Interview / 【石栗 仁之さん】
※この記事は、平成28年(2016)年度の新潟県アール・ブリュット・サポート・センター報告書に掲載されたものを改編しています。取材:2017年2月
Interview
石栗 仁之(いしぐり ひろゆき)さん 1988年生まれ
竹石早紀さん(社会福祉法人いぶきサポート協会きぼう福祉園支援員)
<話しを聞く人>
角地智史(新潟県アール・ブリュット・サポート・センター アートディレクター)
『僕達の世界の銀河系』 石栗仁之
平成28年度の新潟県障害者芸術文化祭絵画部門で県知事賞を受賞した石栗仁之さん(作品名『僕達の世界の銀河系』)。平成29年2月のに開催された日本最大級の福祉の祭典アメニティフォーラム21と同時開催された展覧会『ライフワークイズム』のチラシへも作品画像が大きく掲載されました。
石栗さんの作品はカラフルな細いペンで詳細に描かれており、それは全て迷路になっています。スタートからゴールがきちんと繋がっている。絵の周りには、絵や迷路について説明文が書かれているものもあり、鑑賞する方へのメッセージとして読めます。
角地アートディレクターと石栗さんは旧知の仲。しかし、思い出話を語る中で今まで気づかなかったことがちらほらと。迷路のようで絵画、絵画のようで迷路。まるで二人の関係性のようです。
石:石栗仁之
竹:竹石早紀
角:角地智史
【作品が人に見られること】
角 石栗さんとは展覧会を通じて何度もお会いしているんですけど、いつからの付き合いでしたっけ?
石 えーと、えーと、絵を展示したら凄くみんながびっくりして、その展示会のだいたい1カ月後ですね。
竹 この施設ができてからだよね。だいたい3年前(2013年)ぐらい?
石 で、1、2、3・・・6回ぐらい来た。
角 僕、6回ぐらい施設に来たんですか。(たしか十数回行った気が・・・)
石 数えてた。
角 こういう絵の描き方は、最初は小学生のころ友達の真似から始まったんでしたっけ。
石 そう。最初は友達がやってたことをパクった(笑)。
角 この絵は何通りの道があるんですっけ?
石 750通り。
角 絵を描く前に設計図を作っていましたよね。
石 作ってた。今は面倒くさくなって作ってないけど(笑)。
難崖富士山では、石栗自ら作品が完成するまでの過程を冊子にして記録していた。冊子の中には絵の元になった写真や、それを元にしたスケッチ。スタートからゴールするまでの道のりなどが綴じられている。
角 この富士山の絵は、もともと何処かに出展しようと思って描いたのですか?
石 県展があることは知っていたんだけど、出展できるなんて分からなかったし。
竹 法人内の他の施設の利用者の方が出展していて、その情報を石栗さんに伝えたんですよ。それで出展のだいたい3か月前から描きはじめたんですよね。
角 出展した自分の作品がどう思われているかは、気になりましたか?
石 気になった。ただ、観てぼーっとしてもらえればいい。なんか絵ってさ、10分ぐらい観れば飽きちゃうじゃん。30分ぐらい観てもらえる絵を描きたい。
角 この展示、覚えてますか?最初に僕が関わって石栗さんの作品を展示したときです。
新潟市東区プラザで行われていた「ほうこくの壁」。角地が展示企画に携わり、月替わりで新潟市内の障害のある方の作品を展示していた。通常、角地が内容を決めて展示を行うが、石栗さんの展示では本人に展示構成を依頼し、展示が行われた。
石 あー、こんな感じなんだ。東区プラザですよね。覚えてる、覚えてる。
角 2014年の冬かな。一番最初に展示した時に何を思いましたか?
石 えーと、自分の展示が飾られていると思うと緊張しちゃって、作品の前で立ち止まれなかった。あと、みんなに凄いねと言われたのに驚いた。自分にとっては普通のことだからね。
角 自分の作品の前で立ち止まれなかったんですか。
石 立ち止まれなかったというか、遠くから見てた。
角 東区プラザはここからも近いですよね。1人で観に行ったんですか?
石 うん、休日に行きました。一ヶ月ぐらいやってたよね。
後日談(支援員より):「ほうこくの壁」の展示には、石栗さんが何度も通われたとのこと。自分の絵がどういうふうに見られているかが気になったようで、展示場所から少し離れてようすを見ていたそうだ。見ている様子は、少し嬉しそうだったとのこと。
竹 平日に一緒に観に行ったこともあったよね。施設の広報誌に載せようと行ったんです。
石 行った、行った。
竹 声をかけてくれた人もいたんですよ。
石 その人と、ずっと話をしてた。
角 どんな話をしたんですか?
石 おばちゃんが、これを描いた作者ですかと驚いていて。凄いと。30分ぐらい立ち話をしましたね。自分は聞き流していたんですけど(笑)。
竹 雪の日だったよね。なんか思い出してきました。
滋賀県大津市での展覧会「ライフワークイズム」での展示
(2017年2月開催)
角 2016年の新潟県障害者芸術文化祭ではで県知事賞とったそうですが、どうでした?
石 びっくりした。だって1500点ぐらい応募があったんでしょ。頑張ったけどね。
竹 お母さんも、お姉ちゃんも石栗さんの絵が展示されたことに喜んじゃって。
石 ただよく考えたら、県展の絵は暗いよね。空っていうか宇宙なのに。
角 ますます展示や紹介される機会が増えていますよね。
石 この絵がこんなに凄いことになるとは思っていなかった。信じられなかった。展示して、もうやめようと思ってた。なんでこうなったんだろう。
竹 今まで、展示する機会もなかったですし、捨ててしまったものもいくつかあるみたいです。人に観てもらうことで何か新たな価値を生み出しますね。
石栗さんが角地に宛てた年賀状
角 そう言えば、年賀状、ありがとうございました。嬉しかったですよ。凄く細かくて。飾ってありますよ。
石 だって、年賀状ってみんなつまんないじゃない。
角 迷路、やりましたよ。実際迷路に挑戦して、挑戦してさらに石栗さんの絵が好きになりました。迷路をやってみるとより細かい部分のこだわりが分かりますね。
石 ありがとうございます。
角 竹石さんから見て、絵が注目されてから石栗さんの変化はありましたか?
竹 そうですね。細かいタッチでよく集中力がそんなにもつなと。このことは今も昔も変わらないですね。ただ、地図を参考に絵を描いたりと、アイデアの部分が変わったと思います。
そして、東区から新潟市全体、新発田市、長岡市での展示、そして滋賀県まで展示がひろがって、ただただ凄いなと思うばかりです。観てもらう機会は重要ですね。なにより、石栗さんだけでなく、お母さんが非常に喜んでくれていることが嬉しいですね。お母さんは、一番長く石栗さんの横で絵を描いている姿を見ているわけなので。
角 まさしく、そうですよね
竹 お母さんやお姉ちゃん、絵を見てくれた方もそうなんですけど、まわりを変えていく力って凄いなと実感しています。
角 あっという間に時間が過ぎてしまいました。NASC としても今後もサポートできることがあれば協力させていただきます。展覧会が増えすぎて大変だとか。
石 展示をどっかでやめちゃうとか(笑)。
竹 やめちゃうの?
石 どこかでお断りすることもあるよね。
竹 どんどん作品が外に出ていく機会が増えていますからね。テレビで石栗さん、映ってたよと他の利用者さんからも聞きましたし。
石 テレビに顔が映ったら今後の展示も考えるよね(笑)。顔が映るのは嫌だし。
角 顔が映るのが嫌だと言っている中すみませんけど、これから石栗さんの写真撮影をさせてもらってもいいですか?
石 はい(笑)。先にトイレ行ってもいい?