開催レポート:わがままな音とにぎやかな風 vol.01
「知り合いの演奏を聴いてて、なんか不満そうなんですよ。自分を出せていないというか。本人もグチグチ言ってたし。わがままな音が出せる楽団っていいなと思ったんですけど,、どうですかね。集団の中で我を通すことが、どの程度許されるかチャレンジしてみたいですね。」
おおよそ1年前にかがやき福祉会の近藤さんからいただいた相談である。
センターでは、これまで音楽に関わる相談は著作権に関わるものはあったが、具体的にプロジェクトを立ち上げていくというものはなかった(面白いことで、これを機に同様の相談が増え始めた)。
そもそも当たり前の話である。日常に音楽は溢れているし、逆に音楽を遮断することは至難なことだろう。何かを歌ったり、弾いたり、叩いたり、鳴らしたり。やらされた経験も含め音楽と接する機会・経験は多い。障害のある方にとっても状況はそんなに変わらないのではと思う。
25年ほど前に放映された、障害のある方の暮らしを題材にしたドラマでも音楽を演奏していたシーンが印象的であった。最終話に自身らの未来に向けて演奏会を開催して終わる。
センターとして、本腰を入れて障害のある方の表現活動をサポートしていこう(今更感はあるが)と思ったはいいが、なにせノウハウがない。
一方で、初めてにしては難易度の高い相談である。
ブロック事業でDo It!!という音楽のイベントを協働で開催しているが、基本的にはアーティストの発掘と発表の機会を目的とした内容である。
楽団の立上げは、予算の確保や広報、出演者の調整とはまた違うタスクがある(と思う)。
その時に相談したのが、石井さんである。
石井さんは、新潟県とも比較的距離が近い埼玉県東松山市で活動するNPO法人jogoの代表理事であり、法人が運営するSideWinDerのギターボーカルである。Do It!!を通じて、石井さんとはこれまで会場で3回ほど会っているのだが旅費の請求書の様式と返信用封筒を渡すぐらいでほとんど関わりがなかった。ただ、お互いに相談事がありその流れで、今回の楽団の立上げに協力してもらうことになった。
2016年結成。バンドを軸にした事業所を独立開設し、福祉の常識に囚われない独自のスタイルで活動中。メンバーそれぞれが生きづらさや自身が持つ障害に悩まされながらも、音楽をやっている時間だけは常にオルタナティブな道を選び、来てくれたオーディエンスの体と心を揺さぶる時間を与えることを目的として表現活動を行っている。日々積み上げ研いできた音楽を正面からぶつけ、これからも「これぞSideWinDer!」としか表現のできない音を鳴らし続けていく。
石井さんが、いつも言っている「ステージに立った以上、みんな平等でライバルだから。」という言葉も今回のわがままな音のコンセプトに合っていると思った。
そんな石井さんから、楽団を立ち上げるにあたって4つのポイントを意識しながら進めていこうとアドバイスをもらった。
1 非日常やこれまでに体験したことのない音楽の楽しみ方を味わう。
2 立上げのサポートを受けながらどのような楽団にしていきたいかイメージできるようにする。
3 バンドを組んでみたり楽器やPA機材に触れることで、必要なメンバーや楽器を検討し、良い音を奏でるための知識を習得する。
4 音楽活動を行っている個人・団体とつながりをつくる。
このサポートを更に重厚にするために紹介されたのが諏訪さんである。
諏訪さんは、「障害者&福祉事業所が行う音楽活動の支援」をミッションに2024年7月にHEAD MUSIC合同会社(神奈川県海老名市)を立ち上げた。
楽曲の配信やライブ開催など、演奏機会の創出をサポートすることを通じて、障害者の社会参加を推進している。
お二人の力を借り、一気に道が開けた。
かがやき福祉会が掲げているコンセプトはかなり挑戦的であり、ロックである。その気風が大事で経験の有無に関わらず、似た者同士が接点を持ちその中でお互いが学んでいくことが大切なのではという結論に至った。
まだ姿すら見えていない楽団と、SideWinDerの対バンが決まった。
2024年11月9日(土)13:00~15:00頃
会場は、道の駅あがの。不特定多数の方が往来する会場での野外ライブである。
わがままな音にチャレンジするのだから、やるしかないとかがやき福祉会の近藤さんの意気込み。秋の寒空の新潟、当日はむしろ嵐になれば良いとのこと。
これが『わがままな音とにぎやかな風 vol.1』である。
野外ライブが決まり、準備が急ピッチで進む。
その中で、2つ問題が発生した。
1つ目が、野外ライブに堪え得るPA機材とドラムフルセットが無い事。
2つ目が、PA機材があっても設営・操作できないこと。
致命的である。センターとしても何を準備して良いかさっぱり分からない。
早速、諏訪さんがサポートしてくれて諏訪さんとSideWinDerで準備する機材、現地で準備するものを振り分けてくれた。
機材については、センターと関りのある大学教員がコーディネートし、NPO法人骨髄バンク命のアサガオにいがた様、KINGOカレッジ様から多大な協力を得ることができた。お三方に心より感謝するとともに、こうしたつながりをつくることもセンターの役割だと再認識した。
こうした準備をしつつ、かがやき福祉会の出演者が決まった。
バンド:くじらである。
2022年から活動開始。偶然にも集まったメンバーたちが、協力しながらバンド活動を始める。時には、冷たいオーディエンスの反応もあったりしたが、継続は力なりと言い聞かせ、カバーやオリジナルに取り組み、みんなで一丸となり練習を積み重ねてきた。そして、懸命に取り組んできたそんな【くじら】がオリジナル曲2曲をひっさげ、波に乗って登場。情熱的で激しく、そして切ないビートを堪能してください。
ここまでくれば、後はライブを待つばかりである。
ただ、石井さん、諏訪さんに譲れないものが1つあった。
「主役はくじらですよ。トリを必ずお願いします。」
出演者が決まり、諏訪さんがすぐにプレスリリースを各メディアに発信した。ネット上にかがやき福祉会の名前がいくつも掲載され全ての準備が整った。
11月9日(土)。近藤さんの願いとは裏腹に、阿賀野市の空は奇跡のような青空だった(心から良かった)。
午前9:00に集合し、10:00には設営完了。ただただ諏訪さんとSideWinDerの皆さんが組み立てていくのを見守っていたのだが、くじらのメンバーは興味深々の様子。ステージの光景にモチベーションがあがっていた。
空いた時間に、親子連れの方が交代でドラムを叩いていく。特にシンバルを気に入った子が多い様子だった。お母さんが、急にドラムを叩きだし周囲を驚かせていた。昔、バンドをやっていたらしい。近藤さんがくじらへのスカウトをしたが失敗に終わったようだ。
ドラムフルセットが置いてあるだけで、随分場所の雰囲気や人の関わり方が変わるなと一同で話をした。音楽の力は偉大である。
リハーサルでくじらのメンバーAがギターを弾いた。
会場にどよめきが起こった。
石井さんが「パねっすね」と語りかけるとAは嬉しそうだった。
まだ見ぬアーティストが阿賀野市に眠っていた。
13:00。
SideWinDerの奏でる音ともにわがままな音が開演した。
空模様は更に快晴となり、この逆光である。
イベントを目的に来た方だけでなく、買い物や観光の方も足を止めていた。
後ろの広場で音を楽しんでいる方もいた。
こどもたちは、初めて聴く大音量の音に最初は怖がり耳を塞ぎつつ、徐々に最前列に近づいていく。
お年を召された方が多かったのも予期せぬ驚きであった。
そしてクジラの出番がやってきた。
当初はオリジナルメンバーの3人での出演予定であったが、リハーサルを通じてドラム、ギターもほしいということになった。
SideWinDerからサポートメンバーが入り、もれなくタンバリンとダンサーもついてきた。更に会場からも謎のダンサーが加わった。
くじら側から、セッションを求めるとは予想だにしなかった。
こうしてわがままな音 にぎやかな風vol.1は幕を閉じた。
楽(らく)団にしよう。
近藤さんから発せられたかがやき福祉会の音楽活動のコンセプトである。今回のライブを通じて閃いたとのこと。
楽に音楽に接して、自由にチームをつくり、各々で楽しむ。
全県から100人ぐらいメンバーを集めて、イベントがあれば都度興味がある人や都合のつく人でチームをつくり出演する。
有り余る表現欲求を持っているある意味危険な方の姿も容易に想像できるが、きっとかがやき福祉会さんと近藤さんの包容力をもってすれば受け止めてくれるだろう。
センターとしても音楽活動を希望する方の受け皿があるととても有難い。
会場にいた謎のダンサーは早速加入したようである。
それぞれの感想
くじら
メンバーA
こうした機会があったらまたギターを弾きたいですね。オリジナルの楽曲も世に広めていきたい気持ちはありましたが、全然方法が分かりませんでした。色んな話がきけて、今後も音楽を続けていきたいと思いました。ライブハウスで演奏するのは夢ですね。
メンバーB
SideWinDerの事をもっと聞きたいです。福祉施設がライブハウスで自分たちでイベントができるなんて考えてもいませんでした。ライブハウスでやってみたいですね。色々な歌を歌えるようチャレンジします。
メンバーC
くじらは改名します。同名のバンドが既にあったようです。黒シャチかペンギンが良いと思っています。本当に良い機会をもらいました。楽器も色々と揃えたくなっちゃいますね。もちろんメンバーも。仕事と折り合いをつけながらやっていきます。決して後ろ向きじゃないですからね。
石井さん
世の中にはかっこいいバンド、アーティストが腐るほど居て、気の合う仲間で繋がって、音を奏でちゃえばもうライブはすぐ出来ちゃって!
俺たちは、それを繋いで少し手助けをして、後は勝手に走り出すように、大袈裟に御輿を回してあげればいい。またやりたい、もう、すぐやりたい、次はこうしたいって思いが芽吹いてくれると最高だと思う。そんな中でSideWinDer的にはまた対バンしたい、って思ってもらえたらなお嬉しいです。
諏訪さん
くじらさんのように「バンドとしてはメンバー足りないけど、とにかく演奏の場を!」みたいな人たちには、今回SideWinDerのメンバーとセッションしたみたいに足りないパートを他のバンドや出演者で補う、みたいなのも今後の取り組みに加えていきたいですね。「フルバンドだとこんなに気持ちいいんだぞ!仲間増やそうぜ!」みたいな刺激になると思いました。 あと単純に一緒にイベント作ってる仲間意識みたいなものが生まれるからすごくいいなと。
センター(坂野)
音楽の経験もろくにない中で、仕事柄イベントの運営面、特に予算や出演者の募集という業務はやったことがありました。それはそれでやりがいのある仕事ですが、今回はスタートアップ支援の醍醐味を肌で感じました。新潟県で必要なことが朧気ながら見えてきた気がします。各地で色んな火を熾していきたいと思います。あと、センターだと相談に対して、いいねと言ってしまうのですが、石井さん、諏訪さんの姿勢を見て相談をする方も受けるほうも責任感をもたないといけないなと思いました。夢を諦めさせてはいけないけど、夢のために必要な現実も伝えること。タダじゃないこともいっぱいあるよと。
NHS
N•••ナチュラル(新潟県アール・ブリュット・サポート・センターNASC)
H•••ハーモニー(HEAD MUSIC合同会社)
S•••サービス(SideWinDer)
今回のプロジェクトは、相談者のかがやき福祉会を中心に、窓口(NASC)⇒企画(HM)⇒実行(SWD)とチームで対応した。
それぞれが役割分担をし、楽(らく)団が動き出した。色々やったが、何がポイントだったかというと繋ぐ部分だったと思う。
音楽のつなぎ方は面白い。
石井さんの言葉を借りると、繋ぐ手助けをして後は自走するように最初の段階でぐるぐる回したことが今回は良かった。
クラシックや様々な国の音楽では繋ぎ方も違うのであろう。
新潟県では、ナチュラル・ハーモニー・サービスを通じた繋ぎを今後も展開していきたい(タダじゃないよ)。