も 冬も ここで暮らしていました

わたしはここで むし暑い夏を駆けまわり 雪のふる寒い冬を生きぬきました

わたしの肉は ここの夏を知っています

わたしの皮は ここの冬を知っています

あなたたちも ここで暮らすのですか

それならば よろこんで わたしを あなたたちに捧げます

ともに暮らしてゆきましょう

わたしの肉で 夏を駆けまわり

わたしの皮で 冬を生きぬいてください

め し あ が れ

めを開き まるこげになったウサギをみる ちゃんとみつめる

「ごちそうさん いただきます 」

手を合わせて おじぎをして

ウサギの肉を噛む

しっかりと 噛む

いくども いくども 噛みしめる

ウサギの命の演奏を

噛みしめる

川でとれたカワザカナも

火にかける

めを閉じると

川のにおいがする

泥まじりの川の 懐かしいにおいだ

めを開いて

「ごちそうさん いただきます 」

手を合わせて おじぎをする

カワザカナの命を

いただく

ふたりの姫様がしわけをした草の実が めのまえにならぶ

幼いふたりが おいしそうに野イチゴをつまむ

「うんめっ!」

つられたふたりの姫様も

むじゃきなしぐさで おいしそうに野イチゴをつまむ

なごやかな雰囲気にみちあふれる中

しらない草 が めのまえにならべられた

し ら な い く さ

みたことのない しらない草だ

みんな だまりこむ

食えるかもしれない 食えないかもしれない だれも しらない

ふたりの姫様が 僕たちをじっとみつめる

食ってもいい 食わなくてもいい ただし どうなっても しらない

「おれ食う!」

幼いふたりのひとりが手をあげた

みんな どよめく

幼いふたりのひとりは しらない草の中でも きっと食えそうな まあるい葉っぱのものをえらんだ

「ごちそうさん!」

まあるい葉っぱがごちそうであってほしい ねがいを込めたひと声

みんな しんとなる

「うんめ!」

どうやら食える草のようだ

ほっとして みんなの中から笑いがおこる

「おれも食う!」

幼いふたりの もうひとりも手をあげた

みんな 笑顔で見守る

幼いふたりのもうひとりは しらない草の中でも あれこれ悩んだすえに いちばん細ながい草をえらんだ

「死にゃしねーて ごっつぉさん!」

細ながい草を ひとかじり

「くっせ!」

ふたりの姫様が ぷっ と ふきだす

「くっせし にっげーわこれ!」

みんな笑いころげる ふたりの姫様も おなかを抱えて笑う

ふと バカが持ち帰ってきたつくしを思いだす

みんな つくしはみたことはあっても 食ったことはなかったのだ

「ちっとばか食ってみれて 」

みんなでバカをはやしたてる

「やーらて!」

「おめさんこれ 食えると思ったっけ持ってきたんろ!」

ふたりの姫様は やや 困りながらも そのようすを笑顔で見守る

あきらめたバカが つくしをつかみ かるく火であぶったのち 口の中へほおり込んだ

ひと噛み

ふた噛み

みんな バカを静かに見守る

「なじ?」

気になったひとりが バカにたずねる

「ばかうんめ ごっつぉさんらてや 」

みんなから拍手がまきおこる

バカをたたえる声が つぎつぎにわきおこる

しらない草を食った幼いふたりにも 大きな拍手が飛びかう

しらない草は 知っている草になり

つくしは食える と みんな知った

幼いふたりと ひとりのバカが

みんなのあらたな 道を ひらいた

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